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4. ニューラルネットワークによる解析
 FEM解析により求められた12ケース(Table 1)の計算値を,ニューラルネットワークの教師データとした。また,ニューラルネットワークでは,教師データとして0〜1の数値を扱うのが一般的なので,解析データを0〜1の間で各項目の最大値を0.8,最小値を0.2として無次元化した。
 横収縮S,角変形δをそれぞれ出力するBPネットワークモデルをFig. 8に示す。入力は電圧E,電流I,溶接速度Vおよび溶接長さL,板厚hの5ユニット,中間層は20ユニットとし,出力は1ユニットである。当初出力層を2ユニットとし,横収縮と角変形を同時に出力するプログラムを作成したが,別個にする方が精度が向上するため2個のプログラムとした。中間層は数が多い程良い結果が得られるので出来るだけ多くとっている。
 
Fig. 8 Model of back propagation network
 
 ニューラルネットワークの出力結果をFig. 9(a)(b)に示す。これは,12個の教師データを順に誤差修正計算(ユニット間結合の重みを修正)して得られた最終プログラムに,12個のデータを再度入力して得られた出力(Learning data)と,実際のFEMで解折した変形量(Teacher's data)とを比較したものである。最終プログラムは12個のデータに合うように,学習を繰り返して得られたものであるが,全体的に教師データと計算値の差は小さくなっていることが分かる。横収縮,角変形はいずれもほぼ満足できる値で計算されている。
 
Fig. 9 Calculation results
(a) Transverse shrinkage
 
(b) Angular distortion
 
 次に,ここで得られたニューラルネットワークプログラムを使って,入力の異なる任意のデータに対して得られる横収縮,角変形の精度を確認するため,前記の12ケース以外の任意の入力に対する変形量を同じプログラムで計算し,これと再度FEM解析した変形量とを比較した。計算データをTable 2に,計算結果をFig. 10に示す。両者を比較すると,横収縮,角変形ともに良い精度であり,実用可能であることが分かる。
 
Table 2 Data for additional calculations
Case Voltage (V) Current (A) Speed (mm/min) Heat input (J/mm) Length (mm) Thickness (mm)
1 33 315 550 907.2 1000 12
2 40 320 600 1024 1000 12
3 41 290 500 1141.44 1000 12
4 43 270 480 1161 1000 12
5 33 270 350 1221.943 1000 20
6 43 320 560 1179.429 1500 15
 
Fig. 10 Calculation results
(a) Transverse shrinkage
 
(b) Angular distortion
 
 以上の結果は,単一材の構造要素(T型隅肉溶接材)での解析であるが,今後は本結果をさらに発展させ,単板構造9)の溶接変形についても検討を加える予定である。このモデルをFig. 11に示す。単板の幅(B),長さ(L),ロンジスペース(s),ロンジ本数(N)および溶接条件(Q)を入力層とし,全体の横収縮(S),端部の各変形量(a)および中間部の痩馬量(b)を求めるものである。これを進めると単板を結合したパネル,およびトランスも含めた中組ブロックの変形も同様の手法で予測することができる。
 
Fig. 11 Unit panel
 
5. 結言
 船殻部材の溶接変形予測は,組立工程を円滑にするため必要不可欠な技術であり,これまでも多くの研究が行われている。詳細なものは熱弾塑性FEM解析で,簡便なものは近似式やチャートが用いられている。本稿は,前者に近い精度を持ち後者に近い簡便さをもつ予測法をT型ビルトアップ材の隅肉溶接を対象に検討した。
(1)熱弾塑性FEM計算法を用い溶接変形の解析を行った結果,横収縮,角変形ともによい精度となることを確認した。
(2)上記データを教師データとしニューラルネットワークでプログラム作成したところ,よい精度で出力値が得られた。
(3)本プログラムに,教師データ以外の任意の溶接条件や部材寸法を入力して得られた溶接変形と,別途に実施した熱弾塑性FEM計算結果とを比較すると,両者は良く一致しプログラムの精度が確認できた。
(4)これにより,FEM計算を都度実行しなくてもこのニューラルネットワークプログラムを使えば容易に変形を予測できることが分かった。したがって,これまで専門家によって行われていた変形予測を,未経験者でも容易に実行できる。
 この手順を拡大することによって,単板構造や中組ブロックの溶接変形を簡便に推定することが可能となる。
 
参考文献
1)甘利, 向殿:ニューロとファジィ, 培風館, (1994), pp.55-58
2)溝口, 石田:人工知能, オーム社, (2000), pp.80-84
3)平野:Cでつくるニューラルネットワーク, パーソナルメディア社, (1991), pp.15-32
4)清島:パソコンを用いた溶接シミュレーション, 溶接学会 溶接構造研究資料, (2002.1)
5)奥本, 清島, 江口:線状加熱によるT型組立鋼のねじり変形について, 近畿大学工学部研究報告No.37, 2003), pp.145-150
6)計算力学研究センター:Quick Welderで計算する溶接変形, (2007.7), pp.2-15〜19
7)佐藤, 寺崎:構造用材料の溶接残留応力・溶接変形におよぼす溶接諸条件の影響, 溶接学会誌45号 第1巻, (1976), pp.42-53
8)(社)日本造船研究協会 第237研究部会:高度工作精度管理技術に関する研究, 平成11年度報告書, (2000.3), pp.5-329
9)奥本, 松崎, 柿元, 遠藤, 椎野:船殻の高精度加工・組立システム, 石川島播磨技報 第32巻 第6号, (1992.11), pp.446-452


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