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2. 経常収支比率の分析について
 経常収支比率は、財政指標の中でも代表的なものであり、算出式は図2のとおりである。これをベースに分析することで、上記のような観点に加え、以下のようなメリットが考えられる。
(1)既に決算カード等に記載されている地方公共団体にとって馴染みの深い数値であり、それをそのまま分析に活用できる。
(2)ここ数年、悪化傾向にある経常収支比率の改善について、地方公共団体の意識を向けることができる。
 特に、(2)の点については、臨時財政対策債に係る元利償還金の増大の影響などもあって、この5年間で地方公共団体全体の平均値が5.0%ポイントも上昇しているなど、財政の硬直化が進んでおり、その改善が急がれるところである。
 経常収支比率の分析に当たっては、図1-1を用いることとし、同図のとおり、経常収支比率(合計)、経常収支比率のうち人件費分、物件費分、扶助費分、繰出金分、補助費等その他分、公債費分、公債費以外分の8指標に分け、それぞれについて、当該団体と類似団体の数値を比較・分析するものとする。
 円の中の正八角形がそれぞれの経費に関する類似団体平均を示し、ある指標について当該団体の数値が類似団体平均よりも高ければ、正八角形よりも外側に描かれることとなる。
 また、それぞれの数値の時系列データについてもグラフ化し比較できるようにする。
 なお、特に公債費以外の合計値の指標も設けているが、これは、公債費と公債費以外に分けて分析することにより、公債費に充当すべき一般財源の多寡によって資金がタイトになっているかどうか(資金繰り)と、公債費以外の義務的な経費の多寡によって償還財源が確保できるか(償還能力)を読み取り、財政再建の進め方に関する指針を得ることができるためである。
 
図2 経常収支比率
 
3. 経費分析について
 経常収支比率による分析だけでは十分にその状況を捉えきれない経費については、補足的な分析を行うこととする。具体的には、人件費、公債費、普通建設事業費に関して行うものとする。
 人件費及び公債費については、経常収支比率の中で大きな割合を占め、財政硬直化の主要な要因であるとともに、性質別分類では他の経費に含まれる関連経費も含めより詳細な分析を行うためである。一方、普通建設事業費については、臨時的経費に分類されるため、経常収支比率には現れてこないが、歳出全体に占める割合が大きく、その水準を同様の人口規模や産業構造を有する類似団体等と比較することは、歳出分析の上で有用と考えられるためである。
 また、経費分析は、人口1人当たりの決算額の比較により行うものとする。これは、経常収支比率による分析では、絶対的な歳出の規模を比較することができず、例えば、富裕な団体においては経常収支比率が低くても住民1人当たり経費が類似団体に比して大きいなどの場合にも対応できるようにするためである。
 
(1)人件費分析(図1-2
 
 人件費は、歳出全体及び経常収支比率に占める割合が大きく、また、住民からもその動向について関心が高い経費である。
 このため、総務省では地方公共団体の給与や定員管理に関し、平成18年3月から給与情報等公表システムの運用を開始し、ラスパイレス指数、職種ごとの平均給料月額等、特殊勤務手当を含めた全手当、級別職員数などについて、統一の様式で総務省のホームページを通じて公表し、全国の地方公共団体相互間で比較や分析が可能となるようにしているところである。(資料6
 今回の歳出分析では、それに加え、性質別分類上の人件費だけでなく、物件費に含まれる臨時職員の賃金や、補助費等に含まれる公営企業(法適)等に対する繰出金のうち人件費相当分など、人件費に準ずる費用も含めたトータルの実質的な人件費のベースで比較・分析を行うこととする。
 具体的には、
・人件費
・賃金(物件費)
・一部事務組合負担金のうち人件費相当分(補助費等)
・公営企業(法適)等に対する繰出しのうち人件費相当分(補助費等)※
・公営企業(法適)等に対する繰出しのうち人件費相当分(投資及び出資金・貸付金)※
・公営企業(法非適)等に対する繰出金(繰出金)※
・事業費支弁人件費(投資的経費)
の合計から、退職手当を除いた決算額の人口一人当たりの額について、類似団体との比較を行うこととする。
 退職手当を除くこととするのは、職員の年齢構成や行革努力による退職者数の多寡に大きく左右されるものである(その額が大きいほど、望ましくないというものではない)ためである。
 なお、※印を付した項目については、現行の決算統計調査では把握できておらず、本分析を行うためには、新たに調査表に項目を追加する必要のあるものである。
 
(2)公債費分析(図1-2
 
 公債費は、義務的経費の中でも特に弾力性に乏しい経費であることから、その動向には常に留意する必要がある。
 公債費による負担度合いを判断するための指標として、平成18年度からの地方債協議制度への移行に伴い、起債に協議を要する団体と許可を要する団体とを判定するための指標として新たに実質公債費比率が導入された。
 この実質公債費比率は、従来の起債制限比率について一定の見直しを行い、公営企業の元利償還金への一般会計からの繰出しや、PFIや一部事務組合の公債費への負担金等の公債費類似経費を原則として算入することなどにより、実質的な公債費を把握できるようにしたものである。
 公債費分析については、実質公債費比率の考え方に従い、性質別分類上の公債費に加え、公債費に準ずる経費も含めたベースで比較・分析を行うこととする。
 具体的には、実質公債費比率の算出において用いられる、
・公債費充当一般財源等額(繰上償還額、公営企業債償還額及び満期一括償還地方債の元金に係る分を除く。)
・満期一括償還地方債の一年当たりの元金償還金に相当するもの(年度割相当額)等
・公営企業債の償還の財源に充てたと認められる繰入金
・一部事務組合等の起こした地方債に充てたと認められる補助金又は負担金に充当する一般財源等額
・債務負担行為に基づく支出のうち公債費に準ずるものに充当する一般財源等額
の合計から、地方債に係る元利償還金及び準元利償還金に要する経費として普通交付税の額の算定に用いる基準財政需要額に算入された額を除いた決算額の人口一人当たりの額について、類似団体との比較を行うこととする。
 なお、図1-2には、過去からの公債費の負担度合いの推移を確認できるように、起債制限比率を載せているが、その算出式は図3のとおりである。また、起債制限比率との乖離がどの程度かが分かるように、図1-2には平成17年度の箇所に実質公債費比率を載せており、その算出式は図4のとおりとなっている。
 
図3 起債制限比率
A: (1)元利償還金(公営企業債分及び繰上償還分を除く)
(2)公債費に準ずる債務負担行為に係る支出
(施設整備費、用地取得費に相当するものに限る)
(3)五省協定・負担金等における債務負担行為に係る支出
B: Aに充てられた特定財源
C: 普通交付税の算定において災害復旧費等として基準財政需要額に算入された公債費
D: 標準財政規模
E: 普通交付税の算定において事業費補正により基準財政需要額に算入された公債費
(普通会計に属する地方債に係るものに限る)
F: 臨時財政対策債発行可能額
G: 事業費補正により基準財政需要額に算入された公債費に準ずる債務負担行為に係る支出
 
図4 実質公債費比率
A: 地方債の元利償還金(公営企業分、繰上償還等を除く)
B: 地方債の元利償還金に準ずるもの(「準元利償還金」)
C: 元利償還金又は準元利償還金に充てられる特定財源
D: 地方債に係る元利償還に要する経費として普通交付税の額の算定に用いる基準財政需要額に算入された額(「算入公債費の額」)及び準元利償還金に要する経費として普通交付税の額の算定に用いる基準財政需要額に算入された額(「算入準公債費の額」)
E: 標準財政規模(「標準的な規模の収入の額」)
F: 臨時財政対策債発行可能額
 
(3)普通建設事業費分析(図1-3
 
 普通建設事業費は、公共事業費の削減や、各地方公共団体による歳出削減努力等により、全体ではここ数年減少が続いているが、歳出に占める割合は16.7%(平成17年度決算)と依然として大きいことから、経常収支比率に含まれる経常的経費に加え、特に分析を行うものである。
 具体的には、単独事業分の内訳を含め、人口一人当たりの決算額について、過去5年間の時系列で類似団体の数値と比較を行うものとする。
 なお、人口規模や財政規模が小さな地方公共団体では、例えば小中学校の建設などを行った場合に、人口一人当たりの決算額が類似団体平均と比べて著しく高くなるようなこともあるが、それをもって直ちに財政構造上問題であることにはならないので、分析上留意が必要である。


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