日本財団 図書館


はじめに
 本事業は日本財団の支援を受けアセアン加盟の海岸線を有する各国について、人造り、海洋汚染防止に係る情報の共有化に主眼を置いた有害危険物質(HNS: Hazardous and Noxious Substances)(以下「HNS」と記す。)に関する各国の体制の充実・強化のための支援を行い、もってアセアン地域全体における海洋汚染防止体制の整備に資することを目的とする。
 特に、近年の石油化学工業の発展により、我が国とアセアン諸国との間では、有害液体物質(NLS: Noxious Liquid Substances)(以下「NLS」と記す。)運搬船によるNLSの海上ルートが確立されており、その輸送は東アジア及び南アジア沿岸を航行する船舶に多くを依存しており、これら流出事故が発生する蓋然性が高まっている。また、IMOで採択されたOPRC-HNS議定書は遅くとも2007年6月までに発行することが予想されている。このような状況を考えると、これに係る当該地域における体制の充実・強化は焦眉の急となっている。
 本事業では平成18年11月に海洋汚染防止担当者を我が国へ招聘し、NLSに係る災害対応等の研修を受講させ、同受講者が帰国後、研修で習得した知識、ノウハウを自国で広めることにより、アセアン地域の海洋環境保護の促進を行った。また、同年月にマレーシア・ランカウイにてアセアン各国の代表者を招聘し、マレーシア環境省と協力して我が国専門家等による海洋汚染防止研究会(HNSセミナー)を開催し、アセアン各国の知識、情報の共有化を図った。
 
 本書はこれら業務の実施概要及び成果について取り纏めたものである。
平成19年3月
社団法人 日本海難防止協会
 
I アセアン各国における本事業に係る調整概要
1 目的
 海岸線を有するアセアン各国を対象に海洋汚染防止に関する支援に焦点を当てた本事業では、(独)海上災害防止センターにおける有害液体物質(NLS: Noxious Liquid Substances)に関する招聘・研修、またマレーシアにてアセアン各国からそれぞれ関係者を招聘し開催する有害危険物質(HNS: Hazardous and Noxious Substances)に関する海洋汚染防止研究会(HNSセミナー)を実施することとしており、これら業務を円滑に進めるためにアセアン各国の担当者と面談のうえ、細部を含めた調整等を行うことを目的とした。
 なお、海上災害防止センターにおけるNLS研修については、フィリピン、タイ、マレーシア及びインドネシアがODAスキームで日本に招聘・研修されることとなっており、本事業ではODAスキームに入っていないカンボジア、ミャンマー及びベトナムから担当者を招聘することとした。
 
2 アセアン各国における調整概要
2.1 ベトナム
2.1.1 国家捜索救助委員会(VINASARCOM: National Committee for Search and Rescue Socialist Republic of Vietnam)
(1)日時・場所
日時:平成18年7月26日(水) 09:00〜11:00
場所:VINASARCOM会議室
(2)打ち合わせ出席者
ベトナム側:テー総務部長、トゥアン専門官、フン担当官他
日本側:河野国際室長、山口研究員
(3)打ち合わせ概要
 日本側より本事業の年度計画等の説明を行い、先方からは感謝の念が述べられ、本事業への理解を得られた。詳細な打ち合わせ内容は下記のとおり。
(1)NLS研修
 11月に海上災害防止センターにおいて実施予定のNLS研修についてスケジュール等説明し、VINASARCOMより是非研修に参加したい旨述べられた。また、後日日本側から招聘レターをVINASARCOM宛に発出し、レターを受けた後、招聘者4名の選出をVINASARCOMが行い、9月中にVINASARCOMから回答を受けることで合意された。なお、研修に招聘する者は英語に堪能で、事故発生の際の現場指揮官もしくは将来現場指揮官となるような者を選出願う旨伝えた。
 また、ベトナムではVINASARCOMが窓口となることで合意され、研修実施までの事務的段取りは平成15〜17年度日本財団助成事業「アセアン地域内三カ国における海洋汚染防止体制の充実・強化支援」(以下「CMV事業」と記す。)実施時の流出油対策研修時と同様に進めていくことを確認した。
(2)HNSセミナー
 11月マレーシアにて実施予定のHNSセミナーについてスケジュール等説明し、同セミナーはOSPAR管理会合に併せて実施し、OSPAR管理会合及びセミナーにそれぞれ1名ずつ計2名をベトナムよりマレーシアに招聘することで了承を得た。
 また、セミナーへの招聘レターはホスト国であるマレーシアより発出される旨述べた。一方、VINASARCOM側よりOSPARに関してはベトナム海運総局(VINAMARINE)に一任しているため、セミナーに関してもVINAMARINEが担当することになる旨発言があった。
(3)その他
 その他べトナム側からの主なコメント等は下記のとおり。
・ベトナムにとってもHNSは新しい分野であり、流出油に限らずHNSに関しても人材育成を行うことが非常に重要である。
・OPRC-HNS議定書発効までにベトナムのレベルを向上させたい。そのためにも本事業の研修やセミナーは非常に有意義である。
・(本年度OSPAR管理会合にてOSPARへのカンボジア、ミャンマー及びベトナム(以下CMV)各国加盟予定の説明の後)OSPAR管理会合及びセミナーに参加し、加盟国とさまざまな情報交換を行えることに期待し、また加盟国との協力体制の枠組みについても学びたい。
・現在ベトナムには北部、中部及び南部にそれぞれ油流出対策センターがあり、中でも新しい中部のセンターにて、現在VINASARCOMチャット課長(CMV事業を初年度から担当し、昨年は研修にも参加)指揮の下、CMV事業にて日本に招聘した研修生を中心に油防除の研修中である。
・本年初頭にタイ及びカンボジアと油流出事故時の協力体制の協定を結んだ。
・ベトナム側より来年以降の本事業についての質疑があり、OSPAR会合に合わせてホスト国を中心にセミナー等を実施していく予定である旨述べた。
 なお、7月26日の打ち合わせ後、上記(1)のNLS研修について日本側とベトナム側双方に研修参加者、諸費用等について意見の相違が出たため、10月4日のベトナム海運総局(VINAMARINE)との打ち合わせに併せ、再度VINASARCOMを訪問し、研修参加者、諸費用等について詳細な打ち合わせを再度行った。その結果、参加者リストに関しては数日中に決定・連絡することで合意し、また招聘にかかる諸費用についても基本的に日本側が負担することで合意した。
 
2.1.2 ベトナム海運総局(VINAMARINE: Vietnam Marine Administration)
(1)日時・場所
日時:平成18年10月4日(水) 10:00〜11:30
場所:ベトナム海運総局会議室
(2)打ち合わせ出席者
ベトナム側:ズン課長、クウォン課長補佐他
日本側:河野国際室長、山口研究員
(3)打ち合わせ概要
 日本側より本事業の趣旨、また、11月にマレーシアにて開催予定のHNSセミナーに関してスケジュール、参加者、費用負担等詳細な説明を行い、先方からは感謝の念が述べられると共に本事業への理解、また、同セミナー(OSPAR管理会合を含む)への2名参加の合意が得られた。その他打ち合わせ時の発言等は下記のとおり。
・ベトナム側よりOPRC-HNS議定書の発効見込時期を考えると、セミナーにて今の内にHNSに関して学べることはベトナムにとっても非常に重要であり、またOSPAR加盟にも有益である旨発言があった。
・ベトナム側より招聘者が2名ということを受けて、より多くの者に学ばせるためにも次年度に同様のセミナーをベトナムでも開催して欲しい旨要望があったが、本セミナーは基本的にOSPAR管理会合に併せて開催することとしており、来年はインドネシアでの開催を予定しているが、本事業が継続していけば、ベトナムでも開催することとなる旨述べた。
・ベトナム側よりOSPAR加盟に際し資機材供与等の支援の要望があったが、当方より支援の中心が物の供与から人材育成へと変わってきており、資機材供与の支援の予定は無い旨述べ、理解を得た。
 
2.1.3 ベトナム海上捜索救難調整センター表敬訪問(VMRCC: Vietnam Maritime Search and Rescue Coordination Center)
(1)日時・場所
日時:平成18年7月27日(木) 10:00〜11:30
場所:VMRCC部長室
(2)表敬訪問出席者
べトナム側:VMRCCフー部長
日本側:河野国際室長、山口研究員
(3)発言概要
 VMRCCはベトナムのVINAMARINEの配下にある捜索救助センターであり、ハノイに本部を置き、その他にハイフォン、ダナン及びブンタウにそれぞれ地域センターがある。
 日本側より今般訪問快諾に対する感謝の念を述べ、CMV事業及び本年度事業の簡単な説明を行った後、ベトナム側よりCMV事業での日本側の協力に対する感謝の念が述べられた。また、CMV事業終了後のVMRCCの現状等について説明を受けた。詳細は下記のとおり。
・VMRCCが直接油防除作業に加わることは少ないが、VMRCC自体がVINAMARINEという組織の中にあり、これまでCMV事業で得た知識等は有効に活用している。
・3月にブンタウにてCMV事業の集大成として実施した机上訓練はすばらしい訓練であり成功したと考える。その要因としては、2004年にもブンタウにて自国で訓練を実施したこと、訓練への参加者が皆油防除に関する有識者であったこと、また、準備の段階から皆がまじめに取り組んだことが挙げられる。
・実際に海上事故が発生した際は、まずVMRCCに連絡が入り、事実確認を行い次第VMRCCからVINASARCOM等に連絡を行い対応する。なお、約一週間前にもブンタウにて250トンの油流出事故が起こったが、早急に対応し適切な処理を行った。また、ベトナムで発生するこのような油流出事故の大半が外国籍船である。
・油流出だけでなくSARに関しても国家レベルや地域レベルでのエキスパートを育成すべきである。
・CMV事業では流出油防除に関する研修であったがSARに関する研修などもあれば是非参加したい。
・現在日本とベトナムによるSARの合同訓練の予定があるが、まだベトナム政府からの了解は出ていない。今後も事故が起こる前にこのような国際協力が必要であり、日本とも協力し積極的に対策を練っていきたい。
 また、最後にVMRCCのオペレーションルームを視察した。船舶の位置情報を示しているモニターがあり、AIS等のシステムではなくJASREPのように事前に船舶側が提出している航海計画及び針路・速力と気象海象情報等により推測した位置情報が表示されているとのことであった。この情報を基に事故発生の際には、事故発生場所近辺の船舶に救助を依頼するとの説明があった。なお、AIS等の船舶情報が必要な際には、各地域のセンターに問い合わせるとのことであった。


目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION