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8月9日(火)
本日のスケジュール・内容
1)JICAフィリピン事務所訪問
2)フィリピン大学医学部・付属病院訪問
 
1)JICAフィリピン事務所訪問
 対比保健医療支援基本方針について、企画・調査員の井上いづみ先生より講義頂いた。フィリピンの現状は、貧困人口割合が34.0%(NSCB2000)と高く、10大死因にCommunicable diseaseとNon-communicable diseaseがともに含まれるという特徴を持っている。低開発途上国に見られる結核などの課題とともに、最近生活習慣病が増えてきているということである。また、健康水準の地域格差もみられ、フィリピン政府は、保健改革Health Sector Reform Agenda(5部門−病院、公衆衛生、地域保健システム、保健行政・規制、保健財政)における改革の推進とともに、感染症、母子保健、生活習慣病を優先的な公衆衛生上の課題として掲げている。
 我が国はこれまで国内3大都市の病院外来棟の建設、医療器材供与、国立の感染症研究所の設置、結核対策、母子保健対策、医薬品審査能力向上などのプロジェクト支援のほか、現地NGO等との連携強化による草の根・人間の安全保障無償資金協力などを実施しており、それぞれ一定の成果を上げている。また、保健医療支援に関連する比政府の政策(地域における人材不足、保健分野への予算配分縮小、ミンダナオ地域の紛争等)について政策対話などを通じて適宜言及するという支援のあり方に立っている。
 質疑応答では、参加者の興味が集まっていたらしく、非常にたくさんの質問がなげられ、それに対し、井上さんは的確に、そして、ざっくばらんに答えて下さった。感染症対策に関しては、予防接種拡大政策において、日本は麻疹患者が多かった過去の経験から、ワクチンの供与などを行い、また、TBの研究所では検査が出来る人を養成するといった支援を行っていると伺った。また、プロジェクトの進行管理に関しては、Project Cycle Manegement(PCM)によるProject Design Matrix(PDM)を用いてプロジェクトを管理しているということである。ただ、数値で表しにくい質の部分をどうやって評価するかは難しく、検討中であるということである。また、JICAで働くためにはどのようなルートがあるかという質問に対して、proper職員、企画調査員、ジュニア専門員、専門家、専門員などの職種があること、そして、その職に就くための条件について説明を頂いた。また、次の日のターラック訪問で、何を重点的に見たら良いかという質問に対して、そこでは、10年間にわたって母子手帳、母子健診の普及、機材投与などを行ってきたが、それが今でも浸透し、使われているか、または風化してしまっているかについて見るべきだという視点を頂いた。実際には何一つ新しいプロジェクトに引き継がれておらず、プロジェクトが終わったときに、それを評価するシステムが必要であると語られた。また、プロジェクトの費用対効果について、少ない費用で作った施設が必ずしも費用対効果が高いというわけでなく、その施設の持続性も考慮して評価すべきであるとおっしゃっていた。
 最後に井上先生がおっしゃっていたのは、私達が国際医療の世界で活躍する為には「英語で」「交渉する」能力を高める必要があるということである。井上先生の講義は、経験と確かな知識に基づくものであり、私達は、興味深く聞き、JICAの活動を身近に感じることが出来た。 (文責:赤木)
 
2)フィリピン大学医学部・付属病院訪問
 大学近くのショッピングモール内での昼食の後、フィリピン大学医学部(College of Medicine, University of the Philippines, Manila = UPマニラ)へ向かった。学部長であるDr. Cecilia Velasco Tomasの出迎えを受け、大学の歴史(医学部は1907年に設立、再来年で100周年を迎える)についての簡単な説明を受けた後、学部長室を訪問した。
 UPマニラは医学、看護学、歯学、薬学、公衆衛生学など多くの学部を持ち、フィリピンの大学で最大のプログラム数を誇っている。医学部の1学年定員は160名。内120名は学士号を取得後に入学、4年間の専門教育、1年間のインターンを受ける。残り40名は高校での成績優秀者が選抜されて医学部に直接入学、2年間のpre-med課程を経てから上記の専門教育へと進む。一部の社会医学科目を除き、授業は全て英語で行われる。
 約80の奨学金プログラムが卒業生などから提供されており、また、家族の収入によって学費が変化するなど教育の機会を広げる努力がなされている様であったが、実際にUPの学生と会った印象では富裕層の子弟が多い様に感じられた。
 
 医療従事者の国外流出問題について学部長に尋ねたところ以下の様なコメントを頂いた。
 卒後に何をするかは基本的には各学生の自由であるが、現在のフィリピンでの医療従事者不足はHealth Crisisと言える状況である。(海外での求人の多い)看護師として働くために看護学部進学を希望する学生が増えており、医学部への進学希望者は減少している。
 この状況に対処するため、UPマニラでは以下の様な対応策を取り始めている。
・インターン期間中に8週間は地域で仕事をさせる様にする。医学生がバランガイのヘルスワーカーに対する教育などを行い、各地域の状況を少しでも知る事が出来る様にする。
・奨学金を受けている学生に対して、在籍年数と同じ年数をフィリピン国内で働く事を義務化する。
 更に全ての公設大学医学部卒業者に対して、一定期間の国内勤務を法律で義務化させるべきとの議論まであるそうである。
 
学部長と共に
 
 その後、私達は2班に分かれ、付属病院(Philippine General Hospital = PGH)を見学した。
 PGHは病床数1500床(無料1000床、有料500床)の大病院で、年間に60万人もの患者が訪れ、その内90%は無料診療を求めて来院する貧しい方々である。PGHの運営費の65%は政府からの資金、25%は有料病床や検査からの収入、残り10%が寄付によって賄われている。合計約600名の5、6年次医学生、インターンは貴重な戦力であり、無料病床では日々の診療にも彼らが深く関わり、当番で当直もこなしている。
 
救急病棟
 スペイン政府の援助で整備されたものでトリアージ室、蘇生室、急性期室、観察室に大きく分かれ、他に隔離室、2つの手術室もあった。
 平均して160人/日訪れる患者をEmergent(生命のリスクがあり2時間待てない患者)、Urgent(2時間は待てる患者)、non-Urgent(一般外来へ紹介、又は帰宅させる)の3カテゴリーに医師がトリアージしてから診療を行っているとの事である。
 
無料病棟と有料病棟
 無料病棟は50〜60人の大部屋であった。様々な病状の患者のベッドが並び、家族を含めると100人以上の人が同じ部屋で時を過していた。蒸し暑く、野良猫も出入りする病棟の環境は決して満足なものでは無いと考えられる。一方で診療が無料で受けられるのは(薬代、検査費などは基本的に有料である)低所得層の方々には大きなメリットであろう。
 有料病棟は最も安い部屋でも1,000ペソ/日を払わねばならないが、病室は清潔な個室で冷房やテレビも完備、家族用のベッドまで用意されている。有料病棟では医学生やインターンが診療を行う事はほとんど無く、ナースステーションの雰囲気まで全く異なる。
 フィリピン社会の貧富の格差は医療サービスの提供においても大きな格差を生じていた。
(文責:船橋)
 
付属病院見学
 
8月9日 今日の一言
岡田:JICAでの国際協力に関わるお金の流れの話がとても興味深かった。費用対効果の考え方や過程の評価など現在日本の医療の中でも聞くことの多くなってきた言葉。学ぶべきことの多さを感じました。
金子:貧富の差をすごく考えさせられた一日。一般病棟と透析室の差など、病院の様子は忘れられない光景です。
貞方:フィリピン大学医学部付属病院見学では、チャリティで無料のベッドが用意されていて素敵だなと思った。富の再分配がこのような例をもっと増やしてフィリピン全国で行われたら現状はもっと改善するのにと思った。今の形態のチャリティベッドはどうやってできたのだろう?
:PGHを案内してもらったりする中でUPの医学生との交流を深めた。彼らとの交友関係も大切にしたいものだ。Borderless.
飛永:フィリピンの医学部の教育システムは、日本とは異なる点も多いようだ。まさに所変われば品変わるといった感じ也。
福永:UPの学生達はみんな、親切でいい人たちだった。この人たちを活かす制度をしっかり作っていってほしいなぁ。
今井:JICAについて裏話を含めて様々なことを知ることができて良かった。UPの病院を見学し、Charity WardとPay Wardの格差・卒後ほとんどの医学生が賃金のいい外国に行くという実態に驚かされた。
関谷:フィリピン大学の医学生たちはやはり都市志向、海外志向が強かったです。そして、PayとCharityに分かれた病棟はフィリピンの貧富の差を象徴していました。医療を考えるにあたり、背景となる社会にも目を向け、多方面から考えていくことの必要性を感じました。
筒井:@ショッピングセンターにて。便座のない洋式トイレにびっくり。どうせなら、和式トイレにして・・・と思いながらも、空気イスでがんばりました。汚い話でごめんなさい。
船橋:PGHでは無料病床と有料病床の環境の差を知る事が出来た。不釣合いに立派な透析設備も印象的だった。
赤木:UPの学生の案内で回った病院の中にも大きな貧富の差が見られてびっくりした。それにしてもフィリピンの人は明るいなぁ。
城下:マハルキタ:カールから習ったが、残念ながら使う場所なし。
平野:フィリピンでは自殺がほとんどないという。日本は年間3万人以上が自殺しているのに。どっちがいったい豊かといえるのだろうか。井上さんの話を聞いて考えさせられた。
鈴木:のんびりしている田舎の暮らし、輝くばかりの子供達の笑顔。私達が忘れかけていた物がここにありました。


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