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学習型フィードフォワード制御方式による自動着桟制御システムの設計
正員 岩本才次*
 
* 九州大学大学院工学研究院
原稿受理 平成16年12月24日
 
An Automatic Berthing Control System Design Which Is Based on Learning Feed-Forward Control
 
by Seiji Iwamoto, Member
 
Summary
 In previous papers 1, 2, 3, 4, 5), the author demonstrated the application of the learning feed-forward control (LFFC) system for multivariable systems and the effectiveness of the LFFC system by on-board experimental results. The LFFC system was thus confirmed to be suitable for use as the control system since it followed the desired values and compensated for continuous variations in wind disturbance.
 In this paper, focusing on the approach and berthing control, which is one of the most difficult problems in automatic maneuvering, the author attempts to design an approach and berthing control system which can act as the ship operation support system. The feasibility and the problems of this control system are discussed based on computer simulation. If considered from the viewpoint of control, then it can be thought that approach maneuvering is a tracking control problem, whereas berthing maneuvering is a set-point control problem. Accordingly, it is appropriate for the control method to be changed at each maneuvering stage. The author herein discusses whether or not the LFFC system is suitable for use as the automatic approach and berthing control system, by itself.
 The computer simulation results show that the automatic approach and berthing control system based on the LFFC system is adaptive for changes in the dynamic characteristics of the object ship at each maneuvering stage, however, it is- necessary for further improvements to be made in the wind compensation system.
 
1. 緒言
 著者は、前報1, 2, 3, 4, 5)において、船舶の運航支援システムの要素技術として、人間の小脳の運動学習機能を工学的に模擬した学習型フィードフォワード制御方式を、操縦運動制御に適用することを提案した。その研究において、複数の目標値と複数の外乱を補償するための多変数制御システムの実用的な設計法を示し、実船実験によって、学習型フィードフォワード制御方式が実用上実現可能であることを確認した。
 本論文では、船舶の操船の中でも最も難しいとされる着桟操船に着目し、学習型フィードフォワード制御方式を用いた自動着桟制御システムの設計を試み、計算機シミュレーションによってその適用可能性と問題点を検討する。
 自動着桟操船を制御の観点から見ると、港内のある位置から接岸点近傍まで誘導するアプローチ操船はトラッキング問題、接岸点近傍から接岸点までの接岸操船はレギュレータ問題であるという考えがある6)。従ってその場合、それぞれの局面において制御方式は変更されるのが一般的である。
 ここでは、その各局面において制御方式を変更することなく、学習型フィードフォワード制卸方式単独で自動着桟制御系に適用できるか、その可能性と問題点について検討した。
 その結果、学習型フィードフォワード制御方式を用いた制御システムが、制御対象の動特性変動に対して適応可能であり、風外乱補償については更に改善の必要があるものの、着桟操船の各局面において学習による適応機能と汎化特性を示すことを計算機シミュレーションによって確認したので、その結果を報告する。
 
2. 外乱を考慮した操縦運動方程式
2.1 非線形運動方程式
 Fig. 1に示されるような座標系を用い、潮流、風、波の外乱の中を航行する、船の横揺を考慮した操縦運動を考える。
 潮流が存在するときは、潮流(流速:VC、流向:ΘC)と潮流に対する船の対水速度, )と空間固定座標系に対する船の対地速度U(u,v)の間の関係及び対水横流れ角と対地横流れ角βの関係を考慮すると、船の慣性主軸G-xyzに関する操縦運動方程式は次式で表される7, 8)。ただし、“′”は変数の無次元量を表す。
 
 
Fig. 1 Coordinate systems
 
 また、回頭角ψと横揺角φと船体重心位置x0、y0は、次式によって求められる。
 
 
 ただし、x'0=x0/L、y'0=y0/L、Lは船長である。
 (1)式の外力X'、Y'、N'及びK'は、MMGモデルの考えに従って次式で与えられ、操縦微係数は文献7)の簡易式によって求められる。潮流が存在するときの外力は、Uとβの代わりに対水速度と対水横流れ角を用いて計算される。
 
 アプローチ操船から着桟直前のバーシング操船に移る時点では船速は微速または0で、横流れ角の非常に大きな運動になる。この場合の横力は、横流れによる揚力ではなくいわゆるcross flow dragが大きく寄与するので、通常の前進数学モデルから低速時の操縦運動モデルに滑らかに変更する必要があるが、現在このような操縦運動モデルは得られないので、ここでは、通常の操縦運動モデルをそのまま用いることにし、本来適切ではないが、着桟直前の運動は、数値計算上可能な限り小さな船速を与えて得られる運動を便宜的にそれとみなすことにする。
2.2 線形運動方程式
 制御対象の伝達関数を求める際に必要となる線形操縦運動方程式を示す。
 今、操作部駆動または微小外乱によって、β、r'、ψ、p'、φに微小な変化が生じ、その時、船速Uの変化は小さいが無視できないものと仮定する。以上の仮定を設け、外力をMMGモデルによって定式化すれば、線形操縦運動方程式は(1)、(2)式から次式の形に導かれる。
 


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