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4. 縦曲げ逐次崩壊解析
4.1 フリゲート艦構造模型
4.1.1 解析モデル
 Dow13)は,L×B×D=18m×4.1m×2.8mのリアンダー級フリゲート艦の縮尺1/3構造模型を製作し,端部に作用させる純曲げ荷重と4点曲げ荷重によりサギング状態の縦曲げ崩壊試験を行っている。はじめにこの構造模型の崩壊挙動をISUMとFEMにより解析する。また,解析結果を実験結果と比較する。FEM解析にはABAQUSを使用する。
 Fig. 8に中央断面図を示す。図には,主な部材寸法と圧縮残留応力の計測結果を併せ示している。外板の板厚は,デッキ中央部が2mm,それ以外は3mmである。模型製作上,上甲板を除くデッキは,縦強度上等価な桁部材で置き換えられている。船体中心線上に船底桁および防撓材が存在するため,全幅モデルについて解析する。
 板部材には,降伏応力の50〜60%の圧縮残留応力が存在している。初期たわみはTable.1に示すとおりである。ここでは,次の2つの初期不整についてISUM解析を実施する。
Case A: Fig. 6のAl0としてパネル板厚の1/100,B0およびC0としてスパンの1/1000の初期たわみを仮定。溶接残留応力は考慮せず。
Case B: 計測結果の初期たわみと残留応力を仮定。
 いずれのケースも,防撓材の初期たわみは,隣接スパンで正負逆向きのオイラー座屈モード(Fig. 2)を仮定する。Case Bでは下向き,上向きの各たわみ量としてTable 1の値を使用する。Table 1のパネル初期たわみδpは,やせ馬モードの初期たわみの最大値を与えている。そこで,アスペクト比3.0のパネルに対する有効初期たわみ係数η14)を考慮して,Al0を次のように与える。
 
 
 なお,比較のため実施するABAQUSによる逐次崩壊解析では残留応力の付与が容易でないため,Case Aのみを解析する。またDowの実験では,載荷に先立ち予荷重を与えて残留応力の低減を図っているが,これによる崩壊挙動の変化は本質的には小さいと考えられるため,ここでは予荷重の効果は無視する。
 
Table 1 Mean values of initial deflection
Panel
p/long.space)
Stiffener (δs/span)
Downward Upward
Deck 0.0141 0.0175 0.0016
Shell 0.004 0.00149 0.0009
 
Fig. 8 Mid-ship section of 1/3-scale frigate model
 
Fig. 9 Element mesh
 
 Fig. 9に,ISUMおよびABAQUSによる要素分割図を示す。ISUMは板要素のみを示している。Fig. 8のパネル幅b1およびb2のパネルの縦圧縮弾性座屈モードは2半波であるが,初期たわみを有する当該パネルの崩壊モードは3半波と推定される14)。この崩壊モードの1半波当たりを2要素でモデル化することとし,矩形パネルは長さ方向に6要素に分割する。節点数は700で,要素数は板要素が600,梁要素が516である。ABAQUSでは,4節点シェル要素(S4R)を使用する。ただし,要素数をできるだけ減じるため,曲げの引張側となるNo.3デッキよりボトム側は,防撓材を等価なトラス要素でモデル化する。また矩形パネルを8×24要素,防撓材のウェブを深さ方向4要素,フランジを幅方向2要素でモデル化する。節点数は28,650,要素数はシェル要素が26,496,トラス要素が1,008である。
 なお,Fig. 9のコーナー縁ABの近傍では,デッキと船側が,座屈による面外変形の発生を相互に拘束しあうため,デッキ中央部などと比べ面外変形が生じにくいと考えられる。一般にコーナー部では降伏強度に近い圧縮強度が得られることがハード・コーナー効果として知られる。これは上記の相互干渉効果が一因と考えられる。このようなコーナー部の性質を考慮するため,ここではISUMおよびABAQUSとも,コーナー縁ABは直線縁を保持すると仮定する。
 
4.1.2 防撓パネルの座屈・塑性崩壊解析
 縦曲げ逐次崩壊解析に先立ち,防撓パネルを取り出して縦圧縮による座屈・塑性崩壊挙動を解析した。解析には,防撓材を挟んで両側1/2ロンジスペース,およびトランス材を挟んで両側1/2フレームスペースの範囲のダブルスパン・ダブルベイモデル11)を使用した。ISUM板要素による防撓材方向の要素分割数は,Fig. 9と同じである。Fig. 10に板厚2mmのデッキパネルについて得られた平均圧縮応力〜平均圧縮ひずみ関係を示す。初期たわみはCase Aとした。図中のULSASは広島大学で開発されたシェルFEM解析プログラムである。溶接残留応力を容易に考慮できるためABAQUSと共に使用した。
 
Fig. 10  Average-stress/average-strain relationships of stiffened plate in 1/3-scale frigate model
 
 Case Aの結果を比較すると,ISUMの方がFEMよりパネル座屈による面内剛性の低下が,早期に生じている。これはISUMでは式(4)のたわみ形状関数において周辺単純支持条件を仮定しているのに対し,FEMでは防撓材の捩り剛性の影響で,単純支持の場合より座屈強度が上昇するためである15)。次に最終強度と後最終強度挙動を調べる。まずABAQUSとULSASの両FEM解析はほとんど一致した結果を与えている。Fig. 11は,ULSASで得られた最終計算ステップの変形と降伏域の分布である。要素内の色の濃淡は板厚方向の降伏域の広がりを示している。最終強度時点ではパネル全域に座屈モードの変形が生じていたが,最終強度後は防撓材の全体座屈変形の増加と共に,防撓材の曲げの圧縮側に図のように塑性変形が集中し,他の部分には除荷が生じている。このような塑性変形の局所化を考慮したISUMの結果は,FEM解析と同様に最終強度後,耐荷力が急に低下している。これは除荷域では変形が元に戻り,パネル全体として平均圧縮ひずみが余り増加しない状態で耐力が低下するためである。一方,塑性変形の局所化を考慮しないISUMの結果は,同じ耐荷力の下でのパネルの圧縮変形量を過大に推定する。結果として,同じ平均圧縮ひずみに対する耐荷力を過大に評価する。このことから,最終強度後の耐力低下を精度良く推定するためには,塑性変形の局所化の考慮が必要であることが分かる。
 次に,残留応力を考慮するCase Bの場合は,Case Aに比べて面内剛性が始めから低い。この矩形パネルの弾性座屈応力を残留応力の影響を考慮して計算すると-29.4MPaとなる。このことは,荷重が作用する前から圧縮残留応力によってパネルが座屈していることを表す。Case Bの面内剛性が始めから低いのはこのためであり,このような挙動もISUMで考慮できている。圧縮残留応力の影響により,最終強度はCase Aに比べて低下する。また引張残留応力域の存在によって,最終強度に達する時点の平均圧縮ひずみはCase Aよりも増加する。ISUMは,いずれの挙動もとらえており,最終強度および後最終強度挙動ともFEMと非常によく一致している。
 
Fig. 11  Collapse model of stiffened plate on the deck of 1/3-scale frigate model (Final loading step)
 
Fig. 12  Bending-moment/curvature relationship of 1/3-scale frigate model in longitudinal bending
 
4.1.3 縦曲げ逐次崩壊解析結果
 Fig. 12にISUMおよびABAQUSにより求められた曲げモーメント〜曲率関係を示す。曲率は,Fig. 7の両端面の相対回転角をフレームスペースで除して求めた。
 まず,残留応力を考慮しないCase Aの結果を見ると,ISUMでパネルの塑性変形の局所化を考慮しない場合は,縦曲げ最終強度がFEMに比べて非常に高くなっている。一方,局所化を考慮したISUMの結果は,FEMと全体に良い一致を示している。崩壊挙動は,いずれの解析でも,サギングによる面内圧縮を受けるデッキ部で,板厚2mmのパネル部にまず座屈が生じ,次いで板厚3mmのコーナー部が座屈する。その後,船側上部のパネルに座屈が生じる段階で,デッキ部では防撓パネルが最終強度に達し,全体座屈変形が増加を始める。これに伴う耐力の急激な低下によって,Fig. 12ではM=9MNm付近で曲げモーメントの上昇が,一旦緩やかになる。しかしその後,曲げの引張側での応力増加と共に曲げモーメントは再び増加する。やがてボトム部が引張により降伏すると断面全体としての最終強度に達し,以後,曲率の増加と共に耐荷力が低下する。
 
Fig. 13 Collapse mode of frigate model
 
 Fig. 13に,最終強度時点の変形図を示す。ISUMの結果に見られるメッシュは,パネルの変形を表示するため仮想的に描いたものである。崩壊モードは,パネルの変形の局所化を含めて,両解析で非常によく一致している。防撓材の全体座屈変形は,最終強度時点ではわずかに認められる程度であるが,この後曲率の増加と共に急速に増大する。なお,以上のようにデッキと船側上部の防撓パネルの座屈,およびボトムの引張降伏により崩壊に至る挙動は,Dowの報告13)にある実際の試験体の崩壊挙動と良く一致している。
 最終強度後の挙動をISUMとFEMで比べると,曲率が増加するほどISUMの方が,耐力が高めとなる。この理由として,FEMでは防撓材に局所的な捩り座屈変形(トリッピング)が生じるのに対し,ISUMでは梁・柱要素を用いるため,トリッピングによる断面変形と耐力低下が考慮できないことが考えられる。この点は今後の改善課題である。しかしながら,FEM解析とほぼ一致する挙動が得られていることから,縦曲げ逐次崩壊解析へのISUMの基本的な適用性は検証されたと言える。
 次に,実測の初期不整を考慮したCase BのISUMの結果を,Case Aおよび実験結果と比較する。Case Bの崩壊モードはCase Aと基本的に同じであり,実験結果とも一致している。Fig. 12に示すように,初期剛性はCase Aに比べて低い。これは,引張残留応力によるボトム側での面内剛性の低下と,Fig. 10に示した圧縮残留応力によるデッキパネルの早期の座屈が主要因と考えられる。解析結果の初期剛性は,実験において予荷重効果で弾性に戻っていた引張残留応力の部分が曲げの引張り側で再降伏した後の剛性と良好に一致している。なお,最終強度に近づくにしたがって,実験結果と計算結果で曲率に差が見られる。これは,Dowの実験では曲率がたわみの計測値から計算されており,デッキが座屈して顕著な非線形性が現れると,曲率が小さめに計算されるためである。最終強度は実験結果よりやや低めではあるが,概ね一致している。最終強度後の挙動はCase Aに次第に漸近するが,これは座屈・降伏により初期応力の影響が次第に消失するためである。FEMとの耐荷力の違いは,既述のようにトリッピングを考慮していないためと考えられる。
 なおFig. 12の逐次崩壊解析に要した計算時間は,1ケース当たり,ISUMが約20分(750荷重ステップ),ABAQUSが約23時間(650荷重ステップ)であった。


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