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4.3 ブルガリア
(ブルガリア経済概況)
 人口780万人(2003年)のブルガリアの経済規模は小さく、国民一人当たりGDPは6,324ユーロ(2004年)で、EU加盟希望10カ国の中で第9位、ルーマニアに次ぐ最貧国である。(表4-3-1)社会主義時代のブルガリアは、強い農業セクターを鉄鋼、重化学、電子、IT及び軍事を含む産業における人工的な開発で補っていた。しかし、これらの産業セクターは、社会主義崩壊後の自由競争により、これまで保護されていた市場を失い、大きく衰退し、また、農業改革の進展も遅く、効果は少なかった。
 
 1990年代前半の国民生産の大幅後退後、1987〜1998年にかけて工業生産は若干回復したが、農業生産の回復は皆無に近かった。工業セクターの衰退に伴い、サービス・セクターの生産高シェアは、1989年の29.5%から2002年には58.8%に急増した。
 
表4-3-1  ブルガリアのGDP成長率
(2000年〜2005年第1四半期)
2000 2001 2002 2003 2004 2005(Q1)
前年比% 5.4% 4.1% 4.9% 4.5% 5.6% 6.0%
出典:
Candidate Countries' Economies Quarterly.EU
 
 2004年には貿易収支以外の赤字幅が改善し、経常収支赤字は対GDPの7.4%に縮小した。経常赤字は1990年代終わりから4年間連続で低下し、2002年には4.7%を記録したが、その後再び増加した。2005年には8.5%となり、2006年には7%までの低下が予想されている。
 
 ブルガリアヘの対内直接投資額は、2003年のピーク後、若干低下している。(表4-3-2)EU加盟候補国として、ブルガリアは、PHARE、SAPARD、ISPAというEU財政援助プログラムの対象となっている。ブルガリアのEU加盟時期は2007年が予定されており、2004〜2006年にはEUは年間援助額を平均30%増加ずつさせている。現在の年間援助額は、4億ユーロで、同国GDPの2%に相当する。
 
表4-3-2  ブルガリアヘの対GDP比直接投資
(2000年〜2005年第1四半期)
2000 2001 2002 2003 2004 2005(Q1)
対GDP比直接投資 8.0 5.9 5.8 10.3 8.4 7.8
出典:
Candidate Countries' Economies Quarterly. EU
 
 ブルガリア政府は国外からの投資誘致を優先政策としており、主な投資先はエネルギー、観光、IT、通信、運輸等で、雇用創出を目的としている。
 
(ブルガリア海事産業)
 ブルガリアはドナウ川と黒海に面しているため、北海、地中海へのアクセスもあり、世界中へのアクセスが可能である。国内の港湾は全て民営化、近代化の対象となっている。
 
(ブルガリア造船業)
 近年のブルガリアの新造受注量の拡大は、ダブルハル・タンカーへの需要増大、海運の国際的な好況、ばら積み船や一般貨物船からコンテナ船への需要転換、製油所数の増加によるLPG船需要の拡大等の要因が大きい。
 
【Varna Shipyard】
 ブルガリアの大手造船所Varna Shipyardは、民営化が遅れている。ブルガリア政府は、2004年10月に、同造船所を所有する国営船社Navigation Maritime Bulgare(Navibulgare)の売却を承認したが、民営化に関する最終決定はなされていない。Varna造船所の財政状態は安定しており、2004年の売上は前年に比べて減少したが、赤字は計上していない。また、同造船所はBulyard Shipbuilding Industryと、40,000トンBulgarka型船の第1隻目の建造契約を締結する予定である。
 
【Bourgas Shipyard Ltd.】
 同造船所は鋼船の建造、修繕、改造に加え、アルミ製、ファイバーグラス製船舶の建造を行っている。建造用船台は全長400m、修繕用船台は200mである。新造船艤装岸壁は400m、修繕用岸壁は250mで、15トンのガントリー・クレーン設備がある。
 
 2004年に同造船所は、リトアニア船主向けに両頭型フェリー「Neringa」を引き渡した。同造船所は、既に「Neringa」の姉妹船建造、河川航行用タグボート、漁船船体等を受注している。Bourgas Shipyardsは25,000DWTまでの建造、及び全長185mまでの船舶修繕を行う能力がある。2000年の民営化後の船舶修繕隻数は、2001年の37隻から2003年には55隻に伸びている。主要顧客は、ブルガリア国内、ギリシャ、黒海沿岸諸国の船主に加え、CarisbrookeやLatvian Shipping Co.等の大手船社も発注している。
 
【ODESSOS Shiprepair Yard S.A.】
 同造船所は、黒海沿岸の工業都市Varnaの南に位置し、敷地面積320,000m2のブルガリア最大のヤードである。同造船所は乾ドック1本と浮きドック2本を持ち、35,000DWTまでの乾ドックと150,000DWTまでの修繕が可能である。岸壁は全長1,200mである。また、Bulyard S.A.(旧Varna Shipyard)の共同所有者でもあり、その設備も使用可能である。設備とサービスの質の高さにより、同造船所の顧客は、欧州、米国、アジア等の大手船社が95%を占めている。
 
【Rousse Shipyard】
 1881年創業の同造船所は、ブルガリアで鋼船を建造した最初の造船所で、新造船建造及び修繕を行っている。建造船種は、乾貨物船、海洋及び内陸水路用タンカー、コンテナ船等で、ロシア、中国、イラン、ノルウェー、シンガポール、ドイツ、キプロス、オランダ、オーストリアヘの輸出実績がある。1991年9月に、旧造船・造修所「Ivan Dimitrov」がRousse Shipyard Ltd.と社名変更し、1999年4月にドイツのRousse Shipyard Beteiligungsgesellschaft GmbHに買収された。
 
 2004年9月、同造船所は、ドイツNimmrich & Prahm向けに48,000DWT型多目的コンテナ船2隻の追加受注を獲得した。これらの新造船は2005年と2006年に引渡しの予定で、同ドイツ船社向けの受注隻数は合計5隻となる。同コンテナ船はドイツ船級で、45トン・クレーン2基を持ち、積載量は276TEUである。
 
【DOLPHIN 1-MTG Shipyard】
 Varnaに位置する修繕ヤードで、あらゆる鋼船の修繕を行っている。1991年にブルガリア国営船社Messrs Navigation Maritime Bulgareの船隊の修繕を開始し、1991〜2003年の間に同船社所有船舶だけでも150隻、計400隻以上の修繕実績がある。顧客は以下の通りである。
●Seatrade Groningen(オランダ)
●CEC Shipmanagement(デンマーク)
●IUM Sbipmanagement(ノルウェー)
●OSM Sea Partner A.B.(スウェーデン)
●Zodiac Maritime Agencies(英国)
●Tsakos Shipping and Trading(ギリシャ)
●Athenian Sea Carriers(ギリシャ)
●JG Roussos Shipping(ギリシャ)
●Ancora Investment Trust(ギリシャ)
●Kristen Marine(ギリシャ)
●Nationwide Shipping(ギリシャ)
●Tide Line(ギリシャ)
●Turkish Cargo Lines(トルコ)
●Pakoil(トルコ)
●Arda Shipping(トルコ)
●Mahart Sea Trade(ハンガリー)
 
【TEREM PLC】
 1897年創立のTEREM PLC(旧Flotski Arsenal)は、Varna湖畔に位置している。浮きドック2本、全長130mの船台3台、岸壁2本、浮きポンツーン2本を持ち、あらゆる商船、潜水艦を含む艦艇の修繕、改造、舶用機器の修理が専門であるが、新造船建造も可能である。第1浮きドックは、8,000トンまでのリフティングが可能で、全長160m、幅23mまでの船舶に対応できる。岸壁では50,000DWTまでの修繕が可能である。
 
 ブルガリアの海事産業は、主に同国北東部、面積3,820km2のヴァルナ地方に集中している。黒海に面したヴァルナはブルガリア第3の都市で、近隣の化学工業都市Devnja、Provadia、Beloslavと水路で結ばれている。
 
 ヴァルナ地方の道路網は発達している。ヴァルナは首都ソフィアへの幹線道路の始発点であり、また黒海沿岸のコンスタンツァ(ルーマニア)、ブルガス(ブルガリア)、イスタンブール(イスタンブール)を結ぶ幹線道路の中間点となっている。
 
 ヴァルナ地方の主要産業は、造船・修繕を含む鉄鋼、機械関連、化学、海運、軽工業、食品、繊維、建設で、造船・造修所、ディーゼル・エンジン、レーダー機器、医療機器、家電、建設、建設材、家具、繊維、製缶、飲料、肉製品、乳製品等の多数のメーカーが存在する。


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