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モンキー・パンチの提案
 
 モンキー――僕がマンガをコンピュータで描くのは、そんなに大上段に振りかぶった訳ではなくて、ペンの代わりにならないかなという考えだったんですね。その当時はマンガをあくまでも印刷物としてとらえていましたから。映画で言えばフィルムですね。SF映画はいろいろなSFXを使えるように、コンピュータでマンガを描いた場合には、バックグラウンドも手描きでできないような絵が描けるのかなと、そういう考えもあって入れたんです。
 もう一つ、コンピュータでアイデアが練れないかなという考えもありました。それでいろいろとやっていたのですが、フランスのマンガ家のメビウスさんと対談をしたときに、「メビウスさんの先生はどなたですか」と聞いたら、「先生はいないけれど、敢えて言えば空に浮かんでいる雲だ」と言うんですね。これはいいことを聞いたと思って、早速僕も雲を写真に撮り始めて、アイデアの源の一つとして使えるのではないかと思ってコンピュータに入れておきました。
 例えばマンガの表紙なんかは、構図を考えるのにかなり苦労するものですから、雲を構図を考えるもとにするのはいいなと思いましてね。拡大したり縮小したり、回転させたりしながら、雲をいろいろな角度から見るわけです。いい構図ができそうだなと思う雲の形が出てきたら、それを基にして作る。今のところ、アイデアとしてはまだそこまでしか使っていないのですが、そういうやり方でも使っています。
 ゆくゆくは日野さんのように、デジタルでCD-ROMとかDVDとかに焼きつけて、デジタルコミックを作りたいと思っていますが、まだ確立されたものはないですし、僕自身もそのヒントになるものがまだないんですね。どういう形がいいのかというのがまったくわからない、試行錯誤しているのが現状です。
 それから、コンピュータの良さというのは、例えばアシスタントを自分の家に置く必要がなくなったということもあります。どういうことかというと、全国どこからでもアシスタントを募集できるんですね。今は通信技術が確立していて、画像をメールに添付して送ることもできます。そうすると北海道の人でも沖縄の人でも使える。もっと広く考えれば、世界中の絵を描ける人たちもアシスタントに使える。現に、北海道と東北と関西の人に、アシスタントをやってもらっています。一度だけ面接して、後は自分の家でやれということです。ただ、怠けられると困るので、かなりノルマをぶつけてやっています。これもコンピュータの便利な使い方で、今は主にそういう方向で使っています。
 将来的には、世界各国のマンガ家と一つの共同作品を作れるのではないかと考えています。これは一つ夢なんですが、例えば僕が西遊記を描きたいと思ったら、中国の絵のうまい人と一緒に仕事をするということなんかも考えています。これはデジタルがあるからできるのではないかなと思っています。
 先ほど言った雲を使ったアイデアの基というのは、ある雑誌の表紙で使ったので、どうやったかというのをコンピュータを使ってお見せします。
 
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 画像がデモ用にかなり小さくしてあります。雲を撮って、ちょうど夏だったものですから、こういう構図のアイデアが浮かんで、それをもとにして作ったのがこういう感じになります。元の雲と比べてみると全く違う形になっていますが、あくまでも自分の感性を信じながら一つの作品に仕上げていくわけです。かなり無理もあるのですが、自分を納得させながら進めていく。これが雲からできたという感じはしないと思います。雲を見なくても、このぐらいの構図は考えつくんじゃないかと思われるかもしれませんが、白い紙からここまで考えるというのは結構きついんですよ。
 これは本当はレイヤーに分かれているんですが、フォトショップがないので見られませんね。はい、あきらめます。最近は、こういうような使い方で使っています。
 デジタルマンガについて日野さんからお話がありましたが、外国の作品で、これあたりが僕の考えているデジタルコミックに一番近いと思うものがあるので、見本を持ってきました。
 
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 「戦場のテディベア」という作品で、日本でも発売されています。一応動きもあります。ページをめくるみたいな感じで、コママンガになっています。コミックとして結構面白い見せ方をしています。アイコンが変わったり、ちょっとゲーム的な感覚を出したりもしています。うまく考えているなと思うのは、例えばここをクリックしますと、当時のレジスタンスがどういう働きをしていたかといった情報が出てきます。これがちょっと新しい感じがしました。僕の作品にしても、歴史的なところが出てきたら、クリックすれば歴史的な事柄を見られるということもできます。もちろん、マンガのストーリーだけどんどん追っていくこともできます。この作品は何年か前に、デジタルマンガ部門の賞をかなり獲ったと聞いています。こういう方向も一つのヒントになると思っています。
 もう一つは、イタリアのものですが、かなり色っぽいものです。僕の好きなイタリアのマンガ家が出しているというので、イタリアに注文して取り寄せたものです。男性がヒーローの物語を女性に置き換えたらどういう話になるかということらしいんですね。物語というのは『ガリバー旅行記』で、ガリバーが女性だったらどういう話になるかというのです。完全にアニメーションになっているところもありますし、クリックするところも結構あります。ちょっとゲームの要素も入れながら物語を進めている。例えば、あちこちクリックすると地図の破片が出てきて、集めると1枚の絵になるというゲームなど、これからCDマンガなどをつくる上でいいヒントになると思って研究している最中です。
 こういったものを発展させれば、日本のいろいろなマンガ家のアイデアを借りながら、一つのまた違った方向の作品ができるのではないかなと期待しています。これはアニメーションと違って、自分1人でできる作業ではないかと思います。アイデアもふんだんに入れられると思いますが、やってみなくてはわからないというところがありますね。
 
 谷川――ありがとうございました。「戦場のテディベア」は、どこの国の作品ですか。
 
 モンキー――フランスです。ノルマンディの話です。レジスタンスなどの。そのまま物語として読めますし、歴史的なことを知りたいと思えば、そういうものもちゃんと入っている。これは印刷物ではなかなか難しいと思います。どうせやるのでしたら、CD-ROMとかデジタルでしかできないものを、試行錯誤しながら探していきたいと思っています。
 
 谷川――デジタル化に関しては、ヨーロッパのほうが進んでいるんですか。
 
 モンキー――いや、まだそんなにないですね。僕らもネットを探したりしているのですが。「戦場のテディベア」は、もう5、6年前の作品です。
 
 日野――ヨーロッパより、むしろ韓国、台湾、香港のほうが多いんですよ。韓国にはちょっと特殊な事情があって、マンガはいけないものだみたいなことで相当規制が厳しいらしく、出版するにしても貸し本屋向けにしか部数を出せないとかいう状況になってしまっているものですから、仕方なくインターネットでという部分はあるみたいですね。
 
 谷川――どうもデジタル化といっても、いろいろなバリエーションがあるみたいですね。韓国の場合は、日本のマンガをそっくりコンピュータに取り込んで、それを見るというレベルです。日野さんがやっておられるように、そこからもう一歩デジタル化が進んだものと、それからモンキーさんが出されたように、CD-ROMだからこそできるというものがないと。
 そういうレベルでどんどん上がっていくと、マンガのとらえ方が従来とは全然変わってきて、新しいマンガの世界が開けそうな感じがするんですけれどもね。
 
 モンキー――どうですかね、僕もコンピュータを使ってもう20年ぐらいやっているのですが、これというアイデアはなかなか出てこないですね。ゲームをつくるのが一番手っ取り早いですね。一般のユーザーも、ゲームならわかりやすいけれど、デジタルコミックって何みたいな感じになってしまうと思うんですよ。
 日野さんとも話をするのですが、ゲームにもすごく面白いのもあれば、全然面白くないのもある。だったらデジタルコミックに、くだらないのもあってもいいんじゃないかと。その中から1本か2本面白いのが出てくれば、ユーザーもそちらに目を向けてくれるのではないかと話しているのですが。ハリウッドの映画にしても、全部が全部面白いわけではないですね。だから、とにかくできあがったらどんどん出そうかという話はしています。
 
 谷川――フロアの方々で何かご質問があればお伺いしたいのですが。
 
 参加者1――私もちょっと関わったのですが、徳間書店がクリックマンガというのを出しました。あれも一般化しなかったんですが、あのとき私は、クリックすると話が進むというのは間違いなんじゃないかと思ったんですね。クリックするっていうのは苦痛なんですよ。今のデモンストレーションでも、先生方はどこをクリックしたらいいのか探しておられた。それはゲームの要素ではあるんですが、逆に物語を読むときには非常に苦痛になる部分でもある。面倒だし、間違えて前にコマを送ったりして。
 逆に私はクリックしないマンガがいいんじゃないかと。クリックは絵を止めるためにあるべきなんじゃないかと思うんです。この絵はずっと見たいというときだけ、クリックするわけです。それ以外は、自分が自然に読める速さを設定できて、そのテンポで進んでいく。何もしないで見ていて、じっくり見たい場面があれば止められるし、飛ばしたいときは飛ばせる。今までは発想が逆なんじゃないかと。
 
 モンキー――うーん、なるほどね。それは面白いですね。
 
 参加者1――もう一つ大きい問題としては、現状ではまだ印刷技術からの脱却ができていないということですね。近い将来、例えば、凸版がいま開発している電子ペーパーみたいな、ペラペラのディスプレイ装置ができそうなのですが、それにしてもおそらく印刷技術を超えるところまではいかないでしょう。今のは、印刷に代わる、手軽でしかもすぐに見られて、電気を使わなくても画像が定着できるようなメディアができるまでの模索なんだと思います。
 
 モンキー――アジアマンガサミットのときに韓国の人が面白いものを持ってきていました。パッドみたいなものでマンガを読むんですが、それはクリックするのではなくて、ちょっと傾けるとページがめくられて絵が変わるんです。だから電車のつり革につかまっていても、ページをめくれる。あれも一つのやり方ですね。そんなふうにハードが発達しても、ソフトを作る我々は、ただとまどってばかりいてなかなか進めないのが現状です。
 
 谷川――ここで休憩をはさんで、セルシスの川上さんから、具体的にデジタルで絵を描くという提案をお願いしたいと思います。


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