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8月8日(月)
本日のスケジュール・内容
1)WHO西太平洋地域事務局訪問
2)学生主催懇親会
 
1)WHO西太平洋地域事務局訪問
7:45〜8:30 Orientation and guidelines
Dr. Yojiro Sato
Medical Officer, Programme on Technology Transfer
 WHO西太平洋地域事務局(WPRO)の概要の説明を受けた。WHOは本部、地域事務局、Country Officeの3層構造からなる。予算の70%が地域に配分され、地域強化の流れがある。しかし、地域事務局で行う事業とCountry Officeで行う事業との間に重なりが生じることもあり、より効率的な運営が求められている。WPROはフィリピンのマニラに事務所がある。加盟30カ国(27カ国+3宗主国)、準加盟国1カ国からなり、全加盟国に選挙権が1票ある。その予算、事業案等は、年1回9月に開催される地域委員会において議論されている。地域事務局長は選挙により選任される。尾身茂先生は1999年にWPROの事務局長(任期5年)に就任し、現在2期目である。
Q. 地域事務局長(RD)が選挙によって選任される意義とは?
A. メリットとしては、地域に向けられた施策を実行しやすい(地域重視)。
 デメリットとしては、施策に一貫性がなくなる。
Q. 加盟国内に宗主国(米、英、仏)が含まれるが、その影響力は?
A. 主に、鳥インフルエンザなど感染症分野に対し、我々が思っている以上に深刻かつ真剣に取り組んでいる。しかし、我々に対し無理難題なことを要求するようなことはない。
Q. 各Country Officeにはどのくらいの人員がいるのか?
A. 中国が大きく、50人くらい。小さいところでは2〜3人。
Q. 拠出金の振り分けはどうなっているのか?
A. アフリカに予算の大半が振り分けられている。WPROには8%。現地での問題の深刻さが指標となり、人口はまだ指標化されていない。Health statusを良くすればするほど予算が減少するという現実がある。到達度を指標にするべきだ。
Q. Country Officeと各国政府保健省との関係は?
A. Country OfficeはWHOとの連絡役を務め、保健省に対しtechnicalなアドバイスをしていて、良好な関係を保っている。
(文責:筒井)
 
8:30〜9:00 Reproductive Health
Dr. Pang Ruyan
Regional Adviser in Reproductive Health
 Reproductive Health(RPH)は、「性と生殖に関する健康」と訳される。現在、ミレニアム開発目標(MDGs)をはじめ、「人々の健康の増進」は国際社会の共通目標になっている。その中で、世界で4,000万人がHIVに感染し、年間50万人以上の妊産婦死亡があるという現状は、RPHの向上が地球規模の優先課題であることを示している。妊娠は低・中所得国の女性にとって高い危険率を伴うものである。その原因として、出血・感染や非合法の危険な堕胎による合併症、貧血、結核・マラリアなどの感染症が挙げられる。WPROの定める目標は、2015年までに「妊産婦の死亡率を1990年の75%減少させる」「新生児死亡率を減少させることで幼児死亡率を減少させる」である。そのために、妊産婦死亡率減少を目指した国際的な戦略の進展、地域・診療所レベルでのサービス強化、望まない妊娠や危険な堕胎を避けるための家族計画の推進などが行われている。
Q. 家族計画のアプローチの仕方とは?
A. まず、NGOから働きかけを始めて、国の中央政府を動かしていく。つまり、住民から政府というボトムアップを試みている。2つ目には、妊産婦死亡率や乳児死亡率などのデータを実際に政府に開示して、危機感を促す。Unsafe abortionが妊産婦死亡率の大きな要因となっていることを強調し、家族計画の重要性について認識してもらう。「Family planning」ではなく、「avoid unsafe abortion」を目的とし、避妊は宗教上受け入れられないとはいっても、危険な堕胎に対する予防策は講じるように働きかけをする。また、妊産婦自身への教育も大事である。
(文責:筒井)
 
9:00〜9:30 Sexually Transmitted Diseases including HIV/AIDS
Dr. Bernard Fabre-Teste
Regional Adviser, Sexually Transmitted Diseases including HIV/AIDS
 現在、世界にはHIV感染者が4,000万人おり、この人数は着実に増え続けている。AIDSによる死亡数はこれまでに3000万人にものぼり、2004年には300万人(一日あたり8000人)の命が奪われた。2004年の新規感染者数500万人(一日あたり14,000人)のうち、女性は半分を占める。また、年齢層でいうと、新規感染者のうち15〜24歳が50%を占め、15歳未満の子どもたちは15%を占める。
 感染の広がりを疫学的に3つに分類する。第一に「Generalized Epidemic」があり、国としてはカンボジアやパプアニューギニアが挙げられ、年齢層が15〜49歳のうち、HIV感染者数が全人口の1%以上を占める国がこれにあてはまる。次に、中国、ベトナム、マレーシアが含まれる「Concentrated Epidemic」とは、上記の年齢層の中で感染者数が1%未満であっても、ハイリスク群(セックスワーカーや注射器による薬物使用者 Injecting Drug Usersなど)においては感染者数が5%以上いる国である。最後に「Low HIV Prevalence」として、上記の年齢層でも1%未満、かつ、ハイリスク群でも5%未満の国がこれに含まれ、具体的にはフィリピン、モンゴル、ラオスが挙げられる。
 西太平洋地域における感染経路については、IDUが17.5%、異性間における性行為が12.8%、同性間における性行為が4.7%、母子感染が0.4%を占める。西太平洋地域には37ヶ所の国と地域が加盟しているが、その中の2地域、NiueとTokelauではHIVの感染が報告されていない。中国、ベトナム、マレーシアではセックスワーカーやIDUでの感染拡大、カンボジアやパプアニューギニアでは母子感染の増加が問題になっている。予防策としては、コンドーム使用の奨励や血液管理の強化の他、IDUに対しては、滅菌処理済みの安全な注射針の供給や代替薬物療法の提供、薬物使用防止のための若者への啓発を行っている。
 HIV感染の多くは安全でない売買春や汚染された注射針を使っての薬物の回し打ち、予防をしない性行為などによって起こるが、その感染拡大は特定のグループに閉じ込めておけるものではない。IDUの多くは年齢的にも若く、性行動も活発なので、二重のウイルス感染リスクにさらされている。また、多くのセックスワーカーは薬物注射も行っている。セックスワーカーのほとんどは、商業相手以外にも、他の特定な性的パートナーも持ち、MSM(men who have sex with men)の中でも女性とセックスしている者は高い割合を占める。一般的に、セックスワーカーやIDU、MSM、ストリートチルドレンなどのハイリスク群は社会における差別の対象となり、政治的にも関心の的となりにくい。今後は彼らを対策の最重点課題として、各国が社会正義や平等のもとに予防戦略を遂行していかなければならない。
 95年以降の抗レトロウイルス療法Antiretroviral Treatment(ART)の導入により、西欧諸国ではAIDSによる死亡が減少しているが、途上国では治療薬を買えない貧しさにより、死亡数は相変わらず右肩上がりである。そこで、WHOとUNAIDSは「3 by 5 Initiative」を掲げ、2005年末までに低・中所得国のHIV感染者300万人に対して、ARTを供給することを目標にしている。ブラジルではARTが必要なAIDS患者のほぼ全てに対して、ARTを無償で供与している。しかし、アフリカ、中国、インドでは感染者数が増加の一途をたどっており、「3 by 5 Initiative」の到達範囲は一様ではなく、多くの点で非常に不十分なままである。引き続き、国連機関や各国政府、援助機関、市民社会がHIV/AIDS対策に活発に参加することが必要であり、調和の取れた努力が求められる。
(文責:関谷)
 
10:00〜14:00 WPRO focuses and policies
Dr. Shigeru Omi
Regional Director
 WHO西太平洋地域事務局の尾身茂事務局長の講義は4時間にも及んだが、終始全員が熱心に聞き入っていた。
 「君達、WHOや国際協力に関する話はもう嫌というほど聞いただろう。この時間はもっと違う話をしよう。せっかくの機会だからWHOとは全く関係のない、人生のことや将来についてのことなど何でもいいので、是非この機会に聞きたいと思うことを質問してください。」という言葉でこの講義は始まった。各自が簡単に自己紹介を行い、それから質問を行った。質問の内容としては、
・尾身先生が地域医療から国際医療へ移行したのは何故か?
・人生のターニングポイントでどのようなことを考え、現在に至ったか?
・今、私達が将来へ向けてしなければならないことは何か?
・国家試験に対する考え方について
 など、尾身先生の体験に対する質問や自分の人生・将来に対する質問が多くなされた。一通り質問を聞いてから、それらに対して答えるという形式で、4時間に及ぶお話が始まった。お話の内容は大変に貴重なことばかりで、とてもではないがここに書ききれるものではない。また、お話を聞きながら私達が心から感じた感動を、文字にして表現することができないことが悔やまれる。ここに、筆者本人の心に残る尾身先生の名言を書き連ね、報告書とさせていただく。
 
・世の中で一番幸せなことは、人生を終わるときに後悔をしないで終わること。
・人生というのは簡単なものではない。ゆえに、常に真摯になって明日(将来)のことを考えながら生きる。人生は誰かに教えてもらうようなものではない。本当に世の中のためになるようなことをしようと思ったら必ず壁がある。それを乗り越える。
・深い人生を送ろうと思ったら、心の目で人の心を読む。目でみるのではない。心の目でみて想像する。
・自分の人生にもっと真剣になる、自分の生き様を突き詰めることに時間を費やす。
・何かに賭け、不安や不満に打ち勝つと人生がより深いものとなる。
・好きなことを選べ。自分が本当に好きなのか、それとも周囲に影響されて好きだと勘違いしているのか。好きなことを選ぶことができた人、それが一番。
・一体、何が自分にとって合っているのか?それを自分で見つける。それができるのは若いころの特権だ。それは、なるべく早く見つけることが重要である。
・医者は長年やっていたら、必ずマンネリ化してしまう。だから、自分の好きな分野で常に新しいことに挑戦していく。
・自分の誘惑に打ち勝ち、本当に好きなものを見つける。好きでないところからお酒をもらったとしても、それはNoといって断るべきである。
・人間には生まれたときからの個性がある。多くの選択肢がある中で、自分が最も没頭できることを選んだ人は、良い人生を送れる。
・人間には己の天命があり、これをやるというmissionを感じるものにたどり着けた人は、良い人生を送れる。
・国家試験を関心の的におくようでは駄目。医師、看護師になるために最低限必要なものであるから。その勉強が大変で・・・というなら、それはやめるべきである。医学の勉強は習慣化されうるべきもの。頭脳が劣る人は、己の能力に見合った努力をするべきだ。
・医師という仕事は、自分がやればやっただけ、人に喜ばれる仕事。こんな仕事は他にはない。こんなにもバラエティに富む集団も他にはない。
・何故、WHOか?僻地医療をやっていたため、世界の僻地に行きたかった、興味があったのかもしれない。
・人生に計画なんてものはない。その都度、その都度一生懸命に考えて、一生懸命にやってきた。外科をやっていたころに比べて、私は、今満足している。
・40歳まで試行錯誤しない人は馬鹿である。40歳以降で試行錯誤する人も馬鹿である。
・40歳までに、いろいろなことにチャレンジし、経験をして自分のことを試すことが重要。自分の能力がわかるから。ただし、むちゃをやるのは時に人を傷つける、だから若いうちにやっておくこと。
・自分が何者かと分かること。真剣に物事に取り組み、若いころからいろいろやり、深く悩み、深く生きた人の方が人生を深く生きている。見方が多面的になる。
・毎日の習慣がその人を変える。習慣は人格形成に大きな影響を及ぼす。本、特に古典を読むことを習慣にしたほうが良い。
・宗教の哲学的な考え方は重要。今の自分と違う現状を持っているから、異なる見方から自分を見ることが出来る。今の自分だけを持って生きることはとっても簡単だが、それは他人の目を気にし、条件に左右されているだけである。
・人間は神ではないから、様々な間違いをする。そこで、自分が考えていることが間違っているのではないかと考える。自分が一体どういう人間なのか、そして、どうしたいのかを考えることが重要。
・世の中には、自分の私意を完全に受け入れない、真実がある。その真実を見つけないと人生は生物学的な反射(利害関係、試験・・・)で終わってしまうだろう。
・自分のわがままな気持ちと、何か高い目標があったとき、わがままに打ち勝って何かに賭けたとき、その経験は誇れるものであって、よい思い出となるであろう。
・人間が、人のため・・・ということから入ったら、それは偽者である。自分のためにやる。
・なるべく多極的に多角的に物事を考える。
・若い人を、何かに夢中(crazy)にさせること。これが、教育の目標ではないだろうか。
・人との付き合いとは、真剣な付き合いのことである。
・人間の心と体は、深く密接している。ともにケアすることが必要である。
・不完全であることを知らずに理想を求めていてはいけない。けれども、目標を上に志を高く持つことは重要。
・一体、今日はどんな日なのか、過去を思い、明日(将来)を思い、毎朝起きたときに今日は一体どういう日なのかを考える(日々是好日)。
・得手に帆をあげろ。
(文責:筒井)
 
4時間にわたって講義をしていただいた尾身先生


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