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質疑応答
 
 谷川――会場の皆さんからもご意見があれば伺いたいのですが。
 
 参加者3――私もマンガを描くので、今までいろいろなグラフィックソフトを使ってみましたが、実際のペンで描くのにかなわないと思うのは、線を太く描きたいとき、細く描きたいときに、瞬時に使い分けができなかったことです。何回描いても同じ線になってしまう。そのへんのニュアンスの表現が。
 それから、タブレットが画面と離れているという問題もありますが、これはタブレットPCが出てきたのでこれからだと思います。使い勝手の問題として、例えばペンを5種類ぐらい同時に持って、瞬時に取り替えられるといったことはできないですか。
 
 川上――ハード的にはワコムさんにリクエストを出すことになりますが、ペンタッチに関しては、Gペン、カブラペン、スクールペンなどのタッチの違いをソフトウェアで実現するためのモードは入っています。
 コミックスタジオのデビューという商品は、グラフィックソフトでは初めてタブレットPCに対応したということで、マイクロソフトのセールスプロモーションの中にしっかり入れていただきました。
 ペンの描き心地に関しては、我々では何ともしようがないところがあるのですが、ワコムさんは、マンガを描いている方を大きな市場と考えていまして、紙とつけペンの感覚をハード的にどう再現すればいいのか、真剣に検討しています。
 
 参加者3――10年もしたら、皆パソコンで描くようになるんでしょうね。
 
 モンキー――いや、どうですかね、マンガ家の中でも「マンガはペンだよ」という人がたくさんいますから、極端にそこまではいかないという気はします。コンピュータで描くのが好きな人はそちらへいくでしょうけれど、全部が全部いくとは限らないですね。
 
 川上――実は、今後の開発のテーマとして、アナログというか紙媒体のマンガで、今後も絶対紙にしか描かないという方はたくさんいると思うので、その方々が描かれた絵をスキャナで取り込んでビットマップの画像にするだけではなくて、そのデータをどんな解像度にでも対応できるフォーマットに持っていけるようなソフトウェアの完成を目指しているところです。
 
 谷川――それは原作をリフォームしていくということですか。
 
 川上――なるべく原作を変えずに。
 
 谷川――その場合の著作権などの問題はどうですか。
 
 川上――そこは技術的な部分とはちょっと異なるところで、難しいと思います。また、まったく見た目が変わらないようにできるかというと、例えばトーンの細かい点の位置がちょっとずれるとか、そこまで言い出すと難しいところではあります。
 
 谷川――ほかにご意見はございませんでしょうか。
 
 参加者5――私は、イラスト、デザインのほうの人間で、タブレットが嫌いなので、やはり手書きの仕事がほとんどなのですが、今見せていただきまして、線がすごくきれいにできているのは画期的だと思います。そのソフトウェアがカラーでできると、イラストレーターの需要はすごく高くなるのではないかと思います。たぶンマンガ家さんよりコマーシャルの需要のほうが高いはずなので、カラーのほうも早く出していただければと思いました。
 
 川上――弊社の進もうと思っている方向は、基本的にはアニメ業界とマンガ業界という日本が世界に向けて発信できるコンテンツの一番ベースの部分を、デジタルでいかに下支えしていけるかというところを考えていまして、そういう意味では、今の技術をいろいろな業界の方に使っていただけるようにしようというのは、まだプライオリティが低いんです。まずは、マンガ・アニメ業界の中で皆さんに喜んでいただけるソリューションを提供していくところで頑張っていこうと思っています。
 
 谷川――ほかに何かございませんか。
 
 参加者6――私は画材関係の販売をしている会社の者です。今、自動車メーカーのデザイナーがみんなCADを使っているものですから、個性的でない自動車ばかりになっています。小さい頃からコンピュータで、学校でも生徒を集めるためにコンピュータを設備してCADをまず最初に教えてしまう。逆に言うと、先生方がハンドメイドのマーカーでのデザインといったことを、なかなか教えにくくなっているという現状があるんです。
 私どもの会社では、デジタルとアナログというテーマで、人間の感性や想像性は何が大事なのかというところが大きいテーマになっています。例えば、マンガの世界で、そういう部分がどう考えられるのか。このソフトは、ほとんどのことがデジタル上でできるというので、私も最大限評価したいと思うんです。ただ、プロの方はもともと素晴らしい技量があって感性を磨いているんですが、基礎からこういうソフトを使ったら、プロのマンガ家の独特の世界が一体どうなるのかなと。デジタルとアナログ、感性と個性を育てるという問題をどうとらえたらよいかということです。
 もう一つは、最近の学校では絵を描かせなくなっているのですが、実はマンガを描く子供たちはたくさんいるわけです。彼らがイラストレーターやデザイナーに育ってもらいたいと考えています。マンガ家のプロになる人もいるかもしれないけれど、それ以外の創造の世界にも行けるのではないかと。それがマンガの役目としては、学校教育よりも、もしかしたら大きいウェイトを占めているかもしれないですね。
 
 谷川――では、お2人のマンガ家の先生方にお聞きしましょう。
 
 モンキー――僕もデジタルで描いていますが、もともとはやはり紙から入ってきています。僕がマンガ家になったいきさつをちょっと言いますと、マンガが好きだからマンガ家になったのですが、初めは同人誌で描いていました。同人誌で描いたマンガが、ある出版社に認められてマンガ家になったわけですが、そのときに編集長に呼ばれて、「お前は、男のキャラクターはよくできているんだけれど、女のキャラクターはまるでだめだよ」と言われました。これは無理もなくて、専門学校が電気関係だったものですから、コンピュータも割と早い時期に入れたのですが、絵の勉強はまったくしたことがなかったんです。やはり絵の勉強をしなくてはだめだと思い、すぐに家の近所にあった絵の研究所に通いました。それでやっと色っぽい女性が描けるようになったのです。
 いくらコンピュータ時代になっても、やはり基本は、先ほどおっしゃったように、マーカーを使うような技術といったものが必要ではないかという気はしますね。コンピュータが絵を描いてくれるわけではないですから。あくまでもマンガ家なり、イラストレーターにしても、やはり基本をしっかり持っている必要はあるという感じはしますね。
 
 谷川――日野さんはどうですか?
 
 日野――まったく同感ですね。コンピュータが絵を1から教えてくれるわけではないので、基本的なデッサンなどは、自分の手を動かして勉強するしかないんですね。物語もそうです。マンガだけ見ていてもだめだと思うんですよ。映画を見たり、小説を読んだり、音楽を聴いたりする。そういう中から感性とかいろいろなものを磨いていって、物語の世界をマンガという絵で表すわけです。
 その基本路線に行くまでは、デジタルでやろうとしてもだめなんですよ。絵を基本的にやる。石膏デッサン、クロッキー、いろいろなことを含めて2年ぐらい絵のデッサンをやる。その基本は永久に変わらないと思いますね。ただ、書く道具がどうかという問題だと思うんですよ。
 例えば、江戸時代には金属製のペンはないわけですから、筆ですよね。当然、筆のタッチしか出せないわけですよ。明治以降、西洋からペンが入ってきて、違う発展をした。さらにエアブラシみたいな機械が何十年か前にできました。元は写真を修正したりするものですが、それを使って絵を描く人が現れる。それと同じだと思うんですよ。コンピュータをそういう道具としてとらえる。
 ただ、道具を使うのはあくまでも生身の人間、デジタルではなく、アナログの存在なんですね。そういう意味で、基本はきちんとやらないと、どんな世界でもだめかなと思っています。100%何もかもデジタルということではありませんから、デジタルを使って何ができるかがテーマだと僕は思っているんですね。
 このソフトも、コンピュータを使っていかに手作業に近づけるかということをやっていると思うんですよ。絵のタッチとかね。だから、デジタルと言っていますが、実際にはアナログの手法をどうやってコンピュータの中でやるかということですよね。そこが面白いと思いますね。
 
 谷川――僕らはワープロを使ってものを書くけれど、では小学生がワープロで漢字を書けばいいのかというと、そうではない。やはり漢字はいちいち書かなければ覚えないし、漢字の成り立ちとかわからない。そういうことがとても大事なことなんですよね。
 
 モンキー――絵も同じですね。僕は絵の先生に、動いているものの一瞬をどうやってとらえたらいいのかというと、今はカメラというものがあるけれども、自分の記憶だけで描けと言われたことがあります。どういうことかと言うと、動いているのを一瞬見て、また目を閉じて、その頭に浮かんだものを紙に書いてみろというので、そういうことが結構いい絵の練習になりました。やはり、普段から絵の練習というのは必要だなと感じましたね。字もやはり同じですね。
 
 谷川――はい、どうぞ。
 
 参加者7――私もマックをずいぶん昔から使っているのですが、日本のソフトでマック書道というのがありました。大変よいソフトだと思います。入りも抜きも止めもあるんです。止めたらにじみが残るという表現もあるんですよ。あれに近いようなことがこのソフトでできませんか。
 私は、自分の子供を見ていて、鉛筆で漢字を練習させるのは酷だなと思うんですよ。鉛筆で漢字を書いても美しい漢字は書けないんです。筆で書かないと、漢字の美しさは出ない。漢字は、それこそイメージ教育です。字の美しさを感じ取りながら、覚えていくものだと思うんですよ。ところが、鉛筆で漢字を書くと、文字の美しさがないんです。
 でも、筆を使うわけにはいかない。やはり汚れるし。そこで、こういうソフトを使ってコンピュータで書いたとすると、文字の美しさを認識しながら子供が漢字を覚えるようになるのではないかなと思っています。


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