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4.4 ルーマニア
(ルーマニア経済概況)
 ルーマニアのGDP(2004年)は732億ドルで、国民1人当たりのGDPは3,389ドルである。GDPの27.6%を、機械、鉱業、建築材、金属、化学、食品、繊維、衣料等の製造業が占めている。サービス業は60.9%である。輸出は、2000年の104億ドルから2004年には234.8億ドルに大きく増加した。主な輸出品は、繊維、化学、軽工業、木材、燃料、金属製品及び機械・機器である。主要輸出相手国は、イタリア、ドイツ、フランス、トルコ、英国、ハンガリー、オランダ、オーストリア及び米国である。(表4-4-1)
 
 ルーマニア産業の利点としては、肥沃な農業地、多様なエネルギー資源(石炭、石油、天然ガス、水力、原子力発電)、老朽化はしているが、全ての製造業を有する工業基盤、訓練された労働力、観光産業の発展の可能性等が挙げられる。
 
 ルーマニアは、米国、EUその他の工業国、及び国際機関からの支援を受けており、国際通貨基金(IMF)、世銀(IBRD)、欧州復興開発銀行(EBRD)、米国国際開発局(USAID)は全てルーマニアに事務所を開設している。
 
 ルーマニアは、1992年にEU準加盟協定を、翌1993年には欧州自由貿易機構(EFTA)と自由貿易協定を締結し、欧州市場へのアクセスと更なる経済統合へのフレームワークを実現した。1999年12月のEUヘルシンキ・サミットでは、EUはルーマニアとの加盟交渉開始を決定した。2004年12月には、加盟準備協議が完了し、2005年4月には加盟協定に調印した。ルーマニアは、隣国ブルガリアとともに、2007年1月のEU正式加盟をめざしている。しかし、EUは、ルーマニアが汚職、競争法、司法等の分野で多大な進展を実現しない場合は、2008年まで正式加盟を延期する権利を持っている。
 
表4-4-1 ルーマニアのGDP成長率(2000〜2005年第1四半期)
2000 2001 2002 2003 2004 2005(Q1)
前年比% 2.0% 5.7% 5.0% 5.2% 8.3% 5.9%
出典:
Candidate Countries' Economies Quarterly. EU
 
 ルーマニアの産業民営化は、1992年、国営企業6,000余社の30%の株式を、成人国民全員が所有権を持つ5つの民間所有権基金に移譲することにより開始された。残りの70%は、国家所有権基金に移管された。世銀、EU、IMFの支援により、ルーマニアはエネルギー企業を含むほとんどの国営企業の民営化を果たした。
 
(ルーマニア造船業)
 大部分の主要造船所も既に民営化が完了しており、国営造船所は、Severnav-Drobeta Turnu Severinのみである。ルーマニア造船業は発展の可能性があるにもかかわらず、多くの場合、韓国や中国の影に隠れ、その可能性は軽視されている。
 
 2003年のルーマニアの造船所の竣工量は、前年比大幅減の64,702GT(98,605DWT)であった。一方、2003年末時点の受注残は、前年比大幅増の401,863GT(303,155CGT)であり、2004年の受注も全般的に好調で、今後3年間の建造予定がほぼ決まっている。売上高は、2001年が4,500万ドル、2002年は3,350万ドルと減少したが、2003年は5,140万ドルと大きな伸びを示した。造船所の総従業員数は17,285人で、うち1,300人は船舶修繕に従事している。
 
 ルーマニア造船業は、1960年半ばに小型船から大型貨物船、特殊船建造に移行して以来、変遷を経験してきた。1980年末までには、同国最大の造船所コンスタンツァは、165,000DTW型鉄鉱石運搬船、鉄道フェリー、オフショア採掘プラットフォームを建造していた。他の主要造船所は海軍基地のあるマンガリアと、ドナウ川沿いのDrobeta、Turnu、Severin、Oltenita、Giurgiu、Braila、Galati、Tulceaで、これらは河川航行用船舶と小型船舶を主に建造している。1989年、Galati造船所はルーマニア初の8,000DWT型ROROコンテナ船を建造した。78
 
 また、ルーマニア造船業は、近年、国外企業により買収されており、事例として、オランダDamenによるGalati買収、韓国大宇によるMangalia買収、ノルウェーAker KvaernerによるTulea及びBraila買収が挙げられる。なお、Aker Kvaernerは首都ブカレストに拠点を置く重機メーカーIMGB社の筆頭株主である。79
 
 
【Damen Shipyards Galati】
 ドナウ川の黒海への航路上に位置する同造船所(以下「Galati造船所」)は、1世紀以上に渡り、ルーマニアの大手造船所であり、1990年以来、西ヨーロッパ諸国向けに多様な船舶を輸出している。以前は国営造船所であったが、1999年にオランダDamen Shipyards Groupに買収され、現在では同グループ最大の造船所のひとつとなっている。同グループは、オランダ国内とルーマニア以外に、英国、ドイツ、ポーランド、中国及び米国に造船・造修所を所有しており、グループ全体の年間竣工量160〜170隻のうち、20〜25隻がGalati造船所で建造されている。Galati造船所は500〜20,000DWTの船舶(Damen Shipyards Groupが専門とするタグボート、貨物船、特殊船等)を建造しているが、最近では英国British Petroleum向け及びドイツFerrostahl向けのケミカル・タンカーを受注した。Galati造船所は、民営化後の投資により生産性が大幅に向上し、収益は倍増した80。2004年の受注額は約1億ユーロである。
 
 
【Daewoo Mangalia Heavy Industries (DMHI)】
 同造船所(以下「DMHI」)は、1997年に韓国大宇造船所(Daewoo Shipbuilding & Marine Engineering Co. Ltd.)が51%を、黒海沿岸に位置するMangalia Shipyardが49%を保有するジョイント・ベンチャー企業として発足した。直接雇用者数は3,400人、関連企業従業員は2,000人に及ぶ。発足後の同造船所への直接投資総額は約4,000万ドル、加えて技術ノウハウの投資が2,000万ドルと見積もられている。
 DMHIは、2004年に外国船主向けに12隻の新造船引渡しという過去最高の実績を記録し、2007年まで数億ユーロ相当の受注残を持っている。2005年は、付加価値の高い船種へと建造体制を変更し、大型コンテナ船建造に進出する。また、同造船所は、ドイツNSB向けの4,860TEUコンテナ船4隻(2008年3月竣工予定)、及び同じくドイツHamburg Sud向けの5,200TEUコンテナ船6隻(2009年3月竣工予定)、総額8.5億ユーロ相当を受注している。大宇重工は、DMHIを15年以内に欧州の最大手造船所にするとコメントしている。81
 
 現在、同造船所が直面する問題は、主要国際通貨に対するルーマニア通貨高と鉄鋼価格の急謄である82。特に輸出比率の高い同造船所にとって、自国通貨高は競争力に悪影響を与える。
 
 
【Aker Tulcea及びBraila】
 ノルウェーAker Kvaernerが所有するドナウ川沿いの2造船所Tulcea及びBrailaも、2004年の業績は好調であった。2003年に買収されたTulceaは黒字に転じ、2000年に買収されたBrailaは、2004年に10隻の新造船を竣工、2005年には16隻の竣工を予定している83。また、ノルウェーAker Yards ASA傘下のAker Brevikは、キプロスの船社6社向けに18,000m3型プロダクト・タンカー6隻、総額3,000万ユーロの新造を受注したが、これらはルーマニアAker Brailaでの建造が予定されている。Akerは、今後、ノルウェーでデザインされた船舶をルーマニアで建造するというビジネスを発展させてゆく考えである。ノルウェーの設計技術と、ルーマニアの安価な労働力を組合せ、需要が増加しているプロダクト・タンカー市場で、アジアの造船所と競合することが狙いである。84
 
 
(ルーマニアとEUの関係)
 ルーマニアは、EUにとって第14位の貿易相手国である。2004年の貿易総額は321億ユーロで、1995年2月のルーマニアのEU欧州協定締結後、3倍に拡大した。EUの輸出は21.7%、輸入は14.3%増加し、EUの対ルーマニア貿易黒字幅は過去2年間で倍に拡大し、39億ユーロとなっており、貿易品目の80%以上を工業製品が占めている。また、ルーマニアは、EU市場への第5位の繊維・衣料輪出国である。主要貿易相手国は、EUが71%と群を抜いており、ロシア(4.9%)、トルコ(4.4%)、米国(2.8%)と続く。
 
 ルーマニアは中東欧諸国の中で最も早く欧州共同体と正式な関係を結んだ国で、1974年から特恵国待遇を保持している。1990年にはEUと外交関係を樹立し、1991年には貿易強力協定を締結した。1995年2月には、欧州協定が発効し、1993年にはそれに先駆けて貿易関連の暫定協定が発効した。ルーマニアは、1995年6月22日、EU加盟申請を正式に提出した。
 
 ルーマニアは、EUから多大な加盟準備援助を受けており、その額は増加している。2004年には、EUのSHARE、SAPARD、ISPAプログラムから、ルーマニアのGDPのおよそ1.5%に相当する9億ユーロを上回る補助金を受け取った。1990〜2004年の期間に、ルーマニアがEUの上記3プログラムから受けた補助金総額は約48億ユーロに上る。


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