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3-2 バス事業者における利用実態の把握
3-2-1 事業者ヒアリング
 
(1)目的
 バスを利用する際の車いすの乗降、固定装置全般に関する利用実態等を把握するため、車いすを使用されている方の介助を行う乗務員へのヒアリング調査を実施した。
 
(2)ヒアリング対象事業者
 ノンステップバスの導入率が高い、及び車いす使用者の利用が多い路線を有する事業者を対象とした。
 
(3)ヒアリング内容
 車いすを使用されている方を介助した経験に基づき、次の点について質問、意見交換を行う。
(1)車いす使用者の利用頻度(月平均何人ぐらいか)
(2)車いす使用者の介助(乗車〜車いす固定、解除〜降車)で配慮している点
(3)車いす固定に要する時間
・乗降用スロープの設置、乗車(誘導)に要する時間
・車いす固定に要する時間
・車いす固定解除に要する時間
・降車(誘導)、乗降用スロープの格納に要する時間
(4)車いす使用者が車いすの固定を断る割合とその理由
(5)スロープ、車いす固定装置への改善要望とその理由
(6)車いす使用者、車いすの構造への意見、要望
 
(4)ヒアリング方法
場所:バス事業者の営業所(3ヵ所)
人数:3〜5名程度/回
対象:車いすを使用されている方の乗降介助経験が複数回ある乗務員
 
(5)ヒアリング結果
 ヒアリングにより得た結果としては、車いすを使用している方の利用頻度は多い路線で2〜5人/日程度と利用頻度は低い。また、利用者の殆どが固定ベルトを希望しない実態が明らかとなった。また、乗務員にとっても三点式の固定ベルトはどうしても時間がかかり、簡単に短時間で固定できる工夫をして欲しいとの意見が多くあった。詳細は下表に示す。
 
表3-8 ヒアリング結果のまとめ
項目 意見など
車いすを使用している方の利用頻度
・固定の利用客が多く、朝・夕の通勤の利用、通院の利用などが主となっている。
・多い路線で2〜5人/日程度の利用がある。
乗降時の介助の配慮点 全般
・各社車いす介助の研修を行っている。
・スムーズな乗降ができるよう、行先を予め聞いておくなどの配慮をしている。
・混雑時にはスペース確保のため、先に車いす使用者を乗車させている。
・利用者への配慮として「してはいけないこと」を聞いている。
乗車時
・低床車は、縁石と車内の高さが合っている場合、スロープ板なしで利用者が自分で乗車してしまう場合もある。
・スロープを使用する際は必ず乗務員が介助をしている。
・車いすの後ろに買物袋をさげて乗車し、転倒しそうになったこともある。
固定時
・固定ベルトは殆どの利用者が希望しない。(その場合、横ベルトのみつける場合、つけない場合がある)
・安全上は固定装置をつけて欲しいので必ず確認をとる。
乗降・固定に要する時間
・3〜5分程。
・バスベイのない道路で停車させていると渋滞になることがある。
・電動車いすのほうが乗車に時間がかかる。
車いすを使用している方への要望
・時間を気にせず、ゆっくりと安全に乗車してもらいたい。
・車内での移動や車いすの横付けについては、乗務員が慣れていない場合もあるので、介助の人にお願いしたい。
装置への改善要望など スロープ
・引き出し式、電動式、可搬式などが一般的であるが、それぞれ利点・欠点がある。
・長さについては、長いほうが使いやすい。
・統一の規格としてほしい。乗務員もなれるのに時間がかかる。
固定装置
・現在の3点式はどうしても固定に時間がかかる。マジックテープとか、床下収納ベルトとか、簡単に短時間にできる装置を工夫してほしい。
その他
・固定の場所がわかるよう、車いす側にもフックをかける位置に印などをつけてほしい。
・歩道の高さなどの環境整備を進めて欲しい。
その他
・バス停付近の車の取り締まりを強化して欲しい。
・利用者と乗務員の対話の場をもって欲しい。理解を深めてマイナス要素をなくしたい。(車いす使用者を乗せたことのない乗務員もおり、そういう乗務員の理解も深めたい)
 
表3-9-1 ヒアリング結果の詳細 その1
項目 意見など
車いすを使用している方の利用頻度
○使用頻度(事業者A)
・福祉施設が沿線にある路線を中心に、1ヶ月平均10〜15人くらい。多い日で4〜5人/日の利用がある。
・乗車を予約する人は少なく、決まった時間に乗車する固定客が多い。
・朝・夕が主な利用となっている。
○利用頻度(事業者B)
・車いすを使用している方の利用頻度は、土日が多い。
・営業所全体で30〜40人/日くらいが利用している。
・一日3〜4回、バスを利用する方もいる。
・車いすを使用している方は固定客が多い。
○利用頻度(事業者C)
・多い時で2〜3人/日/路線程度。
・病院などが沿線にある路線に利用者が多い。
・固定の利用客が殆どである。
○利用状況
・車いすは電動と手動のタイプを利用している人が半々程度。
・車いすを使用している方はノンステップバスを希望する方が多く、お客様から電話でノンステップバスの運行の確認をしてくることがある。
・手動車いすを使用している方には、ほとんどの場合、介助者が付き添っている。
・電動車いすを使用している方が多い。
・車いすを使用している方の利用頻度は、この地域では増加している。
・通勤時の利用も多く、混雑で乗車できない場合は1台待って利用する配慮が利用者側にある。
乗降時の介助の配慮点 全般
・特別扱いを嫌ったり、他の人の目が気になる人が多く、車内で急ごうとして他の客の足を踏まないように気を付けている。
・降りる停車場を乗車時にあらかじめ聞いておき、降車時に降りやすい停車ができるように配慮している。
・通勤時間帯は、乗降に時間がかかるため良い顔をしない利用者もいる。
・不定期ではあるが、営業所内で車いすの介助方法や高齢者の擬似体験などの研修を行っている。
・年に1〜2回NPO団体に車いす介助の要望などをきき、その都度対応している。(その時に営業所にいる乗務員は基本的に全員参加する。)
・車いすを使用している方が乗車してきた時には、必ず行先をきいている。
・固定客は乗降がスムーズであり、スロープ板なしで乗車する場合もある(歩道に正着できた場合など)。
・混雑時においては、一般利用者の前に乗車していただき、スペースを確保する。
・利用者への配慮として、「してはいけないことは何か?」と伺っている。
 
表3-9-2 ヒアリング結果の詳細 その2
項目 意見など
乗降時の介助の配慮点 乗降時
・到着し、「しばらくお待ちください」とマイクで声かけをし、一般客を乗車させてから、降りて介助している。
・低床車と縁石の高さが合っている場合、ご自分で乗車してしまう方もいる。
・道路に正着できなかった場合、一度車道にスロープで下ろしてから、さらにスロープを歩道にかけて歩道に上げるといった二段階で降ろす場合もある。(持ち運び型のスロープは臨機応変に使いやすい)
・車いすの後ろに買物袋をさげて乗車し、転倒しそうになったことがあったことから、必ず乗車時は介助している。
・車いすを固定する時、席が2つ利用できなくなるが、他の利用者から苦情がでたり、トラブルになることはない。
・乗降時にスロープを使用する際は必ず運転手が介助をしている。
・始発の停留所の場合は、先に車いすを使用している方に乗車していただく様にしている。
・スロープは、引き出し型、自動引き出し型、可搬型の3種類を使用している。
・引き出し型のスロープは、設置が早く、使いやすい。
・自動式はスイッチひとつで設置できるのは便利ではあるが、スロープは時間がかかる(故障はない)。
・スロープは引き出し型の手動で年々軽くなり便利になってきた。
・スロープの長さは、ノンステップバスで約1m、ワンステップバスで約1.2mあり、引き出し式になっている。
・可搬型のスロープは手間と時間がかかる。
・新規導入の車両には自動引出し型のスロープはない。
・スロープ板は設置後に踏み込んで安全を確認している。
固定時
・座席の跳ね上げの構造は輪留めをつけて固定するタイプもあったが、最近では座席を上げるだけの簡単なタイプが増えている。
・固定ベルトは殆どの利用者が希望しない。安全上着けて貰いたいが、固定を断られる。
・殆どの利用者が固定を断っている。横ベルトだけ装着するということは、安全性が補償できるものではないためしない。
・一旦断られても、車いすを使用している方にベルト着用のお願いをしたり、その逆に装着しなかったりすると、他の利用者から苦情をいわれることがある。
・3人に一人はベルトを着ける。但し、横ベルトのみ。
・床と車いすとの固定は3点式だが、固定を希望しない方がほとんどである。
・安全ベルトはお腹にすることになっているが、装着を断る方が多い。
・ベルトは圧迫感があるとお客様が感じることが多い。
・車いすのアームレスト部分とバスの手すり部分をつなぐベルトは必ず装着している。(電動車いすを使用されている方は、コントローラーにあたることもあるので、希望されない時もある。)
・輪留めをしている。
・車いすの固定は気をつけているが、ベルトや固定装置でスイッチ、配線等を損傷する可能性もあるので難しい。
・安全上は固定装置を付けてほしいので必ず確認をとる。
・車いすにも種類が多いため、固定に時間がかかる。
・介助の方がついている場合が多く、車いすのロックをお願いしている。
・ベルトの収納は統一した場所に置いている。
 
表3-9-3 ヒアリング結果の詳細 その3
項目 意見など
乗降・固定に要する時間
○乗降・固定に要する時間
事業者A・・・歩道から車内まで3分程度の時間を要する。(信号一回分程度)
事業者B・・・固定から発車まで5〜8分かかる。
事業者C・・・乗車から固定まで5分程度かかる。
○乗降・固定時について
・混雑時には、車内の人の整理をしてから車いす使用している方を乗せるため、時間がかかる。
・一般客が手伝ってくれることが多く、時間短縮ができる。
・スロープの扱い方は、慣れるとこつがつかめてくる。
・バスベイのない道路でバスを停車させていると、渋滞になる事がある。
・電動車いすのほうが乗車に時間がかかる。
車いすを使用している方への要望
・時間を気にせずゆっくりと乗車して欲しい。
・利用者には、スムーズな乗車をしてもらうためにも、停留所では乗務員に見える場所で待っていてもらいたい。
・ラッシュ時にスペースが確保できずに、車いすを使用している方を乗せてあげられない時に気の毒に思う。
・雨の日は、車いすを使用している方は傘がさせないので気の毒である。運転手も傘をさせない。
・定期的にNPO団体の要望をきき、その度改善策をとっているので、現時点では特に要望はない。
・車いすを使用している方との対話が大切である。
・車内での移動、車いすの横付けなどについては、運転手はなれておらず、介助の人にお願いしたい。(固定は運転手が行う)
・バス停で待っている際には、見える位置で待っていて欲しい(ポール付近)。
装置への改善要望等 スロープ
・電動の場合、スロープを出すともどらなくなってしまったりと故障が多いため、可搬型のスロープが使いやすい。
・可搬型でも扉下に格納するタイプのものは、しまう際にひっかかって時間を要するものもある。
・歩道に正着できない場合も多いため、スロープの長さは少しでも長いほうがよい。(歩道が狭い場合は車の停止位置で調整できる)
・“軽くて強い”が一番良いが、安全性も大切。
・スロープの改良は車両課に意見を出している。
・スロープ板は短いものもあるが、特に長さは使用上問題ない。長さよりも歩道の幅員の方が必要である。
・スロープ板の幅が広すぎるものもある。
・統一の規格としてほしい。設置に慣れるのには時間がかかる。
固定装置
・ワンタッチでベルトが付けられるものがあればいい。
・固定に時間がかかりすぎる。
・もっと簡単に出来る方がよい。(フック式など)車両によって固定装置は異なり、操作を覚えるのが負担となる。統一的な規格として欲しい。
・現在の3点式はどうしても固定に時間がかかる。マジックテープとか、床下収納ベルトとか、簡単に短時間にできる装置を工夫してほしい。
 
表3-9-4 ヒアリング結果の詳細 その4
項目 意見など
装置への改善要望など その他
・車いすを使用している方があせらない工夫が必要。(時間がかかることは構わない。あせって事故が起きてしまうことが懸念される)
・バス停付近の駐車の取り締まりを強化して欲しい。
・固定の場所がわかるよう、車いす側にもフックをかける位置に印などをつけてほしい。
・歩道の高さなどの環境整備を進めて欲しい。
その他
・ノンステップバスが増えているにもかかわらず、車いす使用している方の使用は増えていない。
・車いすを使用している方に積極的にバスを利用していただくためにも、ゆとりを持った運行ダイヤを希望している。
・車いす固定装置(3点方式)の研修はほとんどない。
・バスの走行環境が良くなったので、積極的にバス停留所に正着できるよう心がけたい。
・当該地域は取り締まりが民間委託されてはいないが、路上駐車は、取り締まりの法律が改正された後、減少した。
・路上駐車の時間も短くなってきている。
・駅前のバスターミナルにエレベーターがついたので、車いすを使用している方にも使いやすくなった。
・3年に1回の定期研修で車いすの介助などについて研修している。また、チーム会議として勉強会をしている。
・車いす使用者による研修を営業所にて行ったことがある。
・利用者と乗務員の対話の場をもって欲しい。理解を深めてマイナス要素をなくしたい。(車いす使用者を乗せたことのない乗務員もおり、そういう乗務員の理解も深めたい)


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