(参考)
(訴訟例:世田谷通信ケーブル火災)
1984年11月16日、東京の世田谷電話局地下の通信ケーブル専用構内で火災が発生し電話ケーブルが焼損したため、世田谷区東部、渋谷・目黒区の一部で、一般加入電話約8万9千回線、データ通信回線・専用線など約3千回線が不通となった。直ちに復旧作業が始められたが、一般加入電話が回復し始めたのは20日であり、24日ようやく全面回復した。
この事故に対し、電話が不通となったため出前や注文が止まったとして地元の飲食店主ら90人が原告となり、日本電信電話公社(現NTT)に対して、総額4700万円の損害(売上減少の営業損害、通信途絶のため商売がどうなってしまうか悩まされた精神的苦痛による慰謝料)の賠償請求をした。債務不履行責任、国家賠償法第一条の責任及び使用者責任、使用者責任、工作物責任、営造物責任について争われたが、これを肯定するに足る証拠がないとし棄却された。また、この事故の実際の保障は「料金返還額」(公衆電気通信法第78条)と「損害賠償額」の合計でなされ、支払は12月分ないし1月分の電話料金と相殺し清算された。
[料金の返還]:(基本科+付加使用料など)×対象日数/30日
[損害賠償額]:(基本科+付加使用料など)×対象日数/30日×5倍(法定最高額)
?F このような事故に基づく損害を、オープンなネットワークという性質の強いインターネットにおいては、そのまま応用するのは困難と思われるが、国内でインターネットが依存している高速専用線、公衆電話回線で同様の事故が発生した場合でも、NTTの約款により、料金返還及び限度付きの損害賠償がなされることになっている。すなわち、第一種電気通信事業者も特別及び一般第二種電気通信事業者(インターネットサービスプロバイダーが該当)も、約款を定めて責任制限が認められているのが通常である。
?G いずれの場合も、損害賠償の制限に関する条項についてはあまりに一方的な場合や、それが著しく合理性を欠いている場合は、公序良俗違反(民法90条違反)として無効とされる可能性がある。しかし、通常の過失による事故に関しては、一定の損害賠償額の制限を認めざるを得ないであろう。実務的には、過失の程度によっては損失の分担についての合理的な基準により解決する必要があると思われる。