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日本船舶海洋工学会論文集 第2号

 事業名 造船学術の振興
 団体名 日本船舶海洋工学会 注目度注目度5


4. き裂先端の実振幅の変化が圧縮塑性域に及ぼす効果の評価
 Fig. 9は,上述のような試験結果により,それぞれ疲労き裂が定常に進展,加速,減速した場合の例である。また,最大荷重まで負荷される過程では生じるき裂開口形状,最小荷重まで除荷される時点のき裂閉口形状,およびき裂先端近傍で生じる塑性域成長の模式図もFig. 9に示す。ただし,Fig. 9(a)は一定振幅荷重下でき裂が定常に進展した例(Fig. 5(a)(3))を,Fig. 9(b)はスパイク荷重載荷時点で疲労き裂が加速した例(Fig. 6(a)(2))を,Fig. 9(c)はブロック荷重載荷下で疲労き裂が減速した例(Fig. 7(a)(3))を,Fig. 9(d)はKth試験中で疲労き裂が減速した例(Fig. 8(a)(3))を示す。
 
Fig. 9  Schematic diagram of cyclic plasticity at the crack tip based on hysteresis loops
(拡大画面:56KB)
 
 Fig. 9(a)を例にして,1サイクルにおけるき裂開閉口挙動を以下のように述べる。Pminより負荷過程に入ると,PICFに達して閉口したき裂表面が除々に開口していき,一旦PIRPGに達すると,き裂先端部に存在する残留圧縮応力はすべて解放され,再引張塑性域が形成し始める。続いてPImax付近に達すると引張塑性変形が大きくなり,き裂が進展する。その後,PImaxより除荷すると,除荷弾性域PImax〜PIRCPGを経て,き裂先端に再圧縮塑性域が成長し始め,PIclに達するとき裂先端が閉口し始める。PIclまで除荷すると,閉口可能のき裂表面が完全に接触して,き裂閉口は進行しないため,Pminまで除荷しても,き裂先端の応力拡大係数はKICFとなる。そこで,き裂先端の実振幅がΔKICFである。
 Fig. 9(b)の場合では,き裂先端が完全に開口して,PIICF=Pmin<PICFで,PIImax>PImaxであるため,き裂先端の実振幅は応用振幅ΔKIIであり,またΔKII>ΔKICFとなる。Fig. 9(c)の場合では,Fig. 9(a)の場合に比べると,除荷する途中でき裂先端の閉口が早めに終了したため,PIIICF>PICFとなり,またΔKIIICF<ΔKICFとなる。Fig. 9(d)の場合では,Pminが逐次上昇するとともに,き裂先端が閉口せずに,PCFIV=PIVmin>Pminであるため,き裂先端の実振幅は応用振幅ΔKIVであり,またΔKIV< ΔKICFとなる。それにもかかわらず,ΔKRCF(=KRCPG-KCF)<ΔKCF(=Kmax-KCF)であることから,ΔKRCFがき裂先端の実振幅とともに増減するものと推測される。
 Dugdale6)モデルにより,疲労き裂先端近傍の塑性域の大きさが求められる。Kmax,ΔKRCFが引張塑性域と圧縮塑性域の大きさをそれぞれ表すとすると,ΔKRPGはき裂先端前方にある引張塑性域と圧縮塑性域が重なる領域を意味する。この領域における塑性エネルギーは新たなき裂面を形成するのに消費される7)。上述の試験より,圧縮塑性域(ΔKRCF)が不十分になると,再引張塑性域(ΔKRPG)が小さくなり,き裂が進展しにくくなることが明らかとなった。
 
5. 結言
 本報では,疲労き裂先端近傍で計測されるヒステリシスループの変化に着目し,各試験条件における疲労き裂先端の弾塑性挙動を詳細に考察した。得られた結果は以下の通りである。
(1)ヒステリシスループの推移およびヒステリシスループtailの変化により,疲労き裂伝播挙動を定性的に把握できる。
(2)き裂先端近傍ひずみと荷重により得られたヒステリシスループを関数化し,微分法で求めた変曲点荷重によって,疲労き裂先端の弾塑性挙動を定量的に評価する方法は有効である。
(3)疲労き裂伝播中では,引張塑性域と圧縮塑性域の繰返し変化はき裂進展の必要条件である。十分な圧縮塑性域がない場合には,疲労き裂は減速する。
(4)疲労き裂進展におけるPRPG〜PmaxとPRCPG〜PCFの経路は,き裂の開閉口に重要な影響を与える。変動荷重下において加速,減速,停留などの現象が生じる原因となる。
 
参考文献
1)Elber, W: The significance of fatigue crack closure. In: Damage to lerance in aircraft structures, ASTM STP 486., pp.230-242, 1971.
2)西谷弘信, 陳玳:除荷弾性コンプライアンス法に関する一考察, 日本機械学会論文集(A編), Vol.51, No465, pp1436-1441, 1985.
3)豊貞雅宏, 山口喜久次, 丹羽敏男, 武中秀樹, 梶本勝也, 矢島浩:新疲労き裂伝播パラメータの提案と高精度コンプライアンス計測法の開発, 日本造船学会論文集, 第169号, pp.245-255, 1991.
4)勝田順一, 鉄川進, 河野和芳, 日高稔久:圧電素子を利用した疲労き裂伝播挙動の計測について, 西部造船会会報, 第100号, pp.313-325, 2000.
5)町田進, 吉成仁志, 牧野寛之:疲労き裂先端ひずみ変化の詳細観察, 材料, Vol.46, No.2, pp.138-142, 1997.
6)Dugdale, D.S: Yielding of steel sheets containing slits. J. Mech. Phys. Solids, pp.100-108, 1960.
7)豊貞雅宏:残留引張変形層の役割と疲労き裂伝播の下限界に関する一考察, 西部造船会会報, 第105号, pp.223-235, 2002.


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