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(昭和60年度〜平成3年度)
第1節 夢のある造船業へ
1.先端技術の研究開発 新形式超高速船の研究開発
21世紀に向けて経済社会が活力ある発展を果たしていくためには、その基幹となる輸送体系の飛躍的な進展が必要であり、なかでも物流の高速化、すなわち輸送時間の短縮を図ることが強く要請されていた。
今までの一般的な船舶は、タンカー、バルクキャリアー、コンテナ船等で、時速20kmから40km程度の低速ないし中速域で、大量輸送するのが特徴であった。しかしオイルショック以降の経済社会構造の変化に伴い、製品の多品種少量生産、生産拠点の海外展開などが行われるようになり、海上輸送にも高速化が求められるようになった。
一方、高速輸送の代表とみなされている航空機は、世界的な経済成長の波に乗って製品や食品の輸送を中心に、また、陸上輸送ではトラックが、ドア・ツー・ドアのサービスと合理的な運賃で、それぞれ急激な発展を遂げていったが、スピード・運賃・輸送量の面からそのギャップが大きく、これらの中間的な輸送機関の実現が期待されていた。また航空機やトラックは、空港や高速道路といった設備の面から限界があった。
このような状況のなかで、船舶の高速化が課題として浮上してきたのであるが、船舶は、速度があがるに従って急速に水の抵抗が増えるため、時速約45kmが経済性の面で高速化の限界となっていた。また高速船の代表である水中翼船やホバークラフトは時速80kmの速度で走っているが、短距離の小型旅客船程度の用途に限られていた。そこで登場したのが、新形式超高速船テクノスーパーライナー’93であった。
テクノスーパーライナー’93の開発目標は、速力50ノット(時速93km)、貨物積載重量約1,000トン、航続距離500海里(約930km)以上、荒れた海でも安全に航行でき、耐航性に優れていることという条件で、従来の船舶の限界を超えた性能をもっている新形式の超高速船であった。
運輸省では、次世代船舶の研究開発の一環として、テクノスーパーライナー’93の研究開発を取り上げることを決定し、民間の技術力を統合し、研究開発を総合的かつ効率的に推進するために、鉱工業技術研究組合法に基づき、平成元年7月、テクノスーパーライナー技術研究組合を設立し、5年度までの5か年計画で、テクノスーパーライナー’93の基礎研究に着手した。同組合には石川島播磨重工業(株)、川崎重工業(株)、住友重機械工業(株)、日本鋼管(株)、日立造船(株)、三井造船(株)、三菱重工業(株)の7社が参加している。
船の重量を支える方式には、浮力支持方式、揚力支持方式、空気圧力支持方式があったが、いずれも一長一短で、速力50ノット、貨物積載重量約1,000トン、航続距離500海里以上、その他の条件を満たすことは困難であった。したがって本開発研究は、これらの方式を適切に組み合わせて、1)全体システムの総合研究、2)船型性能の研究、3)船体構造の研究、4)新材料の研究、5)推進伝達系の研究、6)船体姿勢制御システムの研究、7)実海域模型船試験研究、を実施する計画で、上記条件の目標性能を満たす外洋航行型の商船を、実際に設計できるような基礎技術、要素技術を確立することを目標としている。
このテクノスーパーライナー’93が、実際に航行するようになると、関東と北海道、あるいは東海と九州の間は10時間程度で、またわが国と東南アジアとの間は1〜2日で結ばれるようになり、革新的な高速輸送体系が確立されることになる。また国内の航路、およびわが国と東南アジアの一部を結ぶ航路では、速力、積載重量を変えることなく対応でき、その他の東南アジアを結ぶ航路では、速力・積載重量を若干下げて対応することができるようになる。さらに耐航性がよく、揺れが少なく、乗り心地がよいという特性から、フェリーや高速旅客船等にも採用され、国内の離島などの地理的ハンディキャップをもった地域にも、観光、地場産業の隆盛など、地域の飛躍的な発展をもたらす交通機関となることが期待される。
本会はこのような革新的な貨客輸送方式の実現を期待して、テクノスーパーライナー技術研究組合に補助を行い、本研究開発を支援している。

新形式超高速船の予想図(揚力
 式複合支持型)


 実験船(空気圧力式複合支持型)

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