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(昭和37年度下半期〜45年度)
第3節 造船業への援助
7.船舶の安全航行支援 マラッカ・シンガポール海峡の航路啓開
マラッカ・シンガポール海峡は“海のシルクロード”と呼ばれ、インドネシア、マレーシア、シンガポールの3か国に囲まれた太平洋とインド洋を結ぶ重要な海上交通路である。長さ約580マイル、最狭幅約2.5マイルの潮流の変化の激しい浅瀬の点在する海峡であり、航海者にとっては最大の難所の一つとなっていた。昭和30年代に入ると、船舶の大型化とスピードアップに通航船腹量の激増が加わり、たえず海難事故が発生する危険にさらされるようになった。
それにもかかわらず、海図は戦前に作成された古くて精度の低いものしかなく、航行援助施設もシンガポール港周辺を除いて非常に乏しく、したがって航海者は航海計器と経験に頼って航行せざるをえず、そのうえ沿岸国民にとっては、生活に直結した漁場でもあることから、漁船と接近航行するたびに緊張せざるをえない状況にあった。
そのため40年代に入ると海運関係者から海図補正や水路調査の要望が続出しはじめた。このなかにあってIMO(国際海事機関)は国際重要海峡である同海峡の水路測量の実施と航行援助施設の設置、分離通行方式の採用を採択した。これを受けて、同海峡沿岸3か国が最大の受益国であるわが国に協力を要請してきたことから、わが国は44年4月1日、本会と日本海事財団を支援団体に、(社)日本船主協会、石油連盟、日本船舶保険連盟、(社)日本造船工業会を賛助会員にして、船舶の航行の安全を増進するために、マラッカ・シンガポール海峡およびその他必要な海域における航路整備の促進を図ることを目的として、(財)マラッカ海峡協議会を設立し、資金的・技術的に協力することになった。
本会は海峡航行の安全化はわが国のみならず世界の発展に寄与するとの考えに立ち、43年3月、初来日したスハルト・インドネシア大統領と笹川良一会長が会談した際に、継続的な援助を約束、まず同協議会の基本財産として3億円を拠出したのを皮切りに、以後毎年同協議会に対しマラッカ・シンガポール海峡航行援助施設整備事業補助金を交付しつづけており、平成3年までの累計拠出金は73億5,164万円にのぼっている。
同海峡は、わが国の毎年輸入する原油約1億7,000万トンの約80%、鉄鉱石約1億2,000万トンの約40%が通航しており、わが国のエネルギー、産業の死命を制する重要な海峡である。また同海峡で大事故が起こってロンボック海峡を回らなければならなくなると、片道3日間の遠回りとなり、大型タンカーで約3,000万円の経費増となって原油高を招き、経済に大打撃を受けるおそれもあった。
そのため、同協議会は最初の事業として水路の精密測量を取り上げ、設立時の44年からマラッカ海峡の調査研究にとりかかるとともに水路測量を始め、46年からは同海峡の水路精密測量に入った。48年にはロンボック・マカッサル海峡の水路測量をも実施し、マラッカ・シンガポール海峡の航路啓開にあたった。また51年からはマラッカ・シンガポール海峡の海図編さんを実施し、57年にこれを完成した。このほかに航行援助施設の整備や浅瀬の除去、航路啓開事業を実施し、大型船の可航水域23mを確保した。
これら一連の事業の結果、IMOで採用されたマラッカ・シンガポール海峡の分離通航方式が56年5月1日から開始された。また油濁事故の発生に備えて、当面の処理費にあてる回転基金4億円、そのうち3億円を本会の協力援助事業で支出し、沿岸3か国はその金利で防除訓練を行っている。また沿岸3か国との打合せや必要資材の援助などの国際協力事業も展開している。63年度までに灯台をはじめ灯標、浮体式灯標、灯浮標など光波標識と電波標識のレーダ・ビーコンをインドネシア側27基、マレーシア側8基、計35基の設置を完了、両国と共同で6か月ごとに全標識の点検修理を行っている。
インドネシア海運総局J・E・ハビビ長官は平成2年2月5日、笹川良一会長を表敬訪問し、3国を代表して、スハルト大統領との約束に基づく援助を20年間継続していることについて、「同海峡では祥和丸の事故以来、大きな油濁事故がなく、これはひとえに笹川会長のお蔭です」と感謝の意を述べている。笹川良一会長からは「それは沿岸諸国の努力の結果であり、その労を多とします」という言葉があり、ハビビ長官は深い感銘を受けたという。
このようにして本会は、マラッカ・シンガポール海峡の航路の安全確保に寄与し、ひいてはわが国経済の繁栄に大きく貢献しているのである。
[上]灯票
[下]点検中の灯浮標





マラッカ・シンガポール海峡の海図
水路図誌複製「海上保安庁承認第040050号」

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