日本財団 図書館


キャラクター創造力研究会 第2回(2005年6月30日)
発表者:相原博之氏
テーマ:「キャラクターは現代人のお守りか?」
 
●生活者(消費者)意識から分析できること
 前半で、キャラクターと生活者意識についての簡単な指標を提示したい。2004年12月に実施した調査では、キャラクターに対する好意度は全体で9割を超え、50代以上でも高い数字が出ている。キャラクターの所有率は8割を超えている。キャラクターはオタクっぽいとか、恥ずかしいというような、いわゆる否定的な見解は2割程度である。キャラクター所有動機についての調査では、キャラクター商品によって得られる効能は、「安らげる」(56%)がトップになっている。2番目に「やさしくなれる」が続き、「さびしさがまぎれる」という回答も上位にあって、現代の日本人が心理学的な効能をキャラクターに求めていることがわかる。2000年の同じ調査でも1位は安らぎだった。年代別に見ると、あらゆる年代で安らぎがトップにある。小学校高学年の男の子で「リフレッシュ」がトップになっているぐらいだ。
 キャラクターの市場規模は、4〜5年前が頂点で、2兆円以上であった、今は1兆7000億円ぐらいになっている。その4年前の調査と比較しても、基本的に大きな変化はない。効能に関しては、2000年に比べるとより安らぎに特化してきている。2000年には「安らげる」と「気分をリフレッシュできる」が2大効能だったが、2004年には「気分をリフレッシュできる」が大きく下がり相対的に「安らぎ」が強くなっている。バンダイキャラクター研究所では、キャラクターの効能について大きく、癒し系、活力系、自己確認系の3つに分けているが、癒し系の比率が最も多く、4年前に比べてさらに増加している。小中学生がバックにぶら下げるぬいぐるみのキャラクターは、かつては新しいものをどんどん付け替える傾向にあったが、最近は汚れても、古くなっても、大事なので捨てられないという、絆や愛着が強まっている。
 コミュニケーションとの関係を調べると、コミュニケーション欲求度が高い人たちのほうがキャラクター好意率も所有率も高い。キャラクターが何らかコミュニケーションの媒体として機能する、あるいはコミュニケーションの代替物になっているようだ。コミュニケーション欲求度が高い人ほどキャラクター商品へのある種の依存度、キャラクター商品を通じた自己表現の意識が高い。実際のコミュニケーションレベルは問うていないが、より人間関係を強めたい、コミュニケーションをとりたいと強く思っている人ほど、いつもキャラクターを側に置いておきたいとか、キャラクターに友達との絆を感じるという傾向がある。人間同士のコミュニケーションで得られない部分をキャラクターで代替していると言えるかもしれない。キャラクターと、記憶、思い出、経験とのつながりが顕著に見られる。例えば「おばあちゃんに買ってもらったので捨てられない」というような、キャラクターそのものの価値というより、キャラクターに付随する記憶がキャラクターの価値を増殖させる形になっている。本当にキティが好きだから捨てられないのか、買った時のシチュエーションが大事だから捨てられないのか、混ざり合う形になっている。最近の小学校高学年の女の子たちはどんなキャラクターを持っているのか。ナルミヤ・インターナショナル(アパレルメーカー)のナカムラくんというキャラクターが非常に人気がある。いわゆるファンシー系のキャラクターに大量に囲まれて暮らしていて、そこに幸せを感じている。中学生から大学生は昔ほどキャラクターに興味はないが、小学生とその母親にあたる30代〜40代の女性がキャラクターに強い関心を持っている。母娘のコミュニケーション・ツールにもなっているのだろうが、サンリオのシナモンロールやウサハナ、ディズニー、ミッフィーなどファンシー系キャラクターを中心に大量に消費している。かつてキャラクターは子どものもの、玩具中心とみなされていたが、この10年ぐらいでオールターゲット、オールジャンルに広がって、今の日本では子どものものという認識はほとんどなくなっている。ジャンルは、雑貨、アパレル、家電、飲料、菓子などのほか、最近ではホテルでもキャラクターを使う。USJができた時に、大阪の帝国ホテルが部屋のベッドカバー、歯磨き粉、クッション、カップなど、全部スヌーピーという企画をやった。医療機関は、袋や診察券に使うなどかなり浸透している。認知症とキャラクターとの関わりも研究されているので、老人ホームなどでの利用も今後広まるのではないか。学校などは、もともとキャラクターのついたものは持ち込まないようにという規制があるので、なかなか入りにくい。キャラクターの定義にもよるが、そもそも制服を着ていることがキャラクタライズしていると言えなくもない。最近は大人がキャラクターを買う傾向が強まっている。仮面ライダーやキティちゃんなど、親が子どものころ好きだったものをコレクションして子どもに伝えていく形で2世代化する構造がある。少し前にチョコエッグの動物のフィギュアが大当たりしたときには、不況、リストラ、家族の乖離などで寂しい思いをしているおじさんたちを癒してくれる道具として機能したとも言われた。ガシャポン(ガチャガチャ)も、以前は子どもしか買わなかったが、いまは大人でも買うので、高いクオリティのものになっている。ガンダムは、オタク・キャラクターのナンバーワンと言えるが、プラモデルだけで100億円以上売っている。第一次ガンダム世代がいま社会の中心層になっており、再びブームが広がってきている。かつてガンダム好きだった子どもたちは、どちらかというと教室の隅っこにいるような子だったが、彼らはガンダムを生きる支えのようにして育ってきたので、ガンダムへのブランドロイヤリティが極めて高い。発売から6、7年になるプリモプエルというおしゃべりするぬいぐるみ型のロボットは、当初は若い女性向けに作ったものの全然当たらず、50歳代の女性の間に口コミで広がって、昨年から大ブームになっている。子や孫の代替物として機能しているようで、かつては考えられなかったような盛り上がりだ。家族や友達に話せないこともプリモなら話せる、自分のことを一番わかってくれるのはプリモだ、と真顔で言うファンがたくさんいる。4年前の調査で、小学校高学年(4、5、6年生)のストレスの強い子どもたちがキャラクターに求めるものを調べたところ、「自分を見守ってもらえる」「いやなことを忘れられる」「自分をわかってもらえる」などが上位で、本来は友達や家族に求めるものをキャラクターに求める傾向が顕著に見られた。また、以下の四つの選択肢から一番安心できるものを尋ねたところ、ストレスのない子どもは、母、父、親友、キャラクターという順番だが、ストレスの強い子どもは、母、キャラクター、父、親友という順番だった。我々がキャラクターに求めるもの、あるいはキャラクターが我々に提供しているものは、単に楽しい、面白い、可愛いというだけではなく、心理的な絆の部分のほうが強そうだということがわかる。
 
●本研究会のためのいくつかの視点を提示する
(1)否認意識とキャラクター
 いまの子どもたちは生まれながらに否認され、あるいは不安のまなざしで親から見られている。子どもたちは安心感を求めるが、いまの社会では家族や友達からそれを得られない。キティに代表されるようなキャラクターは、ただそこに居るだけで裏切ったり余計な話をしたりしないので、安心感を覚えるのではないか。幼い子どもが母親から独立していく過程で、ライナスの毛布のような手放せないものを持つことがあり、それを移行対象物と言う。いまの大人たちも何らか移行対象物を持っていないと不安で、キャラクターが代替しているのではないか。自分のことをわかってくれるのはキャラクターだけ、と言う人が多い。
(2)ストレス社会とキャラクター
 いまのオフィスでは、女性が自分のデスクの周りを好きなキャラクターのフィギュアで固めているのがよく見られる。好きなキャラクターを置くことで、安らぎの環境を作っているのだろう。
(3)コミュニケーション不全とキャラクター
 本来は友達や家族とコミュニケーションをとりたいが、人間関係や家族関係の変質によってそれができない環境であるため、代替物としてキャラクターにコミュニケーションを求めている。
(4)キャラクターとお守り
 カバンや携帯電話にキャラクターをたくさんぶら下げて、特に具体的な機能を得られるわけではないが、とりあえず安心する。これは、お守り的な位置付けでキャラクターが機能していると言えるかもしれない。
(5)アニメとキャラクター
 キャラクターを大きく分けると、マンガ・アニメの登場人物のキャラクターと、そうではない新生キャラクター、つまり背景を持たないキャラクターとがある。マンガ・アニメのほうは物語の世界観も含めてキャラクター性ができあがっている。しかし、ファンシー系のキャラクターはそうした背景を持たず、純粋にキャラクター造形だけに共感する。キティはその代表で、年間3,000億円のマーケットがあると言われている。ただの猫の絵に、日本人が3,000億円も払うのは、なぜか。外国でもキティは大人気だが、背景を持たないがために軽く国境を越えていく力を持っているのかもしれない。ある種のシンボルとして機能していると考えることもできるかもしれない。
(6)真性キャラクター=むひょキャラ
 ファンシー系のキャラクターを真性キャラクターと呼ぶ。顔が無表情なので「ムヒョキャラ」とも呼ぶ。ディズニーのキャラクターなどは、目や口が大きく、顔の表情も非常に変化に富んでいて、喜怒哀楽がよくわかる。キティに代表される日本のファンシーキャラは、無表情、無感情、背景の世界観もわからない。キティは口すらない。そういうムヒョキャラだからこそ、逆に感情移入ができる部分もあるだろう。高ストレスの子どもたちがキャラクターに依存するのも、キャラクターが安心のシンボルとして機能しているとも考えられる。
(7)サブキャラ
 最近のキャラクターの特徴の1つにサブキャラブームがある。「ポケモン」や「ムシキング」が代表的だ。「ポケモン」は、いまや何匹いるのかわからないほど膨大なサブキャラが存在しており、それらを収集していく形でキャラクターと関わる。「ムシキング」は、あれをキャラクターと呼べるのかどうかという議論もあるとは思うが、やはり同じパターンだ。このようにサブキャラを含めた集合体としてのキャラクターの支持も、1つのテーマとして考えておくべきだと思う。
 
 


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION