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はじめに
 今般、交通バリアフリー法(高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律、2000年施行)が見直され、2006年12月には建築物のハートビル法と一体となったバリアフリー新法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)が施行された。公共交通機関をはじめとして、街路、建築物、公園、駐車場等の連続的なバリアフリーが重視され、より一層の移動の円滑化を促進する法的枠組みができあがった。
 これまでも公共交通機関のバリアフリー化の対応はめざましいものがあり、車両、旅客施設それぞれの領域で技術開発が行われ、以前は難しいとされていた課題も乗り越えて来た。一方で、関係者の努力がありながら、まだ十分な研究や技術開発が行われていない分野も存在する。本事業ではそうした中でも、公共交通機関への車いすでの乗降並びに車内での固定に焦点を当て実施したものである。
 本事業は、車いす使用者が車両等に乗降する時のスロープの使用、乗車中の固定装置に関する課題について掘り下げ、安全性と機器の操作性向上についての研究を行い、将来的に汎用性のある望ましい仕様の提案を行うことを目的としている。今回は、特に日常的に利用の機会が多い路線バスについて重点的に研究を行った。この成果は広く鉄道や船舶にも応用できると考えてのことである。
 バスの乗降用スロープについては、使用時の角度の緩和、幅員、設置時の操作性、雨天時の滑り止めなど安全性の向上が必要である。車内での固定は、急ブレーキ、急旋回、衝突時など事故防止のための安全性が求められるが、固定作業が煩雑であるため十分に対応されていない実態があり、こうした問題の解決のためにもより安全性と操作性の高い装置の開発が必要である。
 本事業は平成19年度も継続予定であることから、次年度は実験等を踏まえ、普及策としてのJISやISOの規格化も含めた検討を行う予定である。本年度はその前段の整理として、現状の課題、技術的な到達点、利用者、交通事業者の視点による利用実態の把握や操作性等の改善方向をとりまとめたものである。
 最後になるが、多岐にわたる課題を整理し、様々な意見のとりまとめにご尽力頂いた鎌田実委員長(東京大学教授)をはじめ、学識者、障害者団体、専門機関・業界団体、交通事業者、行政関係の委員の皆さまの本事業へのご協力に深く感謝するとともに、日本財団の助成により本事業を進めることができたことに改めて感謝の意を表したい。
 
平成19年3月
交通エコロジー・モビリティ財団 会長 井山嗣夫
 
車いすの公共交通機関利用時における乗降及び車内安全性に関する研究 委員名簿
(敬称略・順不同)
委員長 鎌田 実 東京大学大学院工学系研究科産業機械工学専攻 教授
委員 藤井 直人 神奈川県総合リハビリテーションセンター研究部リハビリテーション工学研究室 室長
 〃 今福 義明 NPO法人DPI日本会議 交通問題担当役員
 〃 妻屋 明 社団法人全国脊髄損傷者連合会 理事長
 〃 星川 安之 財団法人共用品推進機構 専務理事
 〃 清水 壮一 日本福祉用具・生活支援用具協会 専務理事
 〃 冨田 征弘 社団法人日本バス協会 技術部 部長
 〃 泰松 潤 社団法人日本自動車工業会 福祉車両部会 部会長
 〃 吉田 良治 社団法人日本旅客船協会 業務部 部長
 〃 佐藤 永佳 車いす姿勢保持協会 副会長
 〃 石丸 尋士 社団法人自動車技術会技術・規格グループシニアグループリーダー、事務局次長
 〃 大沼 俊之 国土交通省総合政策局 交通消費者行政課 課長補佐
 〃 久保田 秀暢 国土交通省自動車交通局技術安全部技術企画課 車両安全対策調整官
 〃 野崎 慎一 東京都交通局 自動車部車両課 課長
 
事務局 岩佐 徳太郎 交通エコロジー・モビリティ財団 バリアフリー推進部 部長
 〃  沢田 大輔 交通エコロジー・モビリティ財団 バリアフリー推進部 企画調査課企画係長
 
作業協力 益森 芳成 株式会社企画開発 社会経済部交通経済調査室 室長
 〃   高光 美智代 株式会社企画開発 社会経済部交通環境課 課長補佐
 〃   松川 不二夫 財団法人日本自動車研究所 安全研究部 兼 研究管理部
 〃   荒井 紀博 財団法人日本自動車研究所 安全研究部 事故分析グループ
 
第3回委員会(平成19年1月30日)でご協力いただいた事業者
東京都交通局 深川営業所
京成バス株式会社 江戸川営業所
 
第1章. 調査の概要
1-1 事業の目的
 交通バリアフリー法(高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律)が施行されてすでに6年が経過し、公共交通機関の車両や駅施設などのバリアフリー化が進んでおり、高齢者、障害のある方々の外出の機会も増大している。また、平成18年6月には建築物のハートビル法と一体となったバリアフリー新法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)が公布された。
 平成18年3月31日現在のノンステップバスの普及率は15.0%)、東京都では43.3%に達しており、こうした現状に鑑み、バリアフリー新法の目標値は平成22年までのノンステップバス普及率(全国)を30%以上としている。今後、車いす使用者のノンステップバス利用は更に増加することが予想される。
 こうした中で、車いす使用者が公共交通機関を利用する際に、乗降に関する安全性や利便性の観点から、まだバリアフリー化が十分でないと考えられる部分がある。中でも、車いすでの乗降時のスロープ使用に関する課題、乗車中の固定に関する課題が挙げられる。特に、一般に利用の機会が多いバスを念頭においた場合、安全性、利便性、さらに機器の操作性向上についての研究は重要であり、将来的にその成果を広く船舶、鉄道等にも応用できる可能性があると考えられる。
 乗降用スロープは、角度によっては車いすでの自力乗車が困難であり、介助が必要な状況にある。また、スロープの幅員、操作性、脱輪防止、雨天時の滑り止めなど安全性の向上が必要である。
 車内での固定は、急ブレーキ、衝突時など事故防止のための安全性が求められている。乗車時間が短いにも関わらず、煩雑な固定作業に対応しきれない実態があり、利用者の安全性、乗務員による操作性の向上が必要である。
 このため本年度は、車いす乗降に関するスロープ並びに固定装置に関する使用時の実態把握と課題の特定のための研究を行い、具体的改善策を検討している。また、各種ガイドライン等への応用、さらに車いす固定装置については、JIS化に向けた検討も視野に入れ、その成果をもって、高齢者・障害者の公共交通機関を利用した移動の円滑化を図りたい。
 
注)バリアフリー新法の移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準に適合する低床バス(床面の地上面からの高さは65cm以下)の普及率は28.1%で、そのうちノンステップバスの普及率が15.0%(平成18年3月31日現在)。
 
1-2 調査の内容・対象
(1)調査の内容
 本調査は、次のフローチャートの手順で実施した。
 
図1-1 調査の手順
 
(2)対象とする交通機関
 車いすを使用したまま乗車する公共交通機関の車両等(バス車両、旅客船、LRT等)のなかでも、バス車両を主たる対象とする。


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