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や容積を計測することができる(図18)。

3.8 トロムソ大学水産大学校

訪問した海洋システム生態学研究室は、Wassmann教授を中心としてフィヨルドや陸棚海域、外洋における炭素の循環と収支、とくに上層で生産された有機炭素の下層への沈降フラックスの変動機構に関する研究に精力的に取り組んでおられた。炭素の鉛直方向の輸送は、海洋生態系の物質循環とくにプランクトン系と底棲生物系の生産システムを結びつける重要なプロセスの一つである。あいにくWassmann教授は海外出張で不在であったが、共同研究者のReigstadさんとAndreassenさんから話をうかがうことができた。
Reigstadさんは主にフィヨルド海域、Andreassenさんは陸棚から外洋の炭素の鉛直フラックスの研究に従事しておられた。
これまでの研究結果で注目されるのは、ノルウェー北部海域における炭素の鉛直フラックスが植物プランクトンの増殖に加えて、外海水の移流とそれに伴う栄養物質の流入や動物プランクトンの量・種組成の変動によって大きく規定されていることである。図19は一例としてトロムソ近郊のバルスフィヨルドにおける有機炭素の沈降フラックスに関する調査結果を示したものである。塩分の変化の様子から、沖合水との海水交換の活発な年(上段)に沈降フラックスが著しく増加していることが分かる。このようなepisodicな物理過程の変化の影響の全体像をとらえるため、さらに継続的な調査が必要となっている。動物プランクトンの摂食が炭素の循環に及ぼす影響についても研究事例を増やしながら定量的な検討を加える必要がある。
現在はまた、MARICULTの一環として栄養塩とくにケイ素の添加がプランクトン食物網や炭素の鉛直フラックスに与える影響について、メソコズム(図12)を用いた実験的な研究が開始されている。一般にケイ素の添加は上層の珪藻の増殖を促進する効果を持ち、鉛直フラックスを増加させる。したがって、富栄養海域でのケイ素添加は上層の水質改善に寄与する反面、底層の貧酸素化を助長する危険性を持つことが示唆されている。
一方、海洋生物学研究所のGalliksen教授は、主にノルウェー沿岸海域の生物相や生物多様性の長期的な変化の問題に取り組んでおられ、海洋保護区域(Marine Researve)の設定に関する新たな計画について話をしてもらった。現在はさらに、ノルウェー北方のスバルバード島の沿岸に水中カメラを設置し、写真計測による底棲生物のモニタリングを続けておられる。

 

 

 

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