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メガコンテナ船の安全性に関する技術動向調査
大石桂三
三菱重工業(株)神戸造船所
1. はじめに
 日本船舶海洋工学会の若手研究者・技術者活性化事業に係わる海外派遣制度により, 2006年10月15日から21日までの間,Lloyd's Register, Germanischer Lloyd, 並びにBecker Marine Systems社を訪問し,メガコンテナ船の安全性に関する技術動向について調査を行ったのでここに報告する。
 
2. 目的
 近年,コンテナ船の大型化が急速に進み既に11,000TEUクラスのコンテナ船が就航しており,さらなる大型のコンテナ船も計画されているという。このように急速に大型化していくコンテナ船の安全性に対して各船級協会はどのような点に着目しているのか,今後の船級規則の動向について調査を行った。また,その他コンテナ船に関する最新トピックスについても聴取を行った。
 
3. 派遣スケジュール
 10月15日に神戸を出発し,ロンドンのLloyd's Register (LR) 本部,ドイツ・ハンブルグにあるBecker Marine Systems社,そしてGermanischer Lloyd (GL) 本部に訪問した。派遣スケジュールを表1に示す。
 
表1 派遣スケジュール
10月15日 神戸→ロンドン
10月16日 LR訪問
10月17日 ロンドン→ハンブルグ
10月18日 Becker Marine Systems社訪問
10月19日 GL訪問
10月20日 ハンブルグ→神戸(21日着)
 
4. 調査内容
4.1 Lloyd's Register (LR)
 LR本部は,世界の金融の中心であるシティの東側,そして世界でもっとも有名な橋“タワーブリッジ”の近くに位置する。今回,コンテナ船Principal specialistのMr. David Tozer(写真1)より,現在のコンテナ船の就航実績,メガコンテナ船の推移,及び,メガコンテナ船に関する研究動向について説朋を受けた。
 近年,コンテナ埠頭もメガコンテナ船に対応したインフラが整い,今後メガコンテナ船の需要はますます増えていくとの予測であった。今後のコンテナ船の頃向についてLRが注目している点の1つにhigh cubic container,及び45ft oontainerへの対応である。現在UKで取扱われている40ft containerの約55%がhigh cubic containerであり今後10年で約80%まで増大すると予測されており,cargo holdがhigh cubic containerに適応した設計を求められるであろうとのことであった。また,45ft containerについても同様に取扱量が増大しており,deck上だけでなくcargo hold内にも45ft conteainerを搭載できる設計を求められていくであろうとのことであった。その他メガコンテナ船に関して,Hull girder strength,波浪荷重,舵のキャビテーションエロージョン問題,コンテナ落下事故の一因と考えられているパラメトリック横揺れ等コンテナ船に関する研究内容を紹介いただき今後の設計に非常に有益な情報を得ることが出来た。
 
4.2 Becker Marine Systems社
 “ベッカー舵”で有名なBecker Marine Systems社は,ハンブルグ市内から車で約30分ほどの閑静な郊外にある。筆者は主に舵・stern frameの設計を担当していることもあり,舵に関する問題についても強い関心を持っていた。今回Mr.Olaf Lingstädt(写真2)に,舵のキャビテーションエロージョンに関する研究内容について説明を受けた。舵のキャビテーションエロージョン問題は,就航後のメンテナンス・コストに大きなインパクトを与えるため,コンテナ船を運航している国内外の船主が着目している問題である。
 
写真1 LR本部にて(左側=筆者)
 
写真2 Becker Marine Systems社にて(左側=筆者)
 
 ヨーロッパでは欧州域内の団体が共同で“EROCAV(Erosion on Ship Propeller and Rudders- the influence of cavitation on material damages)”と呼ばれるプロジェクトが実施されている。
 このキャビテーションエロージョン問題に対して,Becker Marine Systems社では舵上面と下面でツイストさせ舵にキャビテーションが発生しない形状を開発したとのことである。
 
4.3 Germanischer Lloyd(GL)
 GL本部はハンブルグ中心地から地下鉄で約5分ほどのエルベ川沿いのところにある。
 今回,東アジア地区を担当されているMr.Rasmus Stute(写真3)にメガコンテナ船,及びコンテナ船一般のGLの取組みについて説明を受けた。
 現在就航しているコンテナ船の約40%がGL船級とのことで,コンテナ船に関する情報,見識は非常に深く,過去のコンテナ船の損傷事例,設計時の注意点,及び,その対策について具体的に説明していただき,当方からもいろいろと基本設計レベルから詳細設計レベルにいたる質問をさせていただき今後の設計に際して非常に有益な情報を得ることができた。
 また,近年GLは冷凍コンテナに着目しており,“RCP (Refrigerated Container stowage Positions)”と呼ばれるClass Notationを設けており,BulkheadのHorizontal stringerの配置,冷凍装置のメンテナンススペース,hold内Ventilation等に注意を払っているとのことである。
 
写真3 GL本部にて(右側=筆者)
 
5. おわりに
 今回,LR,及びGL本部を訪問した際に,今般,造船業で重要な案件であるCSR (Common Structual Rule)の今後の動向,特にタンカー,及びバルクキャリアー版CSRの次のターゲットと言われているコンテナ船版CSRの動向について質問してみた。
 現在IMO-MSCにおいてGBS (Goal Based Standard)についての議論がされており,現時点ではコンテナ版CSRの策定作業は始まっていないとのことであった。コンテナ版CSRの策定作業は,4〜5年先からになるのではないかとのことであった。
 今回の派遣を通して,海外の技術者と議論できたことは自分にとって非常に刺激的で有益であった。今回得られた知見を今後の設計業務に生かしていくよう努めて行きたい。最後にこのような機会を与えていただきました日本財団,ならびに日本船舶海洋工学会の関係者の皆様に,この場をお借りして厚く御礼申し上げます。また,訪問先へのアポイントやコンタクトパーソンを紹介していただいた方々にも心から御礼を申し上げます。
 
技術者海外派遣報告および評価
派遣者氏名 大石 桂三
派遣者所属 三菱重工業(株)神戸造船所 船舶・海洋部 計画設計課
調査テーマ メガコンテナ船の安全性に関する技術動向調査
訪問国 英国、ドイツ
派遣期間 2006年10月15日〜21日
紹介者
1. 藤原氏 ロイド船級協会 デザインサポート&図面承認部
2. 池田氏 ナカシマプロペラ 大阪営業所
3. 太田氏 GL神戸
訪問先面談者
a Mr. David Tozer LLOYD'S REGISTER, Manager-Container Ships Principal Specialist
b Mr. Olaf Lingstadt Becker Marine Systems-Area sales Manager
c Mr. Rasmus Stute Germanischer Lloyd - Deputy Head of Approval Service East Asia
調査内容(1) メガコンテナ船関連船級規則及びコンテナ船版CSR策定に関する動向調査
 各船級協会では、10,000teu以上のメガコンテナ船の試設計を行っており、その中でメガコンテナ船における問題点、留意すべき点について聴取した。船体構造においては、特にメガコンテナ船では倉内の幅が広がるため、船体捩れによる倉内変形について重要視しているとのことであった。
 また、コンテナ船版CSRの動向についてであるが、現在IMO-MSCにおいてタンカー、及びB/CについてのGBS (Goal Based Standard) が議論がされており、この後にコンテナ版CSRを策定を開始すると思われるとのことで、おそらく4〜5年先になるのではないかとのことであった。
調査内容(2) デッキ上コンテナの固縛強度関連調査
 近年、荒天時にデッキ上に搭載しているコンテナが落下する事故が多発しており、本問題について調査を行った。LR、及びGLによれば、まず重要なのはコンテナ積付管理であるとのことである。コンテナ積付の管理は通常は本船サイドが行っている場合が多いらしいが、陸上オペレーター側が管理する必要があるとのことであった。特に重いコンテナを上段に積まないよう管理することが重要であるとのことであった。
調査内容(3) 舵のキャビテーションエロージョン関連調査
 舵のキャビテーションエロージョン問題は、就航後のメンテナンス・コストに大きなインパクトを与えるため、コンテナ船を運航している国内外の船主は早くから着目している問題である。ヨーロッパでは欧州域内の10団体の共同で研究がされており、キャビテーションエロージョンに対する対策もなされているとのことであった。本問題について舵メーカーであるBecker Marine systems社では、舵上面と下面でツイストさせた舵を開発したとのことである。また、LRにおいても舵上面と下面でツイストさせキャビテーションを発生させないような形状を研究しているとのことであった。
 
調査の達成状況に対する自己評価
 日頃業務でお世話になっている船級協会を中心に訪問・調査を行ったが、今回は学会からの派遣ということで、個船海の話ではなくコンテナ船一般について、コンテナ船の規則に関する事項や構造上注意すべき事項等についてコンテナ船に携わる方々と質疑応答できたことが非常に有意義であった。日頃、海外に行って調査をする機会は非常に少なく、今回の訪問は非常にいい刺激になったし、また、これまで以上に海外の情報についてアンテナを張る必要性を痛感した次第である。
後続の申請者・派遣者へのアドバイス
 造船所で基本設計、詳細設計に携わっている方は、海外に渡航して調査するといった機会が少ないと思われるので、ぜひこの海外派遣制度を活用して自分の見識を広げていただきたいと思う。また、このときに海外のセミナーや学会等に参加してみるのも良いのではないかと思う。
派遣事業に対する意見・要望等
 派遣の日程について、業務上やむを得ず変更せざるを得ない状況もあるので、学会は派遣日程については柔軟に対応すべきである。
 
推薦委員会の評価
推薦委員会 無
国際学術協力部会の評価
 近年、コンテナ船の大型化が急速に進み、10,000TEU以上のメガコンテナの建造については日本はヨーロッパや韓国に較べて遅れていると言える。そのような中で大型コンテナ船建造の本場であるヨーロッパの船級協会や舵メーカーに赴き、直接にその設計上の問題点やそれらを解決する新しい技術などを聴取したことは有意義であったと考えられる。特にコンテナ船にも将来適用されるCSRルールについては、その動向について今後実船を設計する上での有用な情報を得たと考える。
 また、大型コンテナを設計する上で貴重なノウハウを有している船級協会やエンジニアリング会社の技術者とつながりができたことで、海外との技術交流ネットワークが構築できたと考える。


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