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精神障害者の家族及び介護者等への支援
精神障がい者の家族の理解
精神障がい者と暮らす家族のアセスメント
家族や介護者への支援
 
2006年10月19日(木)
財団法人 東京都医学研究機構
東京都精神医学総合研究所
社会精神医学研究分野
主任研究員 田上 美千佳
 
精神障がい者をもつ家族援助の必要性
1. 精神疾患は、多くが再発を繰り返し慢性に経過
2. 統合失調症の発症年齢は、思春期・青年期
⇒ 家族の人生設計が変わる
3. 長期にわたって再発を繰り返す。
⇒ 家族成員内の関係が変化。
4. 現在は、ますます、精神障がいの地域での生活が促進されている状況。72,000人→「時代が変わりましたら引き取ってください!」??
5. わが国では、退院して家族と同居する障がい者が多い⇒204万人の障がい者⇒400万人の家族
6. 統合失調症患者のセルフケア能力低下
 家族は日常生活全般(清潔・排泄・食事・金銭管理・服薬など)にわたって、患者のセルフケア行動の援助を行う必要に迫られる
 
・患者の病状(例;奇異な行動や社会的な逸脱行動)への対処/近隣への迷惑に対する配慮
・家族の緊張;「いつも神経を研ぎ澄ましている」
・家族の生活は大きく変化
 家族にとっての心理社会的な影響 大
 
医療での「家族」のとらえ方
・家族は病理;患者の病気の原因
・家族は背景;患者の背景(キーパーソンの特定)
・家族は資源;患者の回復を助ける資源
 
・家族は負担を背負っている;様々な負担を背負い、援助を必要としている
 
家族ケアに対する訪問看護への期待(私見)
 
家族が医療に求めること(援助ニーズ)
1)再発時・症状憎悪時の救急医療体制(家族の負担軽減)
2)病状や病気の見通しなど、病気に対する正しい知識伝達
 
家族のおかれている状況(困難)
・本人や家族の努力で治せないことを理解するのは難しい。
・専門家への相談は、なかなか行われない。
・専門家のアドバイスを、なかなか実行できないことがある。
 
家族が退院をためらう理由
・家族は退院を引き受けるにあたって、次の入院の難しさ、在宅でのケアのなさが退院を決断できない
 
感情表出(EE)評価尺度とはどういうことでしょうか
 
統合失調症9か月後の再発率
(Vaughn, C&Leff, J, 1976)
 
地域で生活する精神障がい者をもつ家族の体験
2006年家族調査から
 
統合失調症患者さんをもつ家族員の状況に対する反応
1)身体症状
2)心理的反応
後悔・罪悪感・負担感・いらだち・憂うつ感・諦め
3)世界観・人生観の変容
 
時間性における家族員の心的態度
1)現在の事態に混乱している態度
2)過去に向かう態度
3)現在の事態を受け入れようとする態度
4)未来へ向かう態度
 
1)現在の事態に混乱している態度
☆患者の病気が統合失調症であることへの衝撃・混乱
☆ほとんどの両親が発病時に体験
◆患者への対処が困難
◆孤立感
◆身体症状・抑うつ症状の出現
2)過去に向かう態度
☆過去の賛美
☆患者が「元に戻る」ことへの期待
◆罪悪感
◆社会からの孤立
3)現在の事態を受け入れようとする態度
☆患者との関係を取り戻そうとしている
◆諦めと「元に戻る」期待
◆負担感
◆いらだち
◆長期にわたる抑うつ症状
4)未来へ向かう態度
☆患者との関係の回復
☆患者を含めて社会にかかわっていこうとする
(1)中立的・合理的・受け身的
(2)共感的・現状に見合った期待・共に歩む姿勢
 
家族員の心的態度
家族員の患者さんの受容
◆家族員の患者さんに対する希望と受容
★ご家族は決してあきらめているのではありません
「元に戻る」ことへの希望 ⇒未来に対しての
(患者さんにみあった)希望・期待=患者さんの受容
ex; 「病気を持ちながらも自立すること」
「患者さんの病状が落ち着いて生活すること」
◆家族員にとっての患者さん受容
○患者さんと能動的にかかわり、患者さんと共に生きる態度をもつこと
○共同体(社会)に心を開いて、未来を志向すること
 
回復した家族のあり方 白石
(1999)
◆病気に対して;障がいを残したり、完治しない可能性があることを知っている。一方で、なんとかなるという希望、何とかしたいという意志を持っている。
◆本人に対して;優しさや暖かさをもっている。一方で、厳しさを併せ持っている。
◆専門家に対して;専門家のサービスに感謝の気持ちをもっている。一方で、不安・不満・要求を表明することができる。
◆自分に対して;本人と関わる決意をもっている。一方で、自分の人生の目標や楽しみを追求することができる。
◆社会に対して;本人のため不必要なことは言わない。一方で、必要なら本人のために行動し、要求を出す力、社会的活動を行う力を持っている。
 
病院の中では何がなされているの?
受診〜入院中の治療・ケアを知ろう!
・患者へのケアは?
・家族へのケアは?
 
 
退院後の生活に向けた援助:家族援助の内容
・病気・治療・状態についての理解を促す
・家族と自宅での生活・過ごし方について話し合う
・家族と話し合う場(機会)を積極的にもつ
・患者への対応・関わり方について助言・指導する
・家族の理解と協力を得る
・家族に必要な知識や場を提供する
・患者への助言・指導で家族の負担を軽減する
・家族の気持ち・立場を受止め支援する
 
病院の中では何がなされているの? 受診〜地域生活での治療・ケアを知ろう!
■専門職のかたへ
■入院ケアから地域生活支援について知ろう!
 
家族への面接の基本
訪問看護師による地域ケアの実際 etc.
 
白石弘巳・田上美千佳;事例にみるうつ病の理解とケア.
精神看護出版.2006
 
退院に向けた援助での他職種との連携?
・必要性は強く言われている。
・実際は?
 
複数のサービス提供者が共通の認識を持つ
 
訪問看護師への家族の期待
・家族は「訪問看護」に過度の期待を持っている場合がある:「良くなる方法」「もっと良い方法」
・訪問看護師が何をしているのかよくわかっていないこともある。
・もっといろいろやってほしいと思っていることもある
★対象者に対して
★家族に対して・・・話を聞いてほしい。
本人との生活での困りごと:愚痴、本人への対応の仕方がわからない。
 
訪問看護の特徴と家族援助への期待
(閉ざされた)家族の中に入っていける
訪問してわかることがたくさんある
例;虐待
家族の健康問題がわかる
例;虐待・うつ・依存
家族の物語を知ることができる
物語はひとつではない
自分の時間的・空間的位置を確認する
 
私たちは家族に何を提供できる?
・患者と家族とが(同居・別居にかかわらず)共に生活していくための支援
・患者の地域生活の促進や病状の回復・安定への支援→患者の協力者になるための支援
・家族自身への支援;負担や疲弊の防止
 
訪問看護の目的を明確に
・本人・家族との目的の共有を図る。
契約と無理のない目的を
長期目標と短期目標とを
 
訪問看護で何を行える?
1)家族自身に向けての援助
2)本人と家族との関係に向けての援助
3)家族と社会とをつなぐ援助
 
1)家族自身に向けての援助
・家族が相談できる人、家族を脅かさない存在として出会う。→信頼を築く
・家族の健康度を高める。
・不安や焦りなど、家族の心的負担を緩和する。
・家族自身の健康についてのセルフケア能力を高める。
2)本人と家族との関係に向けての援助
・具体的な場面を通して本人と家族との関係を確認する。
・保健婦自身を本人と家族が良好な関係を作るための道具として活用する。(例;家族に対して本人とのコミュニケーションの取り方のモデルを示す等)
・本人と家族の間のコミュニケーションの介在者として機能する。
・家族が本人の理解を深め、本人に対応できるよう助ける。
3)家族と社会とをつなぐ援助
・家族を支える関係機関のネットワークや社会資源の強化を図る。
・社会からの刺激として家族に接する。
 
家族に対するケアの基本
目的;家族のセルフケア機能の向上
家族の自己調整力の発揮
・家族が、自ら治癒していく過程・バランスを取り戻していく過程を援助
・家族は患者の介護者(現状)
・家族自身も援助対象者として、家族成員自身を援助
ケアの前提;家族との協力・協働体制
原則;家族の主体的な対処・家族の生活のバランス
ケアの基本
援助の基本
(1)家族の力を信じること
(2)家族が力を高めることを手伝うこと
(3)家族の必要時に応じられる態勢を整えておくこと
(家族ができないことを手助けすること)
 
家族への時期に応じた援助
(1)患者が医療機関を受診するまで、および入院後の家族への援助
・訪問保健師や看護師は家族にとって最も身近な専門職
 患者の精神症状や問題行動により、対処に困った家族からの最初の相談を受ける
・患者の意志を尊重した受診・入院ができるように家族と共に考える
 家族の心理社会的な状態を把握した上で、医療機関などとの連携を取る
・家族の疲弊が大きい場合は、家族の休息を碓保するような配慮
(2)患者の入院から退院後の家族への援助
1、病気に対する知識を提供し、理解を深める
 インフォームドコンセント、服薬の必要性、再発の兆候についての理解を深める。
家族の心情や家族の理解、患者の状況にあわせること
2、ともに歩むための技術を援助する
1)病状の経過を考慮しながら、患者との生活上での対処技術を共に考え実践する。例)[I]アイメッセージを!
2)家族自身の趣味などを楽しんだり、自分の時間を持ったりすることも必要であることを認める。
3、利用できる福祉サービスについて援助
4、情緒的な支援;負担感の軽減など
 
家族へのケアの共通ポイント
家族のできないことを手助けして、できることは見守る姿勢で
 
家族がともに歩むために;生活する上での小さなことを丁寧に
 
田上美千佳:家族へのケアをとらえなおそう、精神科看護10月号、2005特集「家族ケアを始めよう」より一部抜粋
 
家族ケアの方策(訪問看護編)
・その1: まずは、家族の語ることに耳を傾ける
・その2: 家族の生活を把握する
・その3: チーム医療のなかでの役割を担う
・その4: すべてを訪問看護師が解決しようとしない
・その5: 家族への心理教育的支援は有効
・その6: 家族が今できることをやっていけるように伝える
・その7: 訪問看護師にとっては当然のことでも、言語化して家族に伝える
・ワンランクアップケア:それぞれの家族にあった技術
 
統合失調症ご本人・家族向けのビデオ
 
精神障がい者の訪問看護・家族援助に関する文献
●坂田三允・萱間真美・櫻庭繁・根本英行・松下正明・山根寛編.精神看護エクスペール、11精神看護と家族ケア.東京;中山書店2005;123-130
●中山洋子研究代表者;精神障害者の訪問看護に必要な援助技術の開発科学研究費補助金成果報告書 2000
●萱間真美編著;精神訪問看護・訪問指導ケースブック.南江堂.2001
●野嶋佐由美・渡辺裕子編;総特集 21世紀の看護をリードする「家族看護」看護臨増刊号55(7)2002
●鈴木和子・渡辺裕子;家族看護学−理論と実践 第2版 日本看護協会出版会 1999
●遊佐安一郎;家族療法入門 星和書店 1988
●J.レフ他、三野善央他訳;分裂病と家族の感情表出 金剛出版 1991
●信田さよ子;アディクションアプローチ−もうひとつの家族援助論 医学書院 1999
●田上美千佳;精神分裂病患者をもつ家族の心的態度に関する研究 お茶の水医学雑誌 46 4 181-194 1998
●田上美千佳;精神分裂病患者をもつ家族の心的態度 第1報−CFIの検討を通して−日精保健看会誌6 1-11 1997
●田上美千佳他;非分裂病思春期問題の解決をはかるための子どもと親への支援プログラム 病院・地域精神医学 42-49 2001


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