
や人工化学物質などによる2次的な汚染の影響が深刻な問題となっている。3.2で紹介したSafjordの環境回復事例はその代表的なものである。水俣湾の水銀汚染とその後の環境回復のプロセスにはその意味で非常に関心が高く、訪問した際にも環境回復のための方法の決定の仕方や回復に要する時間と経費、浚渫した汚泥の処理方法などについて質問を受けた。生物の機能を利用した環境回復の方法(bioremediation)も話題にのぼったが、ノルウェーではまだ研究事例が少なく本格的な取り組みはこれからの課題となっている。 一方、極域では汚染はまだ顕在化していないが、不法に投棄された放射性廃棄物の影響をはじめ将来にわたって環境変化の監視を必要とするさまざまな問題がある。環境保全のための最も効果的な方法の一つとして保護区域の設定が注目されているが、十分の効果をあげるためには近隣の諸国との連携が不可欠であることはいうまでもない。また、トロムソ大学などで続けられている底棲生物の写真によるモニタリングのような息の長い地道な仕事の積み重ねがそうした動きを支える基盤になっていることを強調しておきたい。 5. 結語
ノルウェーのGLOBEC研究計画(3.11参照)をとりまとめた報告書の冒頭には、ノルウェーの資源・海洋研究の黄金時代を築いたとされる二人の研究者、Fridtjof NansenとJohan Hjortの写真がかかげられている。この二人に代表される100年余りに及ぶ研究の歴史と成果の積み重ねが、生物資源の変動までつながりを持った形で海洋生態系の研究が展開される素地となっていることを実感させられる。海域の多くが北極圏に位置するノルウェーでは、北大西洋海流系の暖水の挙動が生物輸送や水温場の変動と密接な関連を持ち、またそうした環境変動に生物が比較的鋭敏に反応する。そのため資源の収容力を規定する要因として海洋の物理過程の寄与の大きさが強調される向きもあるのかもしれないが、生態系の枠組みの中で資源変動や資源の増殖の問題を考えていくことはわが国の資源・海洋研究の今後にとっても非常に重要である。また、物理過程の変化に駆動される海洋生態系のダイナミックな変動の仕組みをとらえるための手法として、モデリングがさまざまな問題に活用されている点もノルウェーの研究の特色の一つといえる。モデルをたんなる予測の手段にとどめず、むしろフィールド研究を先導する形でモデリングによって海洋変動の機構を探るような試みがわが国でもこれから必要である。 折しもこの報告の最終的なとりまとめをしている時に、日本海でロシアのタンカーからの重油流出事故が報じられた。油の回収・処理の初動の遅れもあって、海岸まで漂流・漂
前ページ 目次へ 次ページ
|

|