日本財団 図書館


観光
 
いかるがの里の情報センター 〜「法隆寺iセンター」〜
 JR法隆寺駅から、途中対向車と肩をぶつけんばかりに進むバスに乗ること約10分弱で法隆寺へと到着。国道25号線を下から支えるように法隆寺への参道が延び、その入り口に「法隆寺iセンター」が設けられている。ここは法隆寺をはじめ、斑鳩の里の歴史と文化を広く知って貰うための観光センターである。中に法隆寺修復に大きく関わった宮大工「西岡常一」氏の資料が展示されているが、西岡氏の古の匠の技への挑戦とその姿勢の厳しさに改めて感服してしまうばかりであった。「西岡常一」の世界に浸っていた私に初老の紳士が声をかけてこられた。
 「今から法隆寺へ行かれるのですか?もしよければご案内しますけど・・・」
 聞けば、「斑鳩の里観光ボランティアの会」の会員の方で、無料で法隆寺の案内をして頂けるそうだ。この観光ボランティアの会には、1年間の講習を受けた後初めて会員登録できるそうで、現在150名ほどの方が会員として活動されているそうである。
 残念ながら、これから法隆寺管長の「大野玄妙」師をお尋ねする予定があるためお断りをしたが、通常なら法隆寺拝観の上で心強い味方になって頂けそうである。
 参道の真向かいには、「南大門」。この門の中間越しに見る五重塔は絶好の被写体だそうであるが、このことは後になって知った。
別世界にすべてを委ねて
 この南大門をくぐって境内へと一歩足を踏み入れるとまさにそこは別世界の空気がただよい、遠い過去に足を踏み入れたような錯覚におちいる。
 冬の冴え渡った空の中に切り絵のように浮かび上がる法隆寺は、白い土塀と松の緑、そして背景を形作る山並みの中で、時間を止めてしまったかのように存在していた。
 境内には、平日ということもあって混雑とまではいかないまでも、中年のご夫婦、若いカップル、中国からと思われる外国人団体客とそれなりの参拝客が訪れており、そんな人々の靴音や話し声も聞こえるし、鳥のさえずりも聞こえる。しかしそれらの全ての音は瞬時にこの法隆寺という独特の世界を包み込む空間の中に吸い込まれ、凛とした静寂が漂っているのだ。音はあっても静寂を肌で感じる。何とも不思議な感覚に包まれてしまった。
 
 管長の大野玄妙さんにお会いして法隆寺の魅力その他諸々をお尋ねしようとインタビューを始めた冒頭、
「南大門をくぐって来られて、何を感じられましたか」。
 
 と当方が逆に質問を受けた。いきなりの質問でドギマギしながらも法隆寺の醸し出す不思議な世界の感覚を正直に伝えた。
 大野管長はその不思議な世界の理由(わけ)を静かに説明して下さった。
 
「参拝あるいは観光に来られる方は、信仰心をお持ちの方もあれば、そうでない方もいらっしゃる。いずれにしても何らかの心の癒しあるいは、新しい発見、新しい出会いの中で自分の生き様、生き方を見つめたいと思ってこられる方が多いと思うんです。
 そんな方々に、我々ができることはなんだろうと考えたとき、普段、いやなニュースばかりが溢れる殺伐とした社会、いわゆる俗世間の中で暮らしておられる皆さん方に、「別世界」を提供することだと思うんです。お越しいただいた方々にはそうした別世界の中に身を委ねていただいて、自ら自分にとって重要な課題を探し出して頂きやすい場を提供できるのではないか、そのために、我々は境内には塵一つないよう清掃に心がけおり、そのことは大変重要なことだと思っています。」
 
 言われてみれば、確かに境内のあちこちでお見かけする清掃員の方々の作業には、塵一つとして見逃さないという心配りが感じられた。
 まさに、此処は別世界で、境内に張り巡らされた白壁の曲がり角では、今にも万葉人と行き違いそうな、そんな風情を感じさせてくれる場所である。
 
 
 


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION