最近のわが国における極低温技術および超電導技術の進歩はめざましいものがあるが、これらの技術を応用した超電導電磁推進船の研究は、わが国においてはすでに昭和55年ごろから行われており、現在では世界のトツプレベルにある。 電磁気学の基本法則の一つに、「フレミングの左手の法則」と呼ばれる法則がある。左手の親指、人差指、中指を互いに直角になるように開き、人差指方向に磁場を加え、中指方向に電流を流すと、親指方向に電磁力が発生するというものである。超電導電磁推進船の推進原理はこの法則を応用したもので、船体に固定した超電導磁石によって海水中に磁場をつくり、この磁場に直角に交わるように海水中に電流を流すと、海水に電磁力が発生し、その反力によって船は進む。したがってスクリューは全く不要であり、スクリュー船に比べて、1)振動や騒音がほとんどない、2)効率よく高速度を出すことができる、3)構造が簡単なのでエネルギーが少なくてすむ、4)運航コストが安くなる、5)操縦性と制御性がよい、6)船型が自由に選べる、等の特徴がある。 (財)日本造船振興財団(現、(財)シップ・アンド・オーシャン財団)は、このような超電導に関する技術の現状をふまえ、超電導材料の開発ブームに先駆けて、60年度に開発研究委員会を発足させて、具体的な実施計画を策定のうえ、超電導電磁推進船の開発研究に着手した。超電導コイルの船舶推進装置への適応化をはじめ、電磁力で推進する船としての船型と推進装置の両面から超電導電磁推進システム全般にわたっての開発研究を実施し、63年7月には電磁力で船が進むことを実証するために、自己完結型超電導電磁推進模型船(長さ2.60m、幅0.94m、排水量420kg)を製作して、筑波研究所の水槽において世界で初めて自力航走実験に成功した。 平成元年度には、それまでの研究成果を基に実海域航走用の超電導電磁推進船の建造に着手し、2年7月には長さ約30m、幅約10m、排水量約185トンの実験船の船体を完成し、「ヤマト1」と命名した。 建造された超電導電磁推進実験船「ヤマト1」の推進システムの総合的な点検と装置・機器類の総合調整が行われたのち、平成4年7月には世界で初めての電磁力を推進力とするプロペラのない超電導電磁推進船の実海域における実証航行実験に成功した。 超電導電磁推進船は、将来的には半没水双胴船などの超高速船、海中作業船、砕氷船、潜水タンカーなどに活用できるほか、海洋プラットホーム用位置制御装置、港湾や河川での船舶の誘導推進システムにも広く応用することが可能で、大いに期待されている。 本開発研究は、低迷をつづけているわが国造船業界に大きな光明を与えるとともに、海運業界および造船関連業界にも大きなインパクトを与えることは間違いなく、その波及効果は計り知れないものがある。 本会はこの超電導電磁推進船の開発研究に資金を補助して、その促進を支援している。 |
超電導電磁推進船の予想図 (上:双胴型客船、中:潜水型 下:単胴型客船)
航行実験中の超電導電磁推進実験船「ヤマト1」 |