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(4)まとめ
(1)様々な努力が求められるバス事業者
 調査の結果、バス事業者のほとんどは、減少し続けるバス利用者の確保のために様々な創意・工夫を凝らした経営戦略を模索あるいは実行し、事業活性化に向かって必死の努力を行っている姿が浮き彫りとなった。
 近時のIT技術の急速な進歩と普及は、交通機関相互の連携にとどまらず、商業施設等様々な分野との連携が広がる等、中規模事業者を含めて多種、多様なサービスが比較的容易に実施できる環境を生み出している。
 
(2)一定の成果をもたらしているニューサービス
 これらの利用促進策による事業の活性化については、全体的にはほとんどの事業者が何らかの成果が生まれていると評価しており、特に、都市部においては「電磁式カード」をはじめとしたこれら利用促進策が利用者の増加を生み出し、営業収入的にも増収、もしくは利用者増による相殺効果を挙げている。ただし、都市部と地方部を比較検討してみると、成果が現れていると評価している事業者は都市部を中心としており、地方部の事業者においてはこれら様々な利用促進策を講じても期待するほどの効果を生み出せない地方部の厳しい現実とジレンマが現われている。
 
(3)ニューサービスにおける今後の展望
 特徴的に成果を生み出している分野は、バス&バス、バス&レールなど公共交通相互間のシームレス輸送及び継続利用の優位性をターゲットとしたニューサービスであり、結果として比較的都市部での成果が高くなるという結果になっている。このことから、一社単独の独自性もさることながら、公共交通全般を視野に入れ、より使いやすく、より割安感を感じさせるための様々な工夫とサービス提供が強く求められていることが明らかとなった。
 一方、公共交通といわれる輸送機関が自社のみといった状況にある地方部においては、都市部とは異なった工夫が求められている。
 地方部においては、頻度は少ないながらも発生した輸送需要を確実に取り込み、その積み重ねの中からバスに対する信頼感と利便性の実感を利用者に持っていただくことが必要となる。
 現在各事業者が様々な工夫の中で提供している各種のニューサービスは、着実に成果を生み出していることが明らかになっており、今後は、各施策に対するきめ細かい分析とその結果に基づく改善を行っていくことで、乗合バス事業の活性化へ向けてより一層の成果が挙げられることが期待される。
 
2 自治体主導によるバスサービス等の取組み事例調査
 多くの自治体において地域社会の維持、活性化の重要な柱として公共交通対策について実証実験運行等の取組みが行われ、従来の枠に囚われない新たな住民の足確保のあり方が模索されている。そうした自治体主導によるバス運行事例(本格運行を含む)のうち、5自治体について、ヒアリングを中心に調査を行った。
 
(1)取組の背景と運営状況
 すべての自治体が民間バス事業者の撤退による生活交通確保対策が端緒となっており、地域の社会生活維持が大きな目的となっている。
 調査を行ったほとんどの自治体で住民から好評価を得ており、中には民間バス事業者が運行していた当時よりも5割方の利用者増を実現した「綾部市」のような事例も生まれている。
 実証実験中が大半ということもあるが、既存の民間事業者と比べても利用実態把握及び利用者評価の把握に対する意識は極めて高い。
 
甲賀市運行実績
17年度実績
1日輸送人員 2139.0 人
年間輸送人員 666,653 人
収入の部 運賃収入 89,859 千円
その他営業収入 - 千円
国庫補助 9,000 千円
府県等補助 71,032 千円
合計 169,891 千円
支出の部 事務委託費 367,913 千円
その他経費 8,135 千円
合計  376,048 千円
自己負担額 206,157 千円
総事業費 582,205 千円
 
南丹市運行実績
17年度実績 計画時の目標値 達成率
1日輸送人員 98.9 人 143.4 人 69.0%
年間輸送人員 36,096 人 52,324 人 69.0%
収入の部 運賃収入 4,886 千円 7,849 千円 62.2%
その他営業収入 千円 千円
国庫補助 8,000 千円 10,000 千円 80.0%
府県等補助 10,193 千円 10,000 千円 101.9%
合計 23,799 千円 27,849 千円 85.5%
支出の部 事務委託費 45,835 千円 43,652 千円 105.0%
その他経費 538 千円 550 千円 97.8%
合計 46,373 千円 44,202 千円 104.9%
自己負担額 22,574 千円 16,353 千円 138.0%
総事業費 46,373 千円 44,202 千円 104.9%
 
綾部市運行実績
17年度実績 備考
年間輸送人員 12,746 人 (内身障者956人)
収入の部 運賃収入 162 千円 現金支払い運賃
その他営業収入 2,282 千円 定期・回数券売上げ
国庫補助 - 千円
府県等補助 - 千円
合計 2,444 千円
支出の部 事務委託費 6,177 千円 メーター料金
その他経費 - 千円
合計 6,177 千円
自己負担額 3,733 千円
総事業費 6,177 千円
 
米原市(まいちゃん号)運行実績
17年度実績 計画時の目標値 達成率
1日輸送人員 550.0 人 412.0 人 133.5%
年間輸送人員 200,939 人 150,000 人 134.0%
収入の部 運賃収入 46,752 千円 35,000 千円 133.6%
その他営業収入 - 千円 - 千円 -
国庫補助 8,000 千円 - 千円 -
府県等補助 13,141 千円 22,500 千円 58.4%
合計 67,893 千円 57,500 千円 118.1%
支出の部 事務委託費 79,984 千円 80,000 千円 100.0%
その他経費 657 千円 505 千円 130.1%
合計 80,641 千円 80,505 千円 100.2%
自己負担額 12,748 千円 23,005 千円 55.4%
総事業費 82,024 千円 80,505 千円 101.9%
*平成17年度:平成16年10月〜17年9月
 
篠山市運行実績
17年度実績 計画時の目標値 達成率
1日輸送人員 88.0 人 - 人 -
年間輸送人員 4,139 人 9,500 人 43.6%
収入の部 運賃収入 373 千円 950 千円 39.3%
その他営業収入 - 千円 - 千円 -
国庫補助 6,598 千円 8,248 千円 80.0%
府県等補助 - 千円 - 千円 -
合計 6,791 千円 9,198 千円 73.8%
支出の部 事務委託費 13,667 千円 12,350 千円 110.7%
その他経費 4,974 千円 5,097 千円 97.6%
合計 18,641 千円 17,447 千円 106.8%
自己負担額 11,669 千円 8,249 千円 141.5%
総事業費 18,268 千円 16,497 千円 110.7%
 
(2)変革期にある自治体の公共交通に対する意識
 すべての自治体が民間バス事業者の撤退による生活交通確保対策が端緒となっており、地域の社会生活維持、いわゆる生活の足確保が大きな目的となっているが、調査を行ったほとんどの自治体で住民から好評価を得ており、中には民間バス事業者が運行していた当時よりも5割方の利用者増を実現した事例も生まれてきている。
 加えて、実証実験中が大半ということもあるが、既存の民間事業者と比べても利用実態把握及び利用者評価の把握に対する意識は極めて高く、地方自治体における公共交通に対する自覚的な意識の変革が明確に見て取れる。
 
(3)課題も抱える自治体のバスサービス
 各自治体とも最大の運行目的である生活交通の確保はほぼ実現しており、付加的な高齢者、障害者の外出支援効果は徐々に出現しつつある。
 しかし、一方では、自治体という性格上、地域住民からは議会を含め様々な形態で総花的にバス運行を求められる環境にあり、こうした運行要求と現実の利用実態に基づく効率的、経済的運行計画とのバランスを如何に確保し続けるかが、大命題である。
 さらに、地域の輸送すべてをコミュニティバスに依存することは、結果として広域・幹線路線を担う既存(民間)バス事業者の経営を弱体化させる危険性も孕んでおり、地域住民の生活維持において欠かすことの出来ない広域間の交通手段確保対策として、広域・幹線路線を担う既存(民間)バス事業者との共存共栄策を図っていくことが重要となっている。
 
(4)今後の展望
 各自治体においては、交通施策としてのコミュニティバスの公共交通における役割と位置付けを明確にし、コストを含めた積極的な情報開示によりコミュニティバスに対する住民意識の啓発が重要である。
 具体的には、住民参加による運行計画の策定、採算べースの需要設定など住民自らが経営参画していることの意識の持続が保たれれば、生活交通として大きな成果を生み出すことが可能となる。
 しかし、一方では、自治体の自主運行バス事業において営業収支的に成果を出すことは極めて困難であり、今後長期にわたって自主運行バスを維持継続していくためには、町の活性化策、福祉対策、教育対策等、各施策との具体的な連携の下に、自治体としての総合交通施策を司る部署の強化充実が必要である。
 
3 地域住民による新たなバス運行の取組み事例調査
 公共交通空白地域においては、従来、個々の自助努力で克服可能であった様々な問題や不便さが、老齢化、少子化の進展に伴ってその矛盾とともに顕在化してきている。一方、悪化の一途を辿る財政状況下では、地域住民の要望に簡単に応えられない状況を多くの自治体で生み出している。
 こうした中で、一定量のバス利用者が潜在している大都市部においては、個々の自助努力をコミュニティー単位の自助努力へ拡大し、行政や既存の路線バス事業者に頼るだけでなく、地域住民自らの力でバスを運行し交通空白地域問題を解決しようという取組みが芽生えている。今回は、京都市域、神戸市域において実施されている2事例について、運行の母体となっている住民団体にアンケート調査を行うとともに、運行事業者へのヒアリング調査を行った。
 
(1)取組の背景と運営状況
 大都市圏における交通不便地帯の改善対策として、地域住民で組織された団体が主体となってバスの運行を行う取組みが始められたが、地域住民からは高い評価を得ており、想定した利用者数は確保できている。両事例ともサポート組織の積極性がバス運行を支えている。
 
(2)地域住民が支えるバス運行
 当該地域においては、利用者及び住民のバス事業への意識が、バスを運行する主体的観点及び当事者としての意識に変化してきており、高齢者、障害者の外出支援効果についても徐々に出現しつつある。
 当面する課題としては、利便性を求める住民の運行要求と利用実態に基づく効率的、経済的運行計画について如何にバランスを確保していくかであり、運行経費等をはじめとする運行実態についての情報開示を積極的に行い、地域住民およびサポート組織とのコミュニケーションの強化が求められる。
 
(3)今後の展望
 サポート組織と運行事業者の役割と責任の明確化をしていくことで、当該バス運行形態は今後も充実発展できると思われるが、利用者の立場で運行を支えているサポート組織の役員及びバスの必要性を切実に実感している地域住民において確実に高年齢化が進んでいくこととなり、これらの世代交代以後を見通してのバス運行へのモチベーションを持続することが可能かどうかが、当該方式のバス運行の大きな鍵を握ることとなる。
 
 
事例1.「京都市伏見区醍醐地区」
事業主体 運行事業者 運行区域
醍醐地域にコミュニティバスを走らせる会 株式会社ヤサカバス 京都市伏見区醍醐地区内
 
醍醐コミュニティバス・パートナーズ概要
種別\メリット 路線地図に所在地・名称を記載 「○○前」等バス停に副名称を使用 車内アナウンスで最寄バス停の企業名等案内
A
B ×
C × ×
個人応援団 × × ×
 
許可種別 一般乗合旅客自動車運送事業(道路運送法第4条)
路線 1号路線:地下鉄醍醐駅⇔小栗栖方面⇔武田総合病院
2号路線:上ノ山団地⇔地下鉄醍醐駅⇔武田総合病院
3号路線:地下鉄醍醐駅⇔日野方面⇔武田総合病院
4号路線:地下鉄醍醐駅⇔醍醐寺⇔地下鉄醍醐駅
使用車両 中型ワンステップバス(リフト付き38人乗り) 4両
マイクロバス(14人乗り) 2両
運行回数 1号路線:平日25回、土曜日16回、日祝日10回
2号路線:平日49回、土曜日20回、日祝日10回
3号路線:平日25回、土曜日15回、日祝日10回
4号路線:平日35回、土曜日58回、日祝日56回
運賃 均一運賃(大人200円、小児100円)
1日乗車券300円
運行開始日 平成16年2月16日
 
事例2.「神戸市東灘区住吉台地区」
事業主体 運行事業者 運行区域
東灘交通市民会議
(くるくるバスを守る会)
みなと観光バス株式会社 神戸市東灘区住吉台地区内
 
許可種別 一般乗合旅客自動車運送事業(道路運送法第4条)
路線 住吉台(エクセル東)⇔JR住吉駅前
使用車両 マイクロバス(29人乗り)3両 計3両
運行回数 往路(JR住吉駅前行):56便
復路(住吉台行):54便
運賃 均一運賃(大人200円、小児100円)
運航開始日 平成17年1月23日


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