
ノルウェーにおける海洋環境の保全・改善に関する調査研究の現状
東京大学海洋研究所助教授 中田英昭 はじめに
海洋環境保全・改善調査研究委員会の平成8年度における海外調査の候補地としてノルウェーが選定され、海洋環境の保全・改善あるいは海域利用の現状について最新の情報を収集すべく、本報告者(中田)が現地に派遣されることとなった。ノルウェーはわが国と同じく、海運、造船、漁業養殖業など海洋にかかわる産業活動が活発で、海洋に関する基礎的な調査研究が古くから精力的に進められている。また、沿岸には至る所に氷河による浸食でできた深い谷状の入江(フィヨルド)があり、その下層には栄養分に富む深層水が分布している。最近わが国でも海洋科学技術センターや高知県をはじめ幾つかの自治体で、深層水を汲み上げて水産増養殖などに有効に利用するための試験研究が行われているが、ノルウェーでもフィヨルド深層水の利用や保全に関する関心はきわめて高い。さらには、大陸棚における石油・天然ガス開発、海水交換の小さいフィヨルドの奥部での養殖生産の拡大や工場の立地に伴う地域的な海洋汚染に加えて、最近は北海やバルト海、極域のロシア沿岸などからの汚染物質の流入・蓄積、あるいは酸性雨など大気を経由した汚染の深刻化など、グローバルな視点での対応を必要とする新たな問題が出てきている。こうした点が海外調査の候補地としてノルウェーが選定された背景となっている。 現地調査は平成8年9月30日から10月11日まで実施し、この間にオスロ、トロンハイム、トロムソ、ベルゲン(それぞれの位置を図1に示す)の大学、政府研究機関ならびに関連の深い民間研究機関(合計16カ所)を訪問して情報の収集と検討を行った。結果の概要を以下に報告する。 1. ノルウェー周辺海域の海洋学的な特性ならびに主要な調査研究機関
ノルウェーは北緯58度から71度まで南北1,750kmに及ぶ細長い国で、その南側は北海(North Sea)、西側はノルウェー海、北側はバレンツ海にそれぞれ面している。ノルウェー海の大部分とバレンツ海は北極圏に含まれる。この海域の気候や海況を大きく規定しているのは、北大西洋の亜熱帯循環系を構成する北大西洋海流の一部で、スコットラン
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