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ペンタマラン型高速RoRoバージ船のコンセプトデザイン
正員  池田良穂*
学生員 中林 恵美子**  学生員 伊藤 藍***
 
* 大阪府立大学大学院工学研究科
** 大阪府立大学大学院工学研究科 博士前期課程
*** 大阪府立大学工学部(現 三井造船株式会社)
原稿受理 平成17年4月15日
 
Concept design of a pentamaran type fast RoRo ship
by Yoshiho Ikeda, Member
Emiko Nakabayashi, Student Member
Ai Ito, Student Member
 
Summary
 In the present study, a new fast RORO ship of pentamaran type is developed and proposed. The resistance, stability and seakeeping performances of it as well as its capability in dead weight and deck space are examined with comparison with an existing conventional RORO ferry of monohull type. The results demonstrate that the proposed pentamaran has better performances than the monohull ferry and has reasonable dead weight and larger deck space. A feasibility study of the new ship in a short route in Seto-island sea is also carried out on the basis of economical evaluation. The results show that the pentamaran can be replaced by exsisting RoRo passenger ferries in the route from economical point of view
 
1. 緒言
 島国であり、海岸線も長い日本では、古くから船舶が国内における貨物や人の重要な輸送手段として用いられてきた。しかし、鉄道や車両そして航空機が発達し、国内貨物の輸送手段が多様化した現在、船舶の国内貨物輸送率はトン・キロベースで約40%にまで下落している。他の輸送モードに対して必ずしも優位な状況にない理由としては、輸送速度が遅いこと、船が小型で耐航性が十分でないため欠航率が高いこと、また小型のため輸送効率が低いことなどが挙げられている。一方、昨今の環境問題に端を発するモーダルシフトや、国内経済の立て直しのため輸送コストの削減などは、内航海運にとってまたとないチャンスとなっており、内航船の高速化や輸送効率の向上が必要とされている。
 内航海運の輸送効率が悪い理由として、1)小型故にそのフルード数域が造波抵抗のラストハンプ直前の、造波抵抗が急激に増加する領域にあり、高速化が困難であること、2)太平洋に面する島国である日本では海象がかなり荒く、欠航によって運航率が低下してしまうこと、3)小型船のため荒天時にスケジュール通りの運航ができず荷主の信頼が得られないことなどが挙げられる。
 これらの問題を解決することが、今の造船界には求められており、政府の研究開発プロジェクトとして実施されている「スーパーエコシップ」などに注目が集まっている。
 こうした状況において、造船研究者、技術者が、様々な斬新なコンセプトを提供し、その性能および経済性を検証し、次世代の内航海運再構築のためのツールとしての革新的な内航船建造へと結びつけることが期待されている。本論文の目的は、こうした内航海運再構築に貢献するための斬新なコンセプトに基づく次世代船のコンセプトの一例を提案することにある。
 筆者らは、内航船のための新船型として多胴船に着目することとした。多胴船としてはカタマランが広く高速船の分野で実用化されており、最近ではトリマラン(3胴船)の開発も欧米では積極的に行われ、すでに実用化されている。ハルを多胴化することのメリットとしては、1)デミハルを細長化することでラストハンプ付近の造波抵抗が低減できる、2)十分に大きな復原性が確保できる、3)耐航性能の一部の向上を図ることができる、などが挙げられる。
 上記の多胴船の諸性能についての検討、さらに内航船に求められているニーズを検討した結果、本研究では、5つのハルを持つ5胴船(ペンタマラン)を新船型として取り上げることとした。この発想は、非常に単純な船型のバージ船型(箱型船型)を高速化するために、水面下を多胴化して抵抗性能を向上させ、同時に良好な耐航性と、十分に大きなデッキスペースを確保しようというところから発している。さらに水面下のデミハル(1つづつの単独船体の意)は全体の船体に比べるとかなり小型となり、比較的小さな造船所でも建造可能なうえ、相似型とすることが可能なので建造面でのメリットも大きいと考えられる。
 
2. ペンタマランの船型の決定
2.1 対象船型
 新しいペンタマラン船型を開発するに当たり、既存船の中から適当な比較対象船を選ぶことが必要となる。ここでは、国内航路に多く使用されている1600総トン型の単胴型旅客カーフェリーを取り上げることとした。垂線間長60m、幅13m、喫水3.3mで、排水量は1400トン。最大速力17ノット、航海速力は15ノットであり、最大速力におけるフルード数は0.36である。エンジン出力は約3600馬力、乗用車で42台を搭載する。以下、本論文においては、同船と同じ排水量のペンタマランを考えることとする。
 ペンタマランの速力に関しては、高速化を図ることとし、航海速力を25ノットと設定した。この速力は、上述の単胴旅客カーフェリーの場合には、フルード数が0.53となり、造波抵抗のラストハンプに近い。
 
2.2 ハルの配置の決定
 ペンタマランの最適なハルの配置を決定するのは、デミハルの排水量分布、配置間隔、前後位置などデザイン・パラメタが極めて多いため非常に難しい。ここでは、本論文で提案するペンタマランの初期コンセプトデザインの妥当性だけを検討することを目的としているので、ハル配置に関する詳細な最適化は行わないこととし、安東ら1)によるトリマランの造波干渉に関する論文を参考にしてハルの配置を決定することとした。安東らは、トリマランのサイドハルの前後位置を系統的に変化させた時の造波抵抗の変化を、造波抵抗理論および実験で求め、2つのサイドハルがメインハルの前方にある時も、後方にある時にも、最大で50%以上の造波抵抗係数の減少があることを示している。この実験結果を参考にして、1つのメインハルの周りに4つのサイドハルを対称に配置したFig. 1に示すペンタマランを考えることとした。
 
2.3 デミハルの舶型の決定
 続いて、中央に位置するメインハルと4つのサイドハルの排水量比、デミハルの形状を決定するために、ペンタマランの抵抗シミュレーションを行った。
 低抗の計算には2次元外挿法を用いることとした。摩擦抵抗係数はSchonherrの式により求め、剰余抵抗係数はモノハルの剰余抵抗係数の実験値2)を用いた。ただし、ハル間の干渉影響は考慮せず、5つのデミハルについて抵抗の計算値を足し合わせて全抵抗とした。メインハルの排水量を▽m、サイドハルの排水量を▽s、5つのメインハルとサイドハルは相似船型として、▽s/▽mとデミハルのL/Bを変化させて抵抗値を計算した。なお、船速は実船換算で25ノットである。
 結果をFig. 2に示す。縦軸は有効馬力(EHP)、横軸はサイドハルとメインハルの排水量比(▽s/▽m)である。▽s/▽m=0は、メインハルだけの単胴船の状態を示しており、そこから▽s/▽m=0.1の間でEHPが急激に増加していることがわかる。この増加は、多胴化したことによる浸水表面積の増加に伴う摩擦抵抗の増加によるものである。計算結果では、デミハルを十分に細長化したペンタマランでは、全抵抗の約80%以上を摩擦抵抗が占め、造波低抗成分は相対的に非常に小さいことが確認できた。また、デミハルのL/Bを8〜20まで変化させた結果を比較すると、L/B=14以上ではほぼ同じ抵抗値になっていることがわかる。これは、デミハルを細長化することにより造波抵抗は減少するものの、上述のように摩擦抵抗が増加するためである。
 これらの検討結果から本研究では、デミハルとして、▽s/▽m=0.44、L/B=16の船型を採用することとした。また、摩擦抵抗を少しでも減らすために浸水表面積を小さくすることを考え、デミハル断面形状は船底を半円とした非常に丸型の船型とした。デミハルの正面線図をFig. 3に示す。また、ペンタマランの主要目はTable 1に示す通りで、隣合うハルの間隔は16mとした。
 
Table 1 Principal Particulars of the pentamaran
W (t) V*(cu.m) L (m) B (m) d (m) S** (sq.m)
Total 1411 1380 83.5 70 1540
Main Hull 511 500 56 3.5 3.3 460
Side Hull 225 220 40 2.5 2.8 270
* V: Volume of displacement,  ** S: Area of water plane
 
Fig. 1  Arrangement of five hulls of the proposed Pentamaran.
 
Fig. 2  Calculated EHP of pentanmarans with various length/beam ratio of demi-hulls and displacement ratio between side and main hulls.
 
Fig. 3  Body plan of demi-hull of the proposed pentamaran.
 
2.4 単胴船との比較
 このペンタマランの抵抗性能を単胴船の場合と比較することとする。
 対象船とした単胴旅客カーフェリーの模型による抵抗試験結果を使って、船速を25ノットまで上げてみると、EHPは約21,000馬力となった。また、高速に適したL/B=8のコンテナ船型の場合には、EHPが約12000馬力となった。それに対し、Fig. 2から得られる25ノットのペンタマランのEHPはせいぜい5,000馬力となるので、同じ排水量の単胴船よりは大幅にエネルギー効率がよくなることがわかる。ただし、この単胴船のうち単胴カーフェリー船型については、航海速力15ノットにおいて最適化を図った幅広浅喫水船型であり、25ノットでの最適な船型にはなっていないので、詳細な比較検討には適しておらず、ここでは本論文で提案するペンタマラン船型が、単胴船に比べると抵抗性能上かなり有利であるという確証を得たということに留めたい。
 
3. 横波中運動特性
3.1 ペンタマランの復原性
 ペンタマランは、サイドハルが複数あることから、その横復原性は一般的に非常に大きい。本研究で提案するペンタマランの場合、は実船換算で約119mとなった。
 
3.2 横揺れ固有周期
 前節に示したようにペンタマランでは、が非常に大きく、いわゆる横揺れ固有周期が小さい軽頭船であり、乗り心地が悪い可能性がある。そこでまず横揺れ固有周期の推定を行った。
 横揺れ固有周波数は次式で求められる。
 
 
 ただし、Wは排水量、Iは付加慣性モーメントを含む見掛けの慣性モーメントである。ペンタマランの場合には、サイドハルが中心軸から離れているため船体の慣性モーメントが大きく、また横揺れに伴ってサイドハルが上下動することによる付加慣性モーメントも大きい。後者についてはUrsen-田才法によって求めた。その結果、提案するペンタマランの横揺れ固有周期は3.7秒となった。
 ペンタマランの場合、サイドハルが船体中心線より離れており、Fig. 4に示すように、横波中で外側のサイドハルがそれぞれ波の山と谷に一致する時に大きな横揺れ強制モーメントが働く可能性がある。提案するペンタマランの場合、全幅が70mあり、この状態になるのは波周期が約9秒となり、横揺れ固有周期からはかなり離れており、このような波への同調の可能性はないものと思われる。
 
Fig. 4  Schematic view of the pentamran on a beam wave of wavelength equal to twice the beam of the ship.


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