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?V章 姿勢・歩行調整能の発育と退行

 

プロジェクトのねらいとまとめ〔調整力専門委員会〕

委員長 金子 分宥
われわれは日常、身体のもつエネルギー資源を巧みに活用しながら立つ・歩く・走る・跳ぶといった運動を何気なく行っているが、ひとたび運動調節機能が失調すると、巧みな動作どころか目的の場所への移動すらおぼつかなくなる。こうした基本的な調整能は生後のいつごろ獲得されでどのように発達してきたのか、またそれが高齢期を迎えてどのように退行するのかという問題は、幼児から高齢者までの生涯にわたる健康・体力づくりの必要性が叫ばれている今日、きわめて重要な課題である。そこで本委員会では「調整力の発達と老化」をテーマにすえて、下記の委員(*注)を班長とする6つの班を構成し、石河利寛、小野三嗣両顧問の貴重なアドバイスを得ながら研究を進めてきた。以下は3年計画の中間点にあたる2年目の研究成果の概要である。
<*注>岡本地(関西医科大)、宮丸凱史(筑波大)、森下はるみ(お茶の水女子大)、木村みさか(京都府立医科大)、渡部和彦(広島大)、金子分有(大阪体大)

1.発育にともなう調整力の発達

人間が他の動物と明瞭に区別される生物学的特徴は「直立二足歩行ができる」という点にあるが、生まれながらにして二足歩行ができるわけではない。それができるのは生後いつ頃から、どんなプロセスを経て発達するのか。この問題にとり組む岡本班の研究では、昨年、両脇を抱えられた状態でなされる原始歩行が、誕生から4ヵ月ごろまでの間に、ゆっくりした踵からの着床の段階から、やがて「足音が聞こえるほど」力強いつま先着床の段階に発展するというドラマチックな発達過程を明らかにした。今年度の課題は「独立歩行が開始する1歳前後の歩行動作」に展開し、独立歩行の開始1ヵ月くらいまでの「つま先(または足底全面)で着床する不安定な歩行」が、2〜3ヵ月するうちに不安定歩行の原因となる腓腹筋の活動が減少して、「踵から着床する安定歩行」になることを報告している。
またこの研究で岡本らは、最も安定した成人型歩行が、腓腹筋の活動がみられず前頸骨筋のみの活動で踵から着床する歩行であること、及びそこに至る「段階」を知るための「歩行安定度指標」を示している。
昨年「初めての走運動」のビデオ撮影に成功し、両足が宙に浮く走運動の始まりについ

 

 

 

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