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(昭和60年度〜平成3年度)
第2節 量から質の時代へ
3.先駆的・モデル的事業の展開 「ケアポート庄川」の建設
砺波平野の東南に位置する富山県庄川町は人口約7,600人の町である。65歳以上の高齢者が全体の18.5%を占めるこの町に、平成4年4月、全80室のすべてが個室で、しかもわが国の老人福祉施設で最先端の設備を備えた総合老人福祉施設「ケアポート庄川」がオープンした。
「ケアポート庄川」は、寝たきり老人や痴呆性老人など、障害をもつ高齢者の自立と家庭復帰を支援するため、本会が(福)庄川福祉会に協力して完成したものである。本会では「社会福祉施設モデルタイプ構築に関する調査研究委員会」(委員長:日野原重明聖路加看護大学学長)を設け、今日、特に需要が高まっている特別養護老人ホームの理想的なあり方を研究し、同委員会の提案に沿って、総工費30億8,000万円(うち本会補助16億円)が投入された。
高齢化社会の到来は必然的に、なんらかの介護を受ける高齢者や、長期の療養を要する高齢者の増加をもたらす。厚生省の発表によると、65歳以上の高齢者人口1,400万人(平成2年)のうち約60万人が入院し、約700万人が通院治療を受けていると推測されている。また、寝たきり老人の数は将来70万人から140万人に増加し、介護を受ける高齢者の数は2倍以上になるものと見込まれている。
しかしながら、わが国の特別養護老人ホームの数は、到底需要を賄える状況とはなっておらず、このため一般病院の病床が高齢者で占有されたり、また、退院できる状況にある高齢者が自宅での受入れ態勢不備なため、不必要な入院をつづけるなどのケースが生じている。この問題を解決するため、厚生省は施設対策10か年事業として特別養護老人ホームを24万に増床させることを計画している。こうした情勢をふまえ、本会のモデルタイプ構築委員会は、地域住民が豊かな老後を築く拠点施設として、健康・医療・福祉の各般にわたる需要に応え、町民や地域高齢者の生活に密着した21世紀を展望する総合的な施設として「ケアポート庄川」構想を策定した。
構想立案にあたっては、まず、従来の特別養護老人ホームのかかえる、入所者の尊厳を守り高齢者が生き甲斐を感じられる生活の場をつくろうとする視点が十分でない、看護や介護を効果的・効率的に提供しようとする配慮に欠ける、地域社会との関係をもたず施設自体が閉鎖的存在となっている、等の問題点を洗い出し、その克服をめざした。また、冬の富山は積雪が多く、生活の大部分が屋内で営まれるなどの点にも十分に留意し、明るい生き甲斐のもてる施設の建設をめざした。
こうして本会における高齢者福祉モデル施設の第1号として建設された「ケアポート庄川」は、ゆったりとした余裕のある広さを誇り、全室個室というわが国の老人福祉施設では先例のない画期的なものとなった。しかも、室内はパステルカラーで統一され、しやれたワンルームマンションの感じである。これにより本会は入所者のプライバシーの保護だけでなく、自立促進の面でも大きな効果を期待した。
また、この施設は生活の場としての老人保健施設、利用の場としてのデイサービスセンター・老人福祉センター、アトリウムを中心とした交流の場の3ゾーンからなる機能分科型の複合施設である。アトリウムは四季を通じ自然光が降り注ぐ、2階まで吹き抜けの開放的な大空間とした。この周辺に皆が集い、楽しい食事や喫茶などいろいろな使い方ができるようホテルのロビー並みの交流ゾーンを備え、従来の老人施設にありがちな暗いイメージを一新した。
さらに、つねに地域社会との交流を保つようにしたのも、この施設の大きな特色の一つであり、町内や近隣のボランティア約400人が常時協力する体制をととのえた。このほか施設内には、トレーニングルーム、浴室、寝たきり老人のための特殊浴槽等が完備され、快適な生活環境が提供されている。
以上の「ケアポート庄川」建設事業は、老人福祉施設と地域の福祉・保健サービスとの連携、地域住民の理解・協力、職員体制を含む介護ノウハウの開発など、従来の制度・運営の総合的な改革・改善のうえに、21世紀に向けて高齢者福祉サービスを一層充実させ、より豊かな新しい時代にふさわしい特別養護老人ホームの実現を期すためのモデルケースとして実施したものである。本会はこの画期的な施設が今後の老人福祉施設を建設する指針となり、福祉間題を大きく前進させる起爆剤となることを願っている。
「ケアポート庄川」外観

●構造・規模
   鉄筋コンクリート造2階建
   延床面積・・・・・・・・・・・・・・・・・・6,556u
●施設構成
   老人保健施設(定員80名)・・・・・5,130u
   デイサービスセンター・・・・・・・・・ 607u
   老人福祉センターA型・・・・・・・・  819u



老人保健施設・介助浴室




療養室



アトリウムでの中学生による演奏会

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