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ハリケーン・カトリーナとリタによる海洋構造物の被害状況並びに海洋構造物設計基準の改訂動向調査
湯川 和浩
(独)海上技術安全研究所
1. はじめに
 日本船舶海洋工学会の若手研究者・技術者活性化事業に係わる海外派遣制度により、2006年4月30日から5月13日までの間、渡米させて頂き、ハリケーン・カトリーナとリタによる海洋構造物の被害状況並びに海洋構造物設計基準の改言働向に関する調査を行ったので報告する。
 
2. 目的
 2005年にメキシコ湾を襲ったハリケーン・カトリーナとリタにより、経路に位置した多くの石油・天然ガスの海上生産施設と掘削リグが倒壊、漂流等の甚大な被害を被った。被害の発生した原因として、設計条件設定とその応用に問題があったことが指摘されており、海気象の厳しい海域での海洋構造物設計を本経験に基づいて改良することがAPI(American Petroleum Institute: アメリカ石油学会)において検討されている。
 一方、エネルギーの安定供給の観点から、我が国では東シナ海でのガス田開発が喫緊の課題として挙げられる。台風や黒潮の通り道である東シナ海域のような過酷な自然環境下において十分な耐久性を有する海洋構造物の設計には、メキシコ湾における大規模自然災害による被害とその後の復旧状況を調査することで得られる情報が参考になるのではないかと考えた。また、ハリケーン・カトリーナとリタによりMODU (Mobile Offshore Drilling Uhit) が漂流し、生産施設に大きなダメージを与えたことからIMOにおいてMODU関連の基準改正の議論が再燃すると思われ、我が国がこれに積極的な対応をとるためにも、米国における海洋構造物設計基準の見直し動向を調査することも重要であると考えた。そこで、毎年ヒューストンで開催され、今回はハリケーン・カトリーナとリタに関する特別セッションが設けられるOTC'06に参加し、さらにカレッジステーションに位置するテキサスA&M大学とOTRC (Offshore Technology Research Center)、サン・アントニオに位置するサウスウエスト研究所を訪問させて頂き、調査を行った。
 
OTRCにて
 
3. 訪問先について
 今回の調査では以下の方々にお世話になった。
【テキサスA&M大学】CHEUNG HUN KIM教授
【OTRC】RICHARD S.MERCIER氏
【サウスウエスト研究所】JERRY A.HENKENER氏、JOSEPH E.CROUCH,P.E氏、MICHAEL D.LADIKA氏
【API】CUNEYT CAPANOGLU氏
 OTRCは1988年に設立され、テキサスA&M大学、テキサス大学オースチン校と協力関係にある。産業界の石油備蓄の開発支援において中核的な役割を果たしており、海洋・海底環境、海洋構造物に作用する環境外力、先進的材料等の分野における技術開発を中心に行っている。
 OTRCは風、波、流れを組み合わせた実験ができる深海ピット付きの水槽を所有しており、今回の訪問で見学させて頂くことが出来た。メキシコ湾の深海プラットフォームの約半分に対してこの水槽で模型試験を実施して貢献しているとのことである。OTRCの水槽ではFPSOを対象とした実験やVIV (Vortex Induced Vibration)に関する実験も実施しているが、一番多いのはTLPに関する実験であり、通常1/60スケール模型を使用するそうである。
 
ハリケーン・カトリーナの経路と海面高度1)
(ループカレントは海面高度が高い部分の周りを時計回りに回っている)
 
ハリケーン・リタの経路と海面高度1)
 
《OTRCの水槽スペック》
 【水槽】:長さ45.7[m]、幅30.5[m]、深さ5.8[m](深海ピット:水槽中央部に長さ9.1[m]、幅4.6[m]、水槽底面からの深さ16.8[m])
 【造波機】:48枚のフラップ式
・波形:規則波、不規則波、長波頂・短波頂波
・波周期:0.5〜4.0[sec]
・最大波高:0.9[m]
 【曳航台車】
・曳航速度:0〜0.6[m/s](x方向のみ)
 【潮流発生装置】:ジェット多岐管式
・流向:任意方向
・流速:0〜0.6096[m]
 【風発生装置】:16台の可変ファン方式
・風向:任意方向
・風速:0〜12[m/s]
 【トラッキングシステム】:8台のカメラで模型の6自由度の運動を追尾計測
・精度:0.5[mm]
 
 サウスウエスト研究所は、13の技術部門において多岐に渡る研究開発を行っている。従業員は3000人近くおり、クライアントは産業界(例えば深海関係ではBPなどのオイル会社、ガス会社、ケーブル会社、海中機器会社など)と政府である。クライアントからの要望に全て応えられるように、対応できる研究及び開発領域を徐々に拡大しているとのことである。コンセプトの提案、設計、コンピュータツールによる解析からフルスケール試験まで一通り自分たちで実施できる体制が整っており、深海関係の試験施設としては深海圧模擬試験洞(Deep Ocean Pressure Simulation Test Chambers)を所有している。訪問時には、U.S.Navyからの依頼でROVの試験を実施しており、残念ながら見学させて頂くことは出来なかった。


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