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DV被害をのりこえる サポーター要請専門講座 事業報告書

 事業名 ドメスティック・バイオレンス(DV)被害者サポーター養成講座
 団体名 ウィメンズネット「らいず」 注目度注目度3


デートDVって何?
加害者を知ることでDVへの理解を深める
アウェア代表 DV行動改革プログラムファシリテーター
山ロ のり子
 
 通算15年ほど海外に、一番長かったのはシンガポールです。私のライフワークは女性への差別のない社会をつくること。シンガポールで女性への電話相談の第一期生になりトレーングを受けました。シンガポールのあとはロスアンゼルスでした。日本でやっとDVと言い始めたのはその頃です。アメリカではDVは社会的な大きな問題であると位置づけ、その頃でもう25年の歴史がありました。仕事はもちろん、ボランティアでかかわろうという人も40時間のトレーニングを受けないといけないことが、州法で決まっている。なぜかというと間違った思い込みに気付かず被害者に対応すると二次的被害を起こしてしまう。40時間のトレーニングの後、さらに受けたのが加害者プログラムファシリテーターです。
 アメリカは逮捕・起訴してひどい人は実刑だけれども、逮捕された人は執行猶予である代わりに更生のための教育を一年間毎週2時間受けさせる、それを実施するプログラムのファシリテーター・トレーニングを受けました。暴力の責任の所在は、暴力を振るう方にある。いくら振るわれる方をかくまったり逃がしたりサポートしても、暴力を振るう人が変わらなければ追いかける。あるいはほかの人と親密な関係をつくって、また暴力を振るうので問題解決に繋がらない。それで日本でやってみたいと思い、帰国して取り組みました。
 
アウェアの活動
 アウェアは英語で「気付く」の意味。アウェアを設立して加害者プログラムを、2002年4月から始めました。いま30人ほどの男性が2つのグループに分かれて、土曜日夜と日曜日の午後、毎週受けに来ます。途中でやめる人もいるが、ずっと続けて変化を見せる人もいる。カリフォルニア州のものを応用し、プログラムは1年間毎週2時間、いろんなテーマで話し合っていく。ロールプレイやビデオを見たりもする。その中のテーマのひとつが、若い頃どうだったかと振り返ることです。すると何人かが若い頃もやっていた、妻にだけじゃなかった、前に付き合っていた彼女にも実はやっていたと気付く。これは若い人たちへの防止教育も必要だと気が付きました。
 03年にデートDV防止プログラム実施者向けワークブック、防止教育ガイドブックを発刊したところ、反応が大きく全国からメールやファクスが届きました。一番多かったのは高校の養護の先生。デートDVを見聞きする最前線にいる方たちだからです。デートDVが高校生カップルの中で起きており、被害者が養護の先生に相談しに来る。それに名付ける名前、デートDVという言葉すら、概念もなかった。だから新聞記事を目にして、あの子たちに起きているのはデートDVで、だから別れなさいと言っても簡単に別れない。きちんと理解した人が介入していかなければならないことに気が付いた、というお便りをいただいたわけです。翌年若い人向けに「愛する愛される」を書きました。まんがで事例を紹介しています。
 
グループワーク
 「若者のデートに潜む力と支配」がいったいどんなものか、グループワークを実施。A子さんとB男さんは付き合っている若者同士。この二人のありそうな会話を読んだ後、グループで話し合いをした。
 
B男「なんだよ、その格好は!そんなミニスカートはくなよ!」A子「えー!?だっで前は似合うって言ったじゃん」B男「言ったけど、俺といっしょのときはいやなんだよ!そういうの着てると、ほかの男がお前をじろじろ見るだろ。着替えて来いよ!」A子「えぇ〜、そんな・・・」B男「おい!お前は俺の女だろ・・・。早く着替えてこいよ!」A子「・・・じゃあそうするよ」
 
 若い人たちにありそうな会話です。これをもとに、グループで(1)2人の言い方でよくないところはどこか−よくないのはB男さんですが、A子さんにももうちょっと別の言い方をしてほしいというところありますね (2)2人はそれぞれどんな考えを持ち、どういう気持ちだと思うか (3)こういうことが続くと、2人の関係はどうなっていくと思うか、意見を交換し合ってください。
 
−グループごとに意見交換−
 
 この2人はいい関係になっていけると思いますか。難しいですね。ファッションチェックって若い人たち結構やっている。実はそういうことを彼からされていました、という女の子がいた。その時は何にもおかしいと思わず何年かして気が付いて、何で私あんなことしたんだろう、と。そこにはまってしまうと、おかしさにも気がつけなくなってしまう。それが彼のため、彼が愛しているからそうしてくるんだとか、私は彼を愛しているから彼の言う通りにするんだと思い込んで疑わない、そういう恐い状況に陥いる。
 食べること、一緒にやること、彼女がどんな仕事や人生を歩むとか、その前にセックスのことなど大切なことに対して、彼女が本当は「ノー」と言いたいのに言えないという状況はいくらでも起こり得る。彼女はB男の顔色をうかがうようになり、彼の価値観とか彼の好みに合わせて自分が動くようになってくる。彼のほうはどうなっていくか。自分の思い通りに彼女が動くのでエスカレートし、さらに束縛していく。デートDVは、好きになった相手を深く傷つける行為です。
 DVは力と支配です。思い通りに相手を動かす、身体への暴力、命令口調でものを言う、怒りを表わす、経済力から、社会的地位から全部、あらゆるものです。身体への暴力が目的ではなく支配です。手段として暴力を選ぶ。あらゆる力のうち効果のあるものを選んで行使する。支配することで相手から行動の自由、人生について決める権利も奪う。決める力、思考力、判断力も奪う。自信や自尊心、その人らしさを奪う。ついには人間としての尊厳まで奪う恐ろしい行為です。
 
事例から−相手への最悪の依存形態
 19歳の青年が女性に暴力を振い、振られたショックでアウェアにきました。
 彼女に前の彼氏のことで問い詰めたことから、暴力を振るった。思い出を片付けると言ってきたので、彼女は元彼の写真を捨てたと思い込んだ。ところが彼女の家で、彼の写真その他を目にして口論になり、手が出てしまった。そのことでかなり酔っ払って暴力を2回振るいました。彼は、自分勝手な期待でしたと振り返っています。思い出の片付け方は、その人それぞれが決めること。ところが彼は、彼女は前からのものを全部捨てるに違いない、捨てるべきだと期待して思い込んだ。その通り動かなかったから罰したわけですね。嫉妬を感じて寂しくなったと言っていますが、嫉妬心とアルコールを暴力の言い訳にしている。わがままで自己中心的な期待。そもそも彼はこう考えている。彼女はセックスまでしているすごく親密な関係、僕のあらゆる欲求を満たす、満たさなければならない、満たしてくれるはずの人。その通りやらなかったお前が悪い、と蹴って罰したわけです。駄々っ子です。DVは相手への最悪の形の依存です。
 結婚しているかどうかだけで、DVもデートDVもまったく変わりません。若者たちの間ではセックスすることで暴力行為が始まったり、暴力が本格的になることが実は多い。セックスしたことで、相手を自分の所有物のように考えるところから、相手への束縛が始まる。束縛は支配の始まりです。相手を独占することが愛することだと思っている。
 それから暴力を振るうと、泣いて謝ったりすることがあるのです。私が彼を支えてあげないと、と女の子は思う。暴力のある関係からなかなか離れられない。あまりに辛くて別れ話を切り出すと、今度はひどい暴力が始まり激しくなることが多い。
 内閣府などの調査結果によると、女子高校生の10人に1人がDV経験あり、女子大生の6人に1人がDV体験や被害体験があり、女の子のほうが圧倒的に多い。カップルでは3組のうち1組に、何らかのデートDVが起きています。起きているその3分の1には身体への暴力と性的な強要まで起きていることが分かります。
 
防止教育−学び落とす
 デートDVはなぜ起きるか。アウェアのビデオ「デートDV」を見ると、理解していただけると思いますのでご覧ください。(ビデオ上映)
 高校などに行って、これを見た後にプログラムをやります。DVはなぜ起きるか、力と支配という、世の中には力と支配の人間関係が一杯ある、残念ながら起きているのだと。
 それから暴力容認もすごい、日本人の7、8割は暴力を容認しています。ジェンダーバイアスとは社会的につくられた性別のことで、「男らしさ、女らしさ」だと私たちが普段当たり前のように思っていることが、実は危険であって、DVにつながってしまう、だからそういうものを学び落としましょう、と。
 英語learnの前にunを付けると、反対の意味になる。間違ったことを生きている間にいっぱい学んで自分の中に取り込み、自分の価値観や思考パターンになってしまった。そこに気が付いて学び落とす、あきらめる、捨てる、変えるということです。次に力と支配をやめる。暴力も容認しない。ジェンダーバイアスの性別による「らしさ」ではなくて、ひとりひとりの「自分らしさ」を大事にしようということです。それから相手を尊重する具体的なワークをしてもらう。人というのは自分のことは自分で決める権利、自己決定権がある、それを奪われてしまうのがDVです。さらに相手に共感することも学びましょう。これらをプログラムはテーマとしてやっています。
 
 
加害者を知ることでDVへの理解を深める
よりよい被害者支援をするために
加害者を通してDVを知る
 (1)特権意識や価値観 お風呂から出たとき、夕飯の用意ができていなかったので暴力を振るった。また、妻が勝手にテレビのチャンネルを変えた、それがきっかけで暴力を振るったというんです。彼がして欲しかったことは、自分を優先するということです。このように男性たちは気が付いてないですが、特権意識をもっているんです。自分の意識とか価値観、歪んだ価値観を持っている。そういうものに気が付いて変えなければだめです。
 そのような間違った特権意識や価値観を持っていると、相手を躾けるために罰していいと思ってしまう。そうする権利が自分にはあると考えてしまう。
 (2)自己正当化と責任転嫁 加害者は絶対自分は正しいと信じている人が多い。ある男性参加者が僕たちDV男性は正しい病にかかっている。相手が反論したり自分の言うことを聞かないだけで、ばかにされ攻撃されたように思ってしまい腹が立つ。暴力を批判されたりすると、否定をされたと考え、自分の持っている特権を奪われそうに感じる。ですから攻撃してくる、相手が悪いと考えて責任転嫁する。そして相手が加害者で、自分こそ被害者だと思っている。こういう思考は自己中心性から生まれる。
 (3)自己中心的で否定的 相手の言動を自己中心的で厳しい目で見る。相手の態度行動にフォーカスする。考え方、見方が否定的・批判的・虐待的だから怒りがわいてくる。だからその考え方を変えなければいけない。わいてくる怒りやいろんな感情は、言葉で相手に伝えるようにならなければならない。
 防止教育では「アイ(I)メッセージ」といって、自分の気持ちをオープンに正直に相手に伝える方法も紹介します。でもコミュニケーション能力が高く、自分の気持ちを言えるからDVはしないのかというと、そうではない。プログラム受講者で、自分の気持ちをとうとうと喋る人は幾人もいます。仕事上訓練を受けているから、コミュニケーション能力がものすごく高い。そういう人はその能力さえ武器にして攻撃する。妻との口論でも自分の結論は決まっている。どうやってそこに追い込んでいくかと分かってやっている。
 
アウェアでの52週
 この人が妻に暴力振るっているのかと思うくらい、やさしい顔、喋り方、物腰は優しげです。職業・年齢・学歴は一切関係ない。誰でも加害者になってしまう可能性があります。でも一番多い職業は歯医者、獣医、内科を含め医者です。
 最近多いのが、アメリカの裁判所経由できた日本人です。家族3人でロスのディズニーランドヘ旅行に行き、彼としてはいつもどおり口論のすえ蹴った。ディズニーランドのスタッフや警察が取り囲んで羽交い絞めにされ、そのまま刑務所に1週間ほど入った。裁判で加害者プログラム52週を受けることになり、いまアウェアに受講に来ている。毎月リポートをアメリカの裁判所に書いている。何とかして妻を取り戻したい一心が、ほとんど最初の動機です。
 でも離婚した人も来ます。このままでは自分が生きられないから自分を変えたい、離婚を突きつける妻の気持ちを変えたい、あるいはどこかに行ってしまった妻を取り戻したい一心で来ます。でも通い始めて少しずつ気付くようになると、自分が暴力と向き合って暴力を振るわない人間になることが必要なのだと次第に分かってくる。妻が出て行ったことを受け入れられるようになる。でも最後まで受け入れられない人もいます。
 
ファシリテーターとして
 ファシリテーターとしての私は引き出し役です。彼らはお互いに意見を交換し批判し合ったり、自己批判も他者批判もします。私が批判するより周りの仲間が批判する方が効くし、胸にストンと落ちる。別居中でまだ気付きの浅い人が、このごろ趣味のコーラスで素敵な女性に会って、いま僕は人生が楽しくなっていると語ったら、ほかの男性が、あなたはメリーゴーランドに乗って馬から別の馬へ移ろうとしているだけだ、と批判したんです。自分のことを棚に上げて僕言わせてもらうけどと言う、これがいいのです。それぞれが互いに言い合う、体験をシェアし合う、そのために私が入るわけです。
 
「力と支配」の輪
 資料の「力と支配の輪」を見てください。一見別々な暴力行為が実はお互いにかかわり合って、相手へのすごい力になってしまうということが描かれています。例えば経済的な暴力は、経済的なものだけにとどまらず、孤立や精神的な虐待になり関係し合う。暴力を一種類だけしか使わないという人はいません。組み合わせて使う。身体への暴力は一切していないという人もいます。目的は支配ですから、相手を支配するために使う力、暴力、ありとあらゆるもの全部がDVです。
 
DV行動の要因と背景
 ジェンダーの問題はなかなか気づき難い。加害者プログラムでも何時間もかけてジェンダーワークをやります。例えば妻への期待を皆いっぱい持っています。出しゃばらないでほしい、母親のようであってほしい、文句を言わないでほしい、恩を感じてほしい、感謝してほしい、精神的に支えてほしい、夫の気持ちを受け止めてほしい、包容力をもってほしい、甘え上手であってほしい、ほめ上手であってほしい、心を癒してほしい、僕の言ったことを正しいと信じてほしい、意見が対立したときは自分の意見を引っ込めてほしい、黙って聴いてほしい、自分の要求通りにしてほしい、僕のわがままを聞いてほしい、言わなくても僕のほしいものが分かってほしい、あらゆることで男より優っていないでほしい、などです。
 
 
 
 ジェンダーワークをやると、あまり甘えているので恥ずかしくなりました、とすぐ分かる人もいます。感情では全然わかりません、受け入れられないという人もいます。観念的にはできても態度行動を変えるところまでは長い。本人が決意し努力し忍耐して、時間をかけて少しずつ変わっていく。変わったと思ったけどまたやってしまった、でもあきらめないでまた頑張って前へ進むことの繰り返しです。
 1年では基礎勉強だけで不十分。実は彼らは一生やらなければならない、一生の問題です。気を抜いて気遣いをやめた途端にまたやってしまう。それでもう一度アウェアに帰ってくる人もいます。彼は変わったというグループの評価をもらっても、妻の評価では、アウェアに一生通ってもらいたいと書いてあったりします。若い人は比較的柔軟であるのに比べ、何十年もDVやって思い通りに暮らしてきた人は、それを手放せない。ですから若いうちに防止教育をし、DVをする人される人をつくらない、そういう社会に大人の私たちがしていかなければいけないと思います。
 
現状と課題−社会を変える力に
 DVは社会が生み出した問題です。もちろん個人的な要因はあります。家の中で父が母を殴ったり、どなったりしていた。力と支配を家の中で見ていたというのは、インパクトがあり影響がある。しかし幸せな子ども時代を送った人が加害者になり、アウェアに来る。半分はいます。つまり社会だけでも加害者になってしまう。十分な準備ができてしまうほど社会は間違ったことだらけなのです。
 従って社会全体が変わっていかなければならない。社会全体が変わることは、一人ひとりの意識が変わるということです。デートDVは人ごとではない。力と支配に無縁な人などいない。暴力はいけないと言っても、どこかで容認している。ジェンダーバイアスから自由な人、影響を受けていない人などどこにもいない。
 ジェンダーバイアスはいけない、自分らしさを大切にしようと思ったら自分でアンテナを張る。するといかに人々が、テレビが、雑誌が、新聞が、小説が、ジェンダーバイアスだらけかと分かります。何か変だいやだと思ったら、どんどん自分を変えていってください。皆さん自身、社会全体の意識を変えていく、被害者支援を真っ先にする。だけど加害者を放って置くわけにはいかない。子どもに連鎖していくから、加害者にも変わるための罰が必要です。アメリカのように逮捕し、更生プログラムの受講命令を裁判所から出すシステムづくりが必要です。
 それと防止教育、それら全部を進めていく必要があると思います。日本は他国より遅れてやっと始めました。先輩の国がいっぱいあるのだから、日本は短い間に変えていくことが私たちの責任です。


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更新日: 2019年8月10日

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