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2. 中高年者の栄養

-すこやかな長寿のために-
国立健康・栄養研究所長 小林修平
はじめに
人間のライフステージを大きく成長期、成人期、及び老年期に分けるとすれば、中高年者はほぼ成人期後半以降を指すものと思われ、おおむね35才以上と考えてよかろう。体格的には成長が止まってからしばらく経ち、身長などはむしろ縮小の傾向も見られるようになり、身体の機能上も一般に低下する傾向が目立ってくる。体内の物質代謝機能の反映である栄養生理学的機能もしたがって一般に低下する時期に当たる。このように考えるとややマイナスイメージの印象がどうしても避けられない年齢層であるが、それまでの時期はいわば準備期であり、完成された個性や、蓄積された知識や経験を生かす本当の人生はここから始まるという視点から見れば、「熟年」とか「実年」などという表現にまつまでもなく、内面的にも対外的にも最も重要な時期といわれるのもうなずけるのである。
今回のテーマの対象となっている「中高年」は、一般にさらにいくつかのステージに区分されるようである。行政上65才以上を「高齢者」と呼んでいるので、35才から64才までが「中年」ということになるが、さらにこの中年のうちおおむね後半期あたりを「壮年」と呼ばれている。「熟年」とか、「実年」とかいう新造語の対象年齢も、狭くとればこの辺になろう。最近、それまで十把一からげにされていた65才以上の高齢期を、さらに前期高齢期(75才まで)とそれ以後の後期高齢期に分ける考えが一般的になりつつある。後に述べるようにこの考え方は、健康にかかわる生理学的特性を実践に生かす場ではとくに重要な意義をもつものと思われる。女性の場合は、そのほかに更年期という、生理学的に極めて特徴的な移行期を有しており、この時期の前後の生理学的な差異については栄養学的にもなお未開拓の対象ながら、やはり最近極めて注目されているテーマである。

中高年のエネルギー代謝にかかわる栄養生理

ヒトを含め、およそ生物一般に共通する基本的生命現象のうち、増殖と並んで最も基本的な機能がエネルギー転換機能、ないしエネルギー代謝機能である。エネルギー代謝は、食物中に含まれるエネルギー源物質、主として糖質、脂質、たんぱく質を体内に吸収し、あるいはいったん体内に貯蔵された脂肪やグリコーゲンを動員し、化学的変化によりこれらに含まれる科学的エネルギーをいったん最も使いやすい共通のエネルギー源物質であるATPに変換するプロセスであり、ATPはさらに身体内の複雑なメカニズムを介して身

 

 

 

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