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ここ数年、大規模な船舶からの油流出事故が続いている。サブスタンダード船や老齢船が、いまだ多く航行しており、世界の海はいつも油流出事故の危険にさらされているといえる。 昨年十二月十二日、マルタ船籍のタンカー「イリカ号」(一万九千六百六十六総トン)が、フランス西部沿岸のビスケー湾において、折からの強風と波高六メートルの高波により、船体が真っ二つに割れ沈没した。「イリカ号」は、船齢二十五年の老齢船、二十六人のインド人クルーにより、オランダからイタリアヘ向け航行していた。積み荷は、C重油二万六千トン。船体から漏れ出た重油の量は、海水を含み二万キロリットルにも達している。 フランスでは、漂着した重油の回収が進められているが、冬場の荒天により作業は、困難を極めている。 わが国沿岸における油流出事故では、九七年一月に発生したロシア船籍タンカー「ナホトカ号」による重油流出事故が記憶に新しい。「ナホトカ号」事件では、冬の日本海の強風と荒波により、船体が折れ、六千キロリットルを超える重油が流出、日本海沿岸の広範な地域に漂着し、多大な損書を与えた。 油の回収作業は、荒天の中、海上災害防止センターを中心に進められた。浜辺に集い作業に従事する多くのボランティアの姿が、新聞の一面で紹介されボランティア時代の到来と称えられた。 航行の難所マラッカ・シンガポール海峡をはじめとした東南アジア海域では、海難事故により油が流出した場合の近隣国間の協力体制が九一年に構築されている。 この東南アジア海域における油流出事故への国際協力体制は、オスパー計画と呼ばれ、日本財団からの八億円の拠出などにより、フィリピン、インドネシア、タイ、シンガポール、ブルネイ、マレーシアの六カ国の十一カ所にオイルフェンス、油回収機、油貯蔵タンク等が配備されている。また、油流出時の事故対応情報を取り扱う情報ネットワークシステムが構築されている。 オスパー計画では、油流出事故に対する国際協力体制の構築が重要なポイントであった。東南アジア諸国は、歴史的または宗教的な背景があり、領海を超越した協力体制の構築には幾多の障害があった。 しかし、海域利用国として各国間の調整にあたった日本海難防止協会の前常務理事・池上氏など日本人スタッフの尽力もあり、現在では関係国による合同流出油防除演習などが実施され、協力体制が確立している。 九七年シンガポール海峡の航行分離帯内でタンカー同士が衝突し、約二万五千トンの重油が流出する事故が起きた。この事故は、「エボイコス号」事件と呼ばれているものであるが、国際的に重要な航路上で起こった事故であり、世界的にも注目された。 日本海難防止協会シンガポール連絡事務所が情報収集にあたり、わが国からも海上保安庁機動防除隊が、油回収作業の技術協力に赴いた。 この事故においてもオスパー計画により配備されたオイルフェンスなどの資機材が利用されている。 オスパー計画は、運用能力の向上や資機材の補充や整理などを話し合うため、加盟国、IMO(国際海事機関)、日本の参加により毎年管理委員会を開催している。アジア諸国の経済危機などの影響により各国の対応の差が出ているようだが、海を守るための国際協力体制オスパー計画は、着実にアジアの海辺に根を下ろしている。 海は食糧資源を確保する場としても人類の重要な財産といえる。海を守るための国や地域を越えた協力体制の構築と維持は、世界中の人々の安定した暮らしに欠かせない重要な要素である。
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