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2. 消失しそうな沖ノ鳥島
スライド8
 前述したとおり、現在の東小島と北小島はサンゴの削り残しです。従って何もしなければ波によって削られる運命にありました。だからこそ280億円もかけて、2つの小島をコンクリートで固めてしまったのです。この工事で、ひとまず侵食の危機が回避されましたが、それでも沖ノ鳥島には島の沈降と海面上昇の二つの要因による“水没”の危機は消えた訳ではありません。
 
スライド9-12: 理科(地学)のトピックス
 島の沈降に関する説明はやや込み入っています。地球規模の視点に立つと、海底表面はプレートと呼ばれる薄皮状の膜で覆われています。プレートは中央海嶺で作られますが、その後マントルの動きにあわせて中央海嶺を離れていき、最後は海溝で沈み込み、再び地球内部に飲み込まれてゆきます。
 ところで海溝が2つのプレートの衝突の場にあるとき、沈み込むプレートは上側のプレートの支えになりますので、少し持ち上げられた状態になります。沖ノ鳥島のある九州−パラオ海嶺は、今から4千万年前には下に沈み込む太平洋プレートに支えられていましたが、3000万年前から1500万年前にかけて沈み込み帯が徐々に東側に移動するとともに支えが失われ、沈降するようになったと考えられています。
 1996年に建設省が実施したボーリング調査の結果によれば、最近の125,000年の間に13cm、つまり100年に約1cmの速度で沈降していることが分かっています。
 
スライド13-15: 理科(地球環境)のトピツクス
 地球温暖化については、子どもたちも、ひと通りの話は理解していると思います(詳細については研究者であっても分からないことばかりです)。しかし、時おり、子どもたちに単純化したストーリーだけを植え付けることに懸念を示す方もいらっしゃいます。確かにそれにも一理ありますが、だからと言って、研究者にも分からないような内容をそのまま子どもたちに説明するのも如何なものかと思います。
 そこでせめてグラフや表などの客観的なデータに基づいた話題にすると、単純化過ぎると言う懸念も少しは解消されるかもしれません。沖ノ鳥島の水没に関連させながら、過去から今日までの温室効果ガスの増加やこれから100年の海面上昇を話題に取り上げるのも客観性のあるアプローチになるかもしれません。
 
3. 消失する島をどう救うのか?
スライド17: 社会のトピックス(国連海洋法条約)
 消滅する島を救うためには、国連海洋法条約に照らして、島の定義を知る必要があります。ここには“自然にできた陸地であって満潮時にも海面上にあるものが島”としていますので、“自然”ではない方法で島をつくっても無意味であることが分かります。つまり、東小島や北小島が水没するからと言って、ブルドーザーで盛土しても、島とは認められないのです。あくまでも自然に形成される必要があります。
 
スライド18: 社会のトピックス(排他的経済水域)
 沖ノ鳥島を救おうするのは、情緒的な理由はさておき、排他的経済水域(EEZ)を確保するためと言っても過言ではありません。排他的経済水域にある海洋資源は準国内資源と言えます。資源の少ない我が国は、排他的経済水域にある資源に期待しています。沖ノ鳥島周辺海域にどれ程の資源があるのかについての議論は別としても、確保できるEEZは確保しておく、と言ったところでしょうか。
 我が国の排他的経済水域は意外にも広いのです。国の面積は世界第60位にもかかわらず、排他的経済水域は世界第6位です。沖ノ鳥島ひとつが失われたとしても、排他的経済水域にして約40万km2がなくなってしまいますので、EEZ確保の観点から、やはり沖ノ鳥島は重要な陸域なのです。
 
スライド20-21: 理科のトピックス(有孔虫とサンゴ)
 星砂をご存知の方も多いと思いますが、これは有孔虫と呼ばれる小さな生き物の死骸です。白く美しい南の島の砂浜は、有孔虫やサンゴの欠片などによって形成されています。現在のところ、沖ノ鳥島を消失させないためには、有孔虫やサンゴの欠片で州島を形成する以外にアイデアはありません。有孔虫については、馴染みがない人も多いと思いますが、ナメクジに殻をつけたらカタツムリ、アメーバに殻をつけたら有孔虫、と表現すると分かりやすいと思います。ちなみにサンゴの場合は、イソギンチャクに殻をつけらたらサンゴ、と覚えてください。
 
スライド22-25: 理科のトピックス(気象・堆積学)
 海のエネルギーは時に我々の想像を越えます。その1つが津波石と呼ばれる大岩です。直径4〜5mの津波石が浅瀬に運ばれれば、そこはれっきとした陸域になります。津波よりもエネルギーは小さいにしても、台風によってサンゴの欠片などが寄せ集められて、スライドにあるような陸域を作ることもあります。ツバルという国では、一晩にして高さ4m、長さ19kmの陸域が形成されたことがあったのです。
 津波や台風のような災害を待たなくても、通常の波によって、州島が形成されることも多々あります。温帯地方ではカキ殻、熱帯地方ではサンゴや有孔虫などが主な材料です。前述のとおり、沖ノ鳥島を島として維持するための唯一の方法がこれなのです。
 
4. しかし、何のために頑張るのか?
スライド27
 沖ノ鳥島には何百億という巨費が投じられてきました。しかしながら、巨費を投じるだけの“何か”があるのか、という議論は不十分ですし、調査自体も十分には行なわれていません。未知なる資源に期待して巨費を投じるというのもひとつの意見だと思いますし、自然を大切に何もいじらない方が良いというのもそれも見識だと思います。しかし、少なくとも鉱物資源やエネルギー資源などについては、次世代のために開発するのですから、子どもたちを交えて討論してみたいと思います。
 
スライド28-30: 理科のトピックス(海底鉱物)
 海底鉱物資源にはマンガン団塊、コバルトリッチクラスト、熱水鉱床などがあります。いずれも金属を含んだ鉱物です。沖ノ鳥島周辺にも(たくさんかどうかは分かりませんが)存在します。ところで私たちはどんな金属を使用している?我が国の金属自給率は?我が国にはいくつ鉱山がある?鉱害ってなに? こんなことを子どもたちと議論できると面白いと思います。
 
スライド31-33: 社会のトピックス(海底石油とメタンハイドレート)
 海底資源というと、鉱物以外では、海底石油とかメタンハイドレートがあります。海底石油については、沖ノ鳥島周辺を含めて、日本では期待薄ですが、メタンハイドレートの場合はかなり期待されています。時々“メタンハイドレートの開発に成功すれば、日本は資源輸出国になる”・・・などといった景気の良い話を耳にすることもあります。但し、沖ノ鳥島周辺には期待できません(あしからず)。
 
スライド34: 社会のトピックス(水産業)
 海底鉱物資源、海底石油、メタンハイドレートの開発が成功したとしても、恩恵にあずかるのは次世代です。しかしながら、漁業資源については、漁獲さえできれば明日にでも、私たちの胃袋を満たすことが可能です。大人と子どもの構図で話をする場合、そういった意味で、他の資源とは趣が異なる議論が可能かも知れません。
 
スライド35-36
 私の尊敬する、産業技術総合研究所の山崎哲生博士の言葉をお借りしました。
 
私たちの義務:
次世代に何を残せるかを真剣に考えること
次世代には発言権も選択権もない
子どもたちの義務:
お金さえ出せば、好きな時に、好きなものを、好きなだけ買えるようなコンビニ感覚は捨てること。
 
 私たちは次世代にたくさんの借金を押し付けることになりそうです(私たちも押し付けられている世代ですが・・・)、だから資源開発の道筋ぐらいは残してやりたいと思います。その一方で、私たちやその前の世代は、多くの環境破壊を繰り返し、次世代に残せる貴重な自然を限定的なものとしてしまいました。海洋環境もそのひとつだとすれば、手付かずの自然をとして残すことも大切なことだと思います。
 分かりやすく簡潔な言葉が求められるこの頃ですが、将来のあり方については何が正しく、何が正しくないなんて、そんなに簡単に結論付けられるものではありません。前述の話も、一見矛盾するアプローチですが、次世代のことを思いやる気持ちには変わりありません。刹那的に流されずに、知恵を絞ろうとすることが大切なのではないでしょうか?
 
 沖ノ鳥島という素材には様々な教育ネタが埋もれていると思います。最近何かと話題の沖ノ鳥島ですが、政治や経済の世界にとどまらず、教育の世界でも大いに活用して欲しいと思う次第です。


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