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競艇沿革史

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


 いまでこそ競走場の周辺は、みごとに整備されているが当時はいくらかの耕作地と、あとは雑草が我がもの顔の荒地であった。戸田橋寄りに設置する場合に比較するならばここの地の利は、きわめて悪いの一語につきる。はたしてファンは集まるだろうか、採算は合うのだろうかと、関係者は淋しいばかりのあたりを眺めて、不安にかられたのである。
 だが―やらねばならぬ。それが海のものとも山のものともわからないことは知れていた。しかし、矢はつるをはなれたのだ。
 最初の段階における土地の確保は、これまた野口管理者等、地元の協力を得て達成することができた。
 次に、浅くなった水底を浚せつし、その泥土は陸上に敷いて整地したのである。
 県との話し合いで、陸上施設は当組合が、水面については県が、それぞれ負担することになっていた。陸上施設の大部分は建物だが、木造のバラック同然のもので、とても今日の比ではない。それでも約七千万円を投じ、中野組に請負わせたのである。
 地質はやわらかく湿度の高い泥土がほとんどなので、工事関係者は全く、ドロにまみれての作業を進めたのであった。第一回競走は県営であったが、昭和二十九年十月十四日と決定されていた。陸上施設は当組合の責任であるからこれに間に合わせるため全力が傾注されたのはもち論である。
 ところが、初開催近くなっても、埋め立てた泥土は、いっこうに固まらないのである。
 加藤企画課長と阿久津専務(同氏は、特に他から嘱望されて、このときはすでに競走会に身を置いていた。)は、これに困惑した。長靴をはいても、ひざまで泥中に没するのである。職員の一人が、足をふみはずして転倒し、あわや水没ならぬ泥没するところであった。起き上ったときは、顔も定まらぬ全身クロンボとばけ、周囲の人々は大いに笑ったが、本人は腹を立てるのである。
 しかし、これは本当は笑えないことなのだと、施行者も競走会も、すぐに気づいた。これがファンだったら、ことは喜劇ではすまないのである。だが、いまさら基礎からの地固めを考えていたのではおそすぎる。そこで一計を案じ中央に穴を堀って泥中の水分や、低地のたまり水を集め、いく分かでも地固めの一助とし、他は一面に炭ガラを敷きつめたらどうかということになった。
 そこで、炭ガラを手配するとともに、職業安定所から百人ほどの作業員を派遣させてもらい、徹夜の整地作戦が開始されたのである。おり悪しく、秋の長雨が開催前日まで降るなど、悪戦苦闘の結果、どうやら形をととのえ十月十四日の朝を迎えたら、カラリとした秋晴れである。まずは縁起のよい出だしであった。が、何せ泥土の上に炭ガラをまいただけのものである。ゴムマリというか、浮草の上を歩くと評すべきか、はなはだ不安定で、足もとのおぼつかないことおびただしい。特にやわらかいところには、ロープを張って注意をうながすなど、キメのこまかい措置がとられた。
 この泥土は、いまにして言えば、当競走場の命運を暗示していたかの如くであった。すなわち、その後二年から三年は、売上は伸びずかつ不安定で、ときには赤字を非難され、住民のなかには、「貴重な税金の捨て場か」などと酷評する者もあったのである。ところが土地が固まるにつれて業績は次第に上向きを示し始めたのだ。これはただの遇然かもしれないが、考えさせるものがある。
 前述の苦労談は、まだその片鱗にしかすぎない。もしすべてを語るとすれば、定められたこの紙数の数倍を費してもまだ足りないであろう。そこで極く大ざっぱに、要約して述べることを許されたい。
 すでに多くの知るところであるが、当組合と競走会の完全な協力態勢は、全国でも他に例を見ないであろうと両者は自負している。いずれが主であるとか従であるとかは、われわれの問うところではない。これというのも野口管理者の抱擁力の大きさと、阿久津専務の率直な協力があってはじめて言えることなのである。要するに、事業の発展という大目的のためには、両者は常に不可分の関係にあることをそれぞれが自覚し理解しているのだ。
 初開催に当って、競走会が阿久津専務を先頭に全職員、宣伝ポスターを街々に貼って歩き、施行者に協力した一事は、それを雄弁に物語るものである。売上げが増せば、つまり競走会がもうかるから、利害を計算してのことさ―と評する向きもあるが、これらは、何にでも水を差して喜こんでいる徒輩のたわ言にすぎない。どうでもよければ、一応は役職にありプライドも持っている彼らが、うすぎたないかっこうで、どうして街々をうろつくであろうか。
 ノリを入れたバケツとハケを持ち、こわきにポスターをかかえた、よれよれ作業服の大の男たち―どう見ても、失業対策の労務者である。あっちヘベタベタ、こっちヘベタベタ、しかし真剣に彼らは動きまわった。仕事に熱心のあまり、板橋区内では、制止した警察官と乱闘寸前の口論をし、公務執行妨害と広告条例違反で逮捕される職員も出る始未である。幸い阿久津専務の顔で、釈放されたが、これは法の前には誉められないが、その原点である職務上の熱意からは、責めるべきではない。
 沼田議員―再び彼の名をここに出すのは、彼もまた職員に劣らぬ仕事ぶりだったからである。
 競走場に至る道路は、当時、道路とは名のみで、田んぼのあぜ道をちょっと拡幅した程度のしろものである。戸田に鉄道はないから唯一の交通機関はバスである。これは国際興業に依頼し―決して快諾ではなかった。むしろ無理にたのみこんで―乗り入れることになったが現場へ行って、運転士がしりごみをした。泥にもぐって、にっちもさっちもならないのである。資金が少ないから贅沢はできない。ままよとばかり工都川口市内や戸田町内の鋳物工場などから、ノロだのマンガンの残滓だの、より好みせず、ただでさえあればどしどし運んで、敷きつめたのである。くずしもせずそのままだから、大きなかたまりがゴロゴロして、バスの乗客こそいい迷惑だ。田舎のバスの比ではない。震度六でゆられ、それだけで疲労困ぱいに達しようというもの・・・いまだったら、こんなことでも騒じょうの原因になりかねないが、当時のファンはおおらかだったのか、たいして文句も言わないのだ。
 これを見て、沼田議員はこんなことではならじと、自分一人の考えで野口興業(当時の社長は野口管理者)に砂利を発注し、他の道路も含めて、まきにまいてしまった。同社ものんきなもので、誰が支払うのか皆目わからぬのに、当時としては巨額な百数十万円もの砂利を、電話一本で受け付け、何十台ものトラックを向けてたちまち敷いてしまったのである。組合にも戸田町にもこんな予算はない。沼田議員は競走場のためにやったのだから、組合か町が支払えと、あとはほっかむりときめこむ。野口興業は、とんだ災難に会ったようなものだが、百万くらいはどうでもよいのか督促もしないのである。大分、年月を経てから、組合は申しわけなかったと支払ったよし・・・もち論、金利などつけない。
 さすがの阿久津専務も、これには驚いていたようだが、このくらいの蛮勇がなければ、なし得なかったろうと、いまは亡き好漢沼田議員をしのんでいる。
 当初、売上は赤字もしくは赤字すれすれであったから、ボート、モーター以外は、すべて支払いストップ。月末になると収入役はエスケープして行方不明である。ついには発注しても納品を拒否する業者も出て、組合ともども苦しい受難時代であった。
 まさか、売上の伸びの悪さは、環境のせいでもあるまいが、場内の状況は、たしかによくない。コンニャク泥の表面が乾くと、一陣の風にあおられてそれが粉となって中空に舞い、予想業者の目や口に入るから、むせたり涙が出たりで商売にならず、絶句することもしばしばである。ファンとても同様、ほこりのなかを右往左往だ。
 水上でも、ときたま珍事がもち上る。なれない選手は、ターンでふくらみすぎて、対岸のあしの茂みに突っこんだり、勢いのよいのは陸地に乗り上げたりして、番狂わせを演ずる。発足後間もない頃だから、全国モーターボート競走会連合会の選手訓練も、まだ十分ではなかったのであろう。
 全モ連と言えば、当時、競走場施設の登録事務は、運輸省の委任を受けて同会が取扱っていたが、その前提である認可権は海運局の所掌となっていたので、同局監理課長石引英二氏(現神奈川県モーターボート競走会常務理事)の厳重な検査を受けることとなった。
 ところが検査の結果、勝舟投票券発売所の窓口が基準よりも二十少ない百三十窓口なのである。公式にとれば認可の不可能なことは火を見るよりも明らかだが、さりとて期日の迫ったいま、しかも宣伝もあまねく行きわたっているこの時点において、窓口増設のため延期ではサマにならないし、第一、期待しているファンに対して申しわけが立たない。ぜひ、曲げてご認可をと懇願これつとめたのも無理を承知の人情論である。少しばかり浪曲調になるが、それほどまで言うのならば、よしここは一番おれにまかせろ―と胸をたたいた石引課長は偉い。腹切り覚悟のO・Kを出したのだから、役人にしては型破りと言うほかないであろう。これが初開催初日の朝、決定したのである。施行者競走会ともどもホッと安どの胸をなでおろし、石引課長の男気に感謝感激したというのも決して大ゲサではない。いまでもここでは語り草の一つとなっている。
 あれもこれもと、とり上げたら際限がないので、混迷期のエピソードは、ひとまずおいて次なる舞台へ目を移そう。


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