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4. 船舶の設計・評価手法と東京―上海間の船舶設計問題への適用
4.1 貨物量の将来予測と統合された設計・評価手法
 本章では、貨物量の将来予測結果と共に、貨物データや経路データ、船舶設計や物流コスト計算の方法を利用して新しい船舶を設計し評価する一連の手法を提案する。その手順は以下のとおりである。
 
1. 船舶を新たに設計する区間において競合することになる既存の輸送機関についての調査を行う。
2. 調査結果から新しい船舶のサービス水準を決定し、複数の輸送機関が競合する中で、新しく設計する船舶に対する需要を推計する。その際に3章で示した貨物量の将来予測の手法とその結果も用いる。
3. 船舶の設計知識と物流コストの関係を定式化し、船舶の設計を行う。設計案は複数用意する。
4. 設計した船舶それぞれの収支を貨物量の将来予測結果のもとで計算し、将来のキャッシュフローを現在価値に換算するNPV法で投資対象としての比較・評価を行い、最適なものを選択する。
5. 良い結果を得られない場合は、その結果を設計にフィードバックし、新しい設計案について再度評価を行う。
 
 船舶の設計においては燃料の消費量と積載能力を見積もることに重点を置いている。式(3)で表される抵抗の計算については、基準とする船舶のデータを住吉の式(式(4))に代入して形状係数Kを求め、Fig. 9に示す山県の図表(縦軸:剰余抵抗係数、横軸:フルード数)より谷(ホロー)となっている点からフルード数を決定する方法をとっている。剰余抵抗係数とは、式(5)に示す剰余抵抗を計算する際の係数である。決定された値を全ての設計案に適用するため、フルード数は式(6)で定義されるものであることから、この方法では速度が大きくなるにつれて船型が大きくなる傾向がある。また、積載能力は船長と船幅に比例するものとして計算を行っている。
 
R=(1+K)Rf+Rr  (3)
 
R: 全低抗
Rf: 摩擦抵抗
Rr: 剰余抵抗
K: 形状係数
 
 
L: 船長
B: 船幅
d: 喫水
Cb: 方形係数
 
 
rR: 剰余抵抗係数
ρw: 水の密度
∇: 排水量
V: 速度
 
 
Fn: フルード数
g: 重力加速度
 
Fig. 9  Residual resistance and Froude number
(Cb=0.6, liner)
 
 設計した船舶の評価に利用するNPVとは、一連の定期的なキャッシュフローと割引率に基づいて、投資の正味現在価値を表すものである。投資の正味現在価値とは、将来行われる一連の支払い(負の値)とその収益(正の値)を、現時点での現在価値に換算したものである。ここでの現時点とは、投資を決定した時点もしくは、投資を始めた時点のことである。また、割引率は任意の値であり、通常は経営陣により、年間のインフレ率や借入金の利息、事業のリスク等を考慮して決定される。NPVの単位は、実際の金額(円・ドルetc)で表される。式(7)のように年度ごとのフリーキャッシュフロー(=収入−運航経費−間接費)Aiを現在価値に換算して足しあわせたものから投資額Pを減じたものが、NPVとなる。これらの方法は田中11)、山内12)などで用いられている。なお、本論文では法人税や固定資産税などの税金は企業の運営形態によって異なると考えられるため、計算には含まないこととする。
 
 
NPV: 投資の正味現在価値
P: 投資額
Ai: i年目の予測フリーキャッシュフロー
N: 評価するキャッシュフローの年数
r: 割引率
4.2 東京―上海間の船舶設計問題への適用
 ここでは、第3章において貨物量が多いと推計された関東―華中間に新しい船舶を設計するという例題を設定し、東京―上海間について船舶を設計し評価を行う。
4.2.1 東京―上海間航路の現状
 東京―上海間の航海距離は1056海里である13)。国際輸送ハンドブック(2003)14)によると、東京と上海を結ぶコンテナ船航路は太平洋航路や東南アジア航路を除いても9本存在している。これらの航路を利用した平均輸送日数は7日である。この航路で利用されているコンテナ船のうち最も速度が速いものは19ノットであるが、平均の速度は18ノット程度であり、容量の平均値は750TEUである。通関費用などの諸費用を含めた輸送費用は20フィートコンテナ1個あたり12万円程度であるとの試算15)がある。計算方法を以下に示す。
 
・中国内の距離1kmあたりのトラック運賃は、20FTコンテナ6元
・上海港から日本の港まで、20FTコンテナ積みした時の通関・輸送費用内訳
*上海港雑費・三検(動植物検疫・商品検査・衛生検査)費用・輸出通関料→計700元
*上海港THC(コンテナ取扱料)→370元
*海上運賃→400ドル
*BAF(燃料代調整費)・YAS(円レート調整費)→計40ドル
*日本港CY(コンテナヤード)使用料→24,200円
*輸入通関料→11,800円
*輸入取引料→10,000円
1ドル120円、1元15円とすれば合計約12万円
 
 近年の日中間の航路においては、2003年に上海と博多を結ぶサービスを開始した上海スーパーエクスプレスが注目を集めている。この航路は東京と上海を直接結ぶものではないが、通関手続きや他の輸送機関との接続を工夫することにより、上海から東京への輸送日数を航空輸送並みの3.5日、40フィートコンテナ1個の輸送費用を航空輸送よりも安い30万円程度としている16)。現在は週2便の運航を行っている。
 東京―上海間の輸送においては航空輸送が最も高速な輸送手段であり、飛行時間が3時間程度、全体の輸送日数は3日程度となっている。運航頻度は1日10便程度と多いが、飛行機1機が輸送できる貨物量は貨物専用機でも120トン程度である。また運賃が1キロあたり300円程度と高いことも特徴である。20フィートコンテナ1個(10トンと仮定)を航空輸送する場合、約300万円もの費用がかかることになる。以上のように、各輸送機関はそれぞれ輸送日数や運賃について特徴的であることがわかる。
4.2.2 サービス水準の決定と需要の推計
 東京―上海間航路の現状と第2章で示した高速輸送に対する需要の高まりなどを考慮して、以下のような輸送サービスを提供できるような船舶を設計することとする。
 
・航海時間は48時間以内であり、輸送時間全体では4日以内となる
・輸送費用は上海スーパーエクスプレスよりも安くなる
・1日1便運航する
 
 上記のようなサービスは既存のコンテナ船よりも輸送時間が短くなるため、高速な輸送を望む種類の貨物が多く利用するものと考えられる。そこで、この船舶を利用する貨物について以下のような仮定をおき、Table.12のような将来の需要の推計結果を得た。
 
・推計したOD表の関東―華中間の貨物について、上海スーパーエクスプレスなどの航路の現状を考慮して、機械、工業品、食料品、繊維製品、電気製品、冷凍食品の50%が利用する、つまり、関東→華中間の貨物量の1.44%、華中→関東間の貨物の3.39%がこの船隊の需要となる。
・将来の貨物量の推移は第3章のシナリオ2のようになる。
・コンテナ1TEUは12mのトレーラー1台と同等である。
 
Table.12 Estimated demand for new fleet (TEU/day)
Year 2005 2007 2009 2011 2013 2015
Export 35 45 55 71 95 120
Import 174 224 278 367 498 640
 
4.2.3 使用する船舶の仕様の決定
 設計する船舶は、荷役時間が短くなるRORO船とする。ここでは北海道―東京間を実際に運航している高速フェリーを設計のための基準として採用する。Table.13はそのフェリーの仕様を表している17)。船価は著者らが想定した値である。基準とした船舶はフルード数が約0.35となるが、今回設計する船舶は高速で運航することからCbは0.6程度が妥当であると考え、山県の図表からフルード数を0.33として運航速度を変更することで設計を行った。Table.14は設計された船舶仕様の例である。積載容量は船長×船幅の値に比例させて計算している。
 
Table.13 Specification of the type ship
Loa 199[m] Capacity l2m
Truck
161
Lpp 187.7[m] Car 46
B 24.5[m] Passenger 12
D 21.3[m] MCR 64800[ps]
d 6.9[m] Deadweight 5618[t]
GT 12520[ton] Vs 30k[not]
Price 5[billion yen] Cb -
 
Table.14  The most efficient specifications
(Cb=0.6, Fn=0.33)
Vs[knot] 22.5 25 27.5 30 32.5 35
Capacity
[12m truck]
63 103 161 241 350 495
MCR[100OHP] 17.4 33.3 60.5 l05 174 280
Lpp[m] l26 155 188 223 262 304
Displacement
[1000m3]
7.45 12.1 19.0 28.5 41.4 58.5
B[m] 14.3 19.0 24.5 30.9 38.2 46.6
 
4.2.4 評価のための条件設定
 運航費の計算条件をTable.15の様に設定した。これらの数値は主に「テクノスーパーライナーの事業運営システムに関する調査」報告書18)で採用されているものである。船価の推計は基準船の価格を約50億円と設定し、260,000円/tonとして計算した。ただし、tonは排水トンである。
 
Table.15 Conditions for calculating operating cost
Crew [person] 20
SFC [g/HP/hr] 116
Price of fuel [million yen/ton] 0.020
Operating days [day/year] 350
Manning cost [million yen/person/year] 8
Number of voyage [voyage/year] 700
Grease cost / fuel cost [%] 1
Maintenance cost / ship price [%] 3
Insurance cost / ship price [%] 1.4
Indirect cost / direct cost [%] 10
Price of ship [million yen/ton] 0.26
 
 1日1便のサービスを維持するために必要な隻数は運航速度と荷役時間によって異なる。今回は荷役時間を3時間と設定した。運航コストとしては上記のほかに港湾での入港料や岸壁使用量が必要になる。これらは船舶の総トン数に比例して決定されるので、今回は初期設定の船舶の値をもとに船長×船幅の値で比例させて計算した。入港料は1総トン数あたり2.7円、岸壁使用量は1総トン数あたり12.8円とした。メンテナンスコストにおいては年1回定期検査を行うとしたが、時期は特に定めていない。以上の項目について、船舶の速度に関係する運航コストの条件をTable.16に示すように設定した。
 
Table.16  Conditions for calculating operating cost depending on operating speed
Vs[knot] 22.5 25 27.5 30 32.5 35
Travel time [hr] 46.9 42.2 38.4 35.2 32.5 30.2
Number of ships 5 4 4 4 3 3
Ship price
[billion yen/ship]
2.0 3.2 5.0 7.5 10.9 15.4
GT[thousand ton] 4.9 8.0 12.5 18.7 27.2 38.4


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