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資料1-1 ナジブ マレーシア副首相の基調演説
(仮訳)
基調演説
ダト・スリ・モハマッド・ナジブ・ビン・トゥン・ハジ・アブドゥル・ラザク
マレーシア副首相
「マラッカ・シンガポール海峡における航行安全と環境保全の向上に関するシンポジウム」
2007年3月13-14日
クアラ・ルンプール、マレーシア
 
日本財団会長の笹川陽平様、
閣下、
著名な講演者と参加者の皆様、
マスコミの方々、
そして皆様、
 
 私はマラッカ・シンガポール海峡の航行安全と環境保護の向上に関する本シンポジウムにおいて基調演説をすることを本当に喜ばしく思っております。お招き頂いたことを主催者の方々に心より感謝申し上げます。
 
 本シンポジウムの開催に主導的な役割を果たした当地域の四つの研究所、すなわち、日本の運輸政策研究機構国際問題研究所(JITI)と、沿岸国の三つの研究所、マレーシアのマレーシア海事研究所(MIMA)、シンガポールのS. ラジャラトナム国際研究大学院(RSIS)、インドネシアの東南アジア研究センター(CSAS)に対し、賛辞を述べたいと思います。日本財団には、スポンサーという形で本イベントを支援して頂いており、この場を借りて日本財団にお礼申し上げます。
 
 交通航路としてのマラッカ・シンガポール海峡の問題は、各国政府の関心事だけには留まりません。これは非政府機関の関心の問題でもあるのです。民間の研究機関によって開催された本日のシンポジウムは、そうした非政府組織の関心に対する明快なマニフェストです。とりわけ、民間レベルでのこうしたイニシアチブは、貴重な提言を与えてくれる点で非常に歓迎すべきものです。制約を受けない研究機関であるということで、その価値はなおさら高まります。
 
皆様、
 マラッカ・シンガポール海峡が世界で最も往来の激しい航路であることは、今更私が申すまでもなく明らかです。しかし、この事実は、当海峡にうまく対処していくという難題があるということを利害関係者に思い起こしてもらうため、繰り返し述べる必要があります。我々が忘れてならないのが、昨年一年間だけで6万5千隻を超える船舶が、この非常に重要な通路を通って航海したことを示す統計です。もし、小型のタグボート、漁船、物々交換のための船舶などを考慮に入れたなら、この数字ははるかに大きくなるでしょう。この航路の交通量は、世界貿易量の増加と東アジア経済の成長とあいまって、これから数年の間、更に増加すると予想されています。
 
 この交通量の増加という問題こそが、本日のシンポジウムのテーマの核であることを私は嬉しく思います。交通量の増加に伴い、沿岸三ヶ国−すなわち、マレーシア、インドネシア、シンガポール−は、急増する海峡内交通の航行安全を確保し、海洋汚染を防止するために、より大きな責務と経済的要求を招くことになるのは明らかです。こうした責務を果たしていくことで、増え続けてきている経済的負担が一層増加することは疑いありません。
 
皆様、
 ご存知のとおり、マラッカ海峡の通過通航権は、1982年の国連海洋法条約(UNCLOS)の第三部第38条に規定されています。同条約第43条には、利用国は、航行の安全性確保と海洋汚染の防止のために沿岸国と協力すべきと定められています。にもかかわらず、これまでにも増して、この航路の航行安全と環境保護の維持という重い負担を実際に担っているのは沿岸三ヶ国のみという事態になっているのです。
 
 まさにこれがマラッカ・シンガポール海峡における現実であり、これにより沿岸国は多くのイニシアチブを発揮し、しばしば相当額の投資をしてきました。こうしたイニシアチブは、海峡の航行安全を確保するとともに、激しい往来から生じる問題を軽減することを目的としています。これには、海上警備対策として、連携(coordinated)パトロールや沿岸国の海軍と空軍も参加する「空の目(Eyes in the Sky)」などのイニシアチブも含まれています。しかしながら、海峡維持のためのコストが増加していけば、現在のプロジェクトの維持を負担し、更に将来のプロジェクトに対する資金を用意していくことが無理になるおそれがあります。
 
 同時に、利用国からは、当海峡における航行上のより高い安全性が求められてきています。その要求が正に、UNCLOSで規定された、海峡における航行安全のためのすべての関係者に対する協力の要請を実行せざるを得ない理由です。これは明らかに、利用国間において協働と協調の努力をすることが当然となってきます。
 
 これにより、マレーシアとしては、沿岸国のキャパシティ・ビルディングに対して、主要利用国からより一層の協力と援助を実施してもらうことを切に望んでおります。手法としては技術援助、訓練、情報の交換・共有といった形を取り得るでしょう。
 利用国としてはまた、マラッカ海峡の管理に対しての定期的な貢献をすることによって、自身の責任を果たすことができると思われます。このような資金は、沿岸国の努力を補うこととなる種々の施策を実施していく上で不可欠です。マ・シ海峡の航行安全の向上によって最も恩恵を受ける立場にある利用国が、この考えに賛同していただけるよう希望致します。
 
 既存の「マラッカ海峡回転基金」は、船舶からの油流出に関する問題に対処することのみを目的としています。利用国としては、新たな基金の設立よりもむしろ、この基金に対する貢献という形での可能性の検討を望まれるかもしれません。利用国にとって妥当であるならば、「マラッカ海峡回転基金」の対象範囲を油流出以外にも拡大する必要があるかもしれません。
 
 協力と協働の考え方については、昨年クアラ・ルンプールで開催されたIMO会議において議論されています。利用国は、沿岸国が特定したプロジェクトに対して自主的に援助を行うことが合意されました。六つのプロジェクトが特定されています。相当の経費を必要とするプロジェクトがある一方で、経費がずっと少なく済むものもあります。この取り決めは自主的な貢献としているため、利用国の役割については、何ら義務を課してはいません。
 
 マレーシアは、この自主的な取り決めに関して、望ましい目標に達しないおそれもあるため、若干不安を感じています。利用国が負担の少ないプロジェクトを引き受けることに傾き、負担が高額のプロジェクトが取り残されてしまう結果になりかねないからです。また、特定されたプロジェクトが、支援不足から、近い将来にも実施されなくなるおそれもあります。このためマレーシアとしては、各特定プロジェクトに応対する利用国の公平な参画を確保するため、次回のIMO会議において、利用国は当該提案を再検討すべきであると考えています。
 
 私の見解としては、当海峡に係るいかなる議論においても船主の義務を見落とすべきではないと考えております。正に目に見える形で、実際に海峡を通過している、最大の利用者であるのが船主だからです。さらには、海峡を航行している船舶の大部分は、海峡沿岸の港には寄港しません。こうしたことにより、海峡の維持に対する貢献と、沿岸国の努力をより高める取り組みへの支援は、船主の義務であると考えます。
 
 船主の貢献は、費用負担に対する彼らの道義的な義務の一部であるとして捉えられるべきです。ただし、この種の提案は、近い将来に構築し得る適切なメカニズムを考案するため、当然ながら更なる議論が必要であるという事を、私は留意しています。
 
 世界の別の地域における戦略的海峡の管理のやり方について、本シンポジウム参加者の皆様にお調べいただく、といったことも有意義かもしれません。当海峡が多くの点で他の海峡と異なっていることに私は同意しますが、我々は、他の海峡からも貴重な実例を学ぶことができるでしょう。こうした実例は、当海峡をより適切に管理するための革新的な手法を考案する上で役立つ可能性があります。
 
皆様、
 日本の日本財団が特別な基金を創設するという考えを提案する予定であると理解しております。これはマラッカ海峡における航行援助施設と沈船除去に対する財政的支援のため、海運各社が自主的に寄与を行うものです。
 
 マレーシアは、こうした提案を完全に支持します。何故なら、当海峡の航行安全性は無償で供与されるものと国際社会から見なされるべきではなく、実際には、利用者と沿岸国双方の共同責任であるべきだからです。
 
 同時に私は、参加者の皆様に注意喚起をさせて頂きたいのですが、マレーシアは、負担分担のコンセプトに沿って当海峡の航行安全を向上させるものであれば、どんなイニシアチブも歓迎しますが、こうした取り組みは、主権の原則を侵害すべきではありません。
 
皆様、
 当海峡の航行安全と環境保護の向上を目的として、これまで数多くの議論がなされてきているということは、皆様も必ず同意していただけるものと思います。負担分担についても多くの提案が議論されてきましたが、利害関係者から肯定的な反応があったのは、そうした提案のうちのごく少数にすぎません。一方では、私たち全員がこの問題に関心を持ちながら、他方では、提案の実施段階になると利害関係者の不熱心な反応が現れてくるのです。ですから、本シンポジウムにおいて、私の提案のメリットを明らかにし、この提案を積極的な実現に向けて行くことを切望する次第です。
 
 最後に、大事なことを言い忘れましたが、皆様の実りある議論と会議の成功をお祈りいたします。海外からのお客様には、この場を借りて、観光地マレーシアについて僅かながら宣伝をさせてください。我が国にご滞在の間、クアラ・ルンプール及びマレーシア内の名所をたっぷりとご堪能いただくことを強くお薦めします。「ビジットマレーシア2007年」に関連して、様々な活動やプログラムが企画されておりますので、お楽しみいただければ幸いです。
 
 ご清聴ありがとうございました。


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