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2007 春季号 No. 116
行政
関西国際空港 第2滑走路供用の意義
大阪航空局長 武田洋樹
 
(1)2本目の滑走路が供用開始する関西国際空港
(1)供用までのスケジュール
 本年8月2日、関西国際空港に待望の2本目4000mのB滑走路が供用開始します。関西国際空港(株)が整備していた4000m滑走路、平行誘導路、1期島と結ぶ連絡誘導路等は昨年末に完了し、航空局による地上検査が本年1月に実施されました。現在2月、3月にかけて航空局の飛行検査が実施されていますが、地上・飛行検査に合格すれば告示手続き、AIPによる世界中の航空会社に対する周知等の手続きを経て、8月2日に供用となります。
 
新滑走路への飛行検査機の初着陸(2月3日)
 
(2)完全24時間運用の意義
 これで、関空は1期事業で整備された長さ3500mのA滑走路と合わせて、わが国で初めて、2本の4000m級滑走路を有する完全24時間運用の国際空港となります。完全24時間運用の「完全」の意味は、24時間中完全にいつでも航空機の発着が可能になるということです。
 空港は滑走路の舗装面や航空灯火等のメンテナンス作業のため少なくとも週3日、3時間/日程度は滑走路を閉鎖して作業を行う必要があり、滑走路1本ではその時間帯は発着ができませんでした。しかし、2本あればどちらかの滑走路は使用できるため、そうした制約がなくなり急な発着要請に対しても対応できることになります。
 2本目の滑走路が供用する具体的なメリットとしては、次のような点が上げられます。一つには、滑走路の発着容量が大幅に拡大し、特に混雑している午前中のピーク時間帯にも増便が容易になることです。また、滑走路の運用は、現在のA滑走路を離陸用、B滑走路を着陸用とすることを原則としていますが、A滑走路への着陸も、ほかの航空交通に影響がない範囲で可能な限り運航者の要望に応えることとしています。
 二つ目は、A滑走路の全面改修ができるようになり、高い安全性を維持できることとなります。三つ目は、現在、国際航空貨物について、1期島の貨物用地は既に満杯で拡大の余地がないため、2期島の用地を活用することにより物流施設の増強を図り、また完全24時間運用のメリットを生かして深夜・早朝貨物便の受け入れも容易となることから、増大する国際航空貨物への対応が可能となります。関空は、2本目の滑走路の供用に伴い、このようなアドバンテージを生かして、国際ハブ空港を目指しさらに大きく飛躍することが期待されています。
(2)関西国際空港の現状
(1)航空旅客
 国際航空旅客数は、平成13年に発生した9.11同時多発テロや平成15年のSARS、イラク戦争等の影響で平成13年度以降伸び悩んでいましたが、平成16年度からは順調に回復してきています。国内航空旅客は、伊丹空港との競合により平成14年度以降旅客数が減少しましたが、平成17年度から伊丹空港へのジャンボ機等の3発機、4発機の就航禁止、YS代替ジェット枠50の段階的削減、長距離国内線の関空への移転等を進めた結果、増加に転じています。
 
 
(2)航空貨物
 航空貨物については、国内航空貨物は非常に少なく、国際航空貨物が圧倒的シェアを有しています。国際航空貨物についても、9.11同時多発テロ、SARS、イラク戦争等の影響を受け平成13年度から減少傾向にありましたが、平成16年度から回復基調にあります。
 
 
(3)発着回数
 航空機の発着回数も前述の影響で、一時減少したものの平成16年度以降増加しており、平成17年度は一一万三千回に達しています。特に国際貨物便の発着回数が増加しており、平成17年度は一万二千七七七回で、平成7年度三千六九六回の3.5倍となっています。ちなみに18年度の発着回数は一一万九千回程度になる見込みです。
 
(3)関西国際空港の今後の課題
(1)発着回数を巡る課題
 平成16年12月18日に、財務大臣と国士交通大臣の間で、関空二期事業の予算化にあたり合意した事項のひとつとして、平成19年度に13万回程度、平成20年度は13万5千回程度の発着回数を確保することが謳われており、その実現に向けて引き続き、集客・利用促進、就航促進に向けた努力が必要です。
 なお、積極的なエアポートセールスの結果、国際線定期便の就航便数は、平成18年冬期スケジュールで就航便数七三三便/週と過去最高を記録しました。そのうち、アジア便が週五五一便、特に中国便が日中航空交渉の合意を受けて大幅に増加し週二七五便となっています。中国便については、成田空港と比較すると、旅客便で関空が15都市へ週二〇一便、成田は13都市へ週三四九便就航しており、就航している都市の数は関空が上回る結果になっています。
 
国際線(冬期スケジュール)就航便数
 
(2)国際旅客を巡る課題
 平成18年冬期スケジュールでも明らかなように、中国を中心としたアジアヘのネットワークは充実してきていますが、北米は週四九・五便、欧州は週四八・五便にとどまっており、今後、関空が世界へのハブ空港を目指すのであれば、欧米とのネットワークの強化が必要です。
 また、関空における国際線と国内線の乗り継ぎについて、国土交通省が平成16年度に実施した調査では、際内乗り継ぎが日本人一一・六%、外国人一八・五%に対し、内際乗り継ぎは日本人7%、外国人3%と少なくなっており、今後、利用促進を図っていくためには、国内ネットワークの充実等乗り継ぎの利便性を良くして、関西以外からの利用を促進させることも検討する必要があると考えます。
 
(3)国際貨物を巡る課題
 中国に就航する貨物便は、平成18年冬期スケジュールにおいて、15社が8都市に対して週74便就航することになり、成田を抜いてわが国最大のネットワークを持つに至りました。グローバルに水平分業を展開する企業は、物流に対して都合のいい時間までにいかに効率的に輸送できるかというサプライ・チェーン・マネージメント(SCM)を求めているのに対し、完全24時間運用となる関空では、深夜・早朝便の活用や空港内における総合的な物流施設の整備により、こうした要求に対応することが可能であります。しかしながら、貨物地区は既に満杯で、施設の増設が不可能な状態であり、速やかに2期事業用地への展開が求められています。
 
(4)利用促進を巡る課題
 国土交通省、自治体、各種団体、関係企業からなる関西国際空港利用促進本部[本部長:(社)関西経済連合会会長]が中心となって、ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)や社会資本整備等の国土交通施策とも連携して、集客観光・利用促進・就航促進に積極的に取り組んでいます。
 具体的には、
(1)関空利用促進運動として、海外出張の際には関空を利用する等から成る関空利用促進宣言に賛同する企業を募集(既に一千一八九社から賛同を得ましたが更に拡充を図っています。)
(2)就航促進に向けたインセンティブの充実、際内乗り継ぎの充実、関空利用のインバウンド・アウトバウンド客の拡大に向けた関空エアポート・プロモーション活動の強化
(3)深夜便運航モデル事業の実施などによる国際物流拠点としての関空利用促進
(4)夏季の連絡橋通行料のワンコイン化の実施等による関空アクセスの改善
(5)関空利用促進キャンペーンの展開
を実施しています。
 また、関西国際空港全体構想促進協議会は、就航奨励一時金制度の創設、観光施策と連携した商品の開発、鉄道会社等と連携した関西地区からの割引企画きっぷの展開を実施しているほか、今年関西で実施される世界陸上競技選手権大阪大会、世界華商大会に向けて関空のPR等を実施しています。
(4)アジア・ゲートウェイ構想
 安倍首相は、昨年9月29日、第一六五回国会における所信表明演説において、ヒト、モノ、カネ、文化、情報の流れにおいて、日本がアジアと世界の架け橋となる『アジア・ゲートウェイ構想』を表明し、この構想の推進に積極的に取り組むことを約束しました。
 『アジア・ゲートウェイ構想』の目的は、
(1)アジアの成長と活力を日本に取り込み、新たな「創造と成長」を実現する。
(2)アジアの発展と地域秩序に責任ある役割を果たす。
(3)魅力があり、信頼され、尊敬される「美しい国」を創る。
の3点であり、その実現のために整理された7つの重点政策のうち、航空分野に関する政策として、利用者の視点に立った航空・港湾・物流改革関係を進める「人流・物流のビッグバン」があげられています。
 
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 今や、国際拠点空港のグローバルスタンダードは、4000m級滑走路を複数有する完全24時間運用の空港であり、東アジアでは既にその基準を満たす国際空港が次々と整備されている中、わが国においても基準を満たす国際空港が関空において誕生することは、関西地域の発展のみならず、わが国の航空界にとっても極めて意義深い画期的な出来事であると考えています。
 今後さらに議論が行われ、5月頃までに具体的な方針や政策手法等を取りまとめることとしていますが、議論の背景には、東アジアの主要空港の整備が進み、空港間競争に遅れをとりかねないという危機感があり、利用者にとって使いやすい国際空港の整備と活用が大きな課題となることは間違いありません。
(5)関西国際空港の更なる飛躍
 安倍内閣が進める『アジア・ゲートウェイ構想』を実現させるためには、グローバルスタンダードな規格を有するに至った関空を最大限有効に活用することが必要不可欠です。そのような観点から、今後の関空をフル活用するための方策を以下のように整理してみました。
 
(1)ハード整備面
(1)航空貨物施設の2期島への展開による国際貨物ハブ空港化
(2)2期事業の完全供用化
(3)国際線・国内線の乗り継ぎ利便性の向上
(4)航空旅客にとって利便性の高いアクセス道路・鉄道の整備
(5)国際物流を支えるためのアクセス道路の整備
(6)国際物流を支えるための港湾との連携
 
(2)ソフト整備面
(1)空港利用料金の低減化(着陸料、ターミナル利用料、アクセス利用料、駐車場等)
(2)国際航空旅客ネットワークの充実(24時間化を最大限に活用、特に欧米路線)
(3)深夜便、格安便等の多岐にわたるサービス選択肢の提供
(4)ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)との連携
(5)国際航空貨物ネットワークの充実(24時間化を最大限に活用)
(6)本邦航空会社の国際競争力の強化
(7)国際物流を支えるための総合保税地域の指定
(8)税関、入管、検疫(CIQ)のサービス向上(諸手続の簡素化、迅速化)
 これらは、いずれも一朝一夕では実現できない難問ばかりですが、限りない可能性を秘めた関空の大きな飛躍のために、関西国際空港(株)を中心に関係者が連携して方策の実現にあたることが重要であり、大阪航空局としても全力を傾注して協力していきたいと考えています。
 


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