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4. 船体縦通材の症労き裂伝播シミュレーション
 船体構造の疲労き裂伝播挙動は未だ不明な点が多く、荷重条件、構造不静定性、溶接残留応力、構造詳細形状に起因する2軸応力等の影響により複雑に伝播すると考えられている。本節では船体縦通材の疲労き裂伝播特性について疲労き裂伝播シミュレーションを用いた各種検討を加える。
4.1 荷重条件と構造詳細形状の影響について
 解析モデルをFig. 12に示す。標準的なダブルハルタンカーの縦通材と横部材との交差部を2トランススペース、1.5ロンジスペースの範囲についてモデル化している。ウェブスチフナの構造詳細形状はFig. 13の4種を考慮し、それらのシミュレーション結果を比較する。負荷荷重は定振幅の一様水圧荷重と軸力荷重がそれぞれ単独で作用する状態を仮定し、Fig. 14の2種の境界条件を考慮した。材料特性はTable. 1の値を用いた。
 Fig. 15に構造詳細Type(b)に対するき裂伝播領域とその周辺構造の有限要素モデルを示す。初期き裂はウェブスチフナのトウ部よりフェイスに生じたき裂がフェイスを半幅20mm、ウェブを10mm(これは板厚を考えないシェルモデルとしてのき裂長さとしている)進展した状態を仮定しており、フェイスとウェブにそれぞれき裂伝播領域を設定している。き裂がフェイスを破断した後は、ウェブのみのき裂進展として新たにき裂伝播領域を設定し直し、シミュレーションを再開する。
 
Fig. 12 Analysis model of a stiffened panel.
 
Fig. 13 Structural details.
 
Fig. 14 Loading conditions.
 
Table.1 Material properties of the analysis model.
 
Fig. 15 Finite element model.
 
 Fig. 16にシミュレーションにより得られた縦通材ウェブでのき裂伝播経路を示す(左は水圧荷重、右は軸力荷重に対する結果)。図中の座標原点は各モデルのウェブスチフナ端部に設定してある。水圧荷重下ではき裂はウェブ中を横隔壁側に傾いて進展する傾向があり、特に構造詳細形状(b),(c),(d)はき裂先端がスキン材に近づくに従って大きく湾曲し、き裂のスキン材への進入を免れる可能性が高いことがわかる。一方スチフナ型の構造詳細形状(a)は他の構造詳細形状に比べてき裂伝播方向の傾きが小さく、き裂はスキン材に進入する可能性が高いといえる。軸力荷重下ではいずれの構造詳細形状でもき裂はウェブ中を面材方向にほぼ真直ぐ進展する。Fig. 17はフェイスでのき裂伝播経路である(上は水圧荷重、下は軸力荷重に対する結果)。フェイスのき裂は構造詳細形状、境界条件を問わずいずれもフェイスの幅方向にほぼ真直ぐ進展する。
 Fig. 18に水圧荷重下でのき裂成長曲線を示す。構造詳細形状に応じてき裂伝播寿命は大きく異なっており、特にフェイス破断までに顕著に差異が生じている。き裂伝播寿命は長い順に(b),(c),(d),(a)であり、き裂発生位置の公称応力あるいはウェブスチフナ端部の応力集中が強く影響していると考えられる。軸力荷重でのき裂伝播寿命(Fig. 19)も水圧荷重の場合と同様にフェイスを破断するまでに構造詳細形状に応じた差異が生じている。ただし水圧荷重の場合とは異なり、構造詳細形状(a)のき裂伝播寿命が最も長い。これは構造詳細形状(a)はき裂の起点が横部材に近く、き裂開口に対する横部材の拘束の影響を受けやすいためと考えられる。
 
Fig. 16 Simulated crack paths in the web-plate.
 
Fig. 17 Simulated crack paths in the face-plate.
 
Fig. 18  Simulated crack propagation lives under water pressure.
 
Fig. 19  Simulated crack propagation lives under axial force.


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