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事業の目的
 近年の海上保安業務は、増加する密航、銃器薬物の密輸入事犯等外国人による組織犯罪や、マラッカ・シンガポール海峡及びインドネシア周辺海域における海賊事件への対応等治安分野での国際化が著しい。これら業務の的確な遂行には、第一に語学能力の向上や国際感覚の涵養など一層の強化が望まれている。
 本事業は、海上保安庁教育機関の学生、研修生を対象とした語学能力の向上のため及び国際感覚の涵養を図るため、国際的に課題とされている事案ごとに研究課題を設定して海外研修を行い、円滑・的確な業務体制の構築を支援することを目的とする。
 なお、本事業は、競艇公益資金による日本財団の助成事業として平成17年度に実施したものである。
 
事業の概要
 本事業は、海上保安大学校学生に対し、国際的に課題とされている事案が発生している国やそれらの課題について研究を進めている国において調査研究に挑戦する機会を付与することにより、個々の学生の素養を向上させ、国際的に通用する幹部海上保安官の早い段階からの育成に資することを目的として15年度から実施しており、教官、学生から成るグループ4組が夏期休暇期間(7〜8月)に海外へ渡航し、各種調査研究を行ったものである。
 
I シンガポールにおける海事セキュリティ機関の調査研究
第4学年第I群 岸原 司
第4学年第I群 森本 幸将
 
指導教官 海上警察学講座 松本 宏之 教授
 
1. はじめに
 シンガポールはマラッカ・シンガポール海峡の南東端に位置し、国際的な海上交通の中心港として発展してきた国である。その港の規模は世界最大級であり、常時およそ1,000隻が港内をひしめき、2004年の年間入港隻数は133,185隻(前年比-2201隻、シンガポール海事港湾庁調べ、以下同じ)である。そのうち危険物積載船(タンカー)は13.2%を占める17,576隻(前年比+492隻)で、その数は年々増加している。また、同年の年間総貨物量は393,417,600トン(前年比+45,723,500トン)と世界一を誇っており、同じく増加傾向にある。日本では名古屋港が172,039,000トン(2003年、国土交通省総合政策局情報管理部「港湾統計」)と最大であるから、比較するとその量は約2倍(2003年比較)である。定期貨物航路は200航路にもなり、世界123カ国、600を超える港と結ばれている。
 このように、巨大かつ国際的にも重要なシンガポール港で一度テロ事件が発生するとその被害は甚大なものとなる。それゆえにシンガポールは海事セキュリティ、とりわけ港湾セキュリティに関する制度や体制に対して積極的で、充実していると言われている。
 
2. 在外調査研究計画
(1)在外調査研究の必要性
 近年、海賊事件が多発し、また、9.11米国同時多発テロ事件によって、国際的にテロ対策の重要性が認識され、海事セキュリティに対して関心が高まっている最中、シンガポールでは、官公庁のみならず民間の機関も海上テロ対策を導入している。
 現在、日本では、シンガポールのような制度を導入するに至っていないが、海上テロ対策を急務とし、その具体的方法を模索している私たちにとって、その実態を調査研究することは、港湾セキュリティを課題とする特別研究において、大きな糧となると確信しているところである。
 また、シンガポールでは国際テロに関するサミットが開催されており、日本では困難な、海事セキュリティに関する最新の情報を素早く、正確に収集するのに最適の場所であると考えた。
(2)調査研究対象機関
・PCG(Police Coast Guard)ポリスコーストガード
No5, stadium Lane, Singapore397773
・CISCO(The Commercial and Industrial Security Corporation)シスコポリス
20 Jalan Afifi Singapore 409179
・MPA(Maritime and Port Authority of Singapore)シンガポール海事港湾庁
460 Alexandra Road, #19-00 PSA Building, Singapore 119963
・NMC(Nippon Maritime Center Limited)ニッポンマリタイムセンター
16 Raffles Quay, #27-03 Hong Leong Building, Singapore 048581
 
3. ポリスコーストガード(Police Coast Guard; PCG)
(1)概要
 ポリスコーストガード(Singapore Police Coast Guard; PCG)は、シンガポール警察直属の機関で、170年前に海上警察(Marine Police)として警部1名、巡査12名、伍長2名、2隻の手漕ぎ舟をもって発足した。植民地時代に小さな組織としてスタートし、1993年に海上警察から再編成され現在に至っている。6隻の指揮船(Command Boat)をはじめ、PH、PT、PC、PJ、PK型巡視艇全艇で80隻を超える勢力で広範囲の業務を遂行している。その任務はシンガポール領海内における法令の励行、治安維持および警備実施並びに国家主権の維持である。特殊任務としては、犯罪の防止および発見並びに海上における緊急事態対応時のシンガポール海事港湾庁(Maritime Port Authority of Singapore; MPA)や出入国管理局(Immigration and Checkpoints Authority; ICA)などといった他の海事関係機関の支援がある。PCGは訓練の充実、巡視艇の配備および監視システムの整備を通して、オペレーションの能力が大幅に向上し、ここ10年間で大きな変貌を遂げている。
 
PK Class高速巡視艇
 
PT Class巡視艇(左)とPK Class巡視艇(右)
 
 巡視艇の哨戒海域は、西はSultan礁灯台、東はHorsburgh灯台、北は狭水道ジョホール海峡、南はRaffles灯台にまで及ぶ。シンガポールの領海はおよそ200平方マイルになり、これはシンガポール本土にほぼ匹敵し、日本の琵琶湖程度の大きさとなっている(注:国土は公称700平方キロ)。Kallangにある本部の他に、Pulau Brani、Gul Basin、Seletar、Lim Chu Kangに4つの基地があり、巡視艇は本部を含む5ヵ所に配備されている。それゆえ、事故や非常時の対応という意味では、うまく機能している。これらの基地とは別に、住民や地域密着関連を扱う部署がPulau Ubinに1ヵ所ある。2002年4月現在、上級士官(Senior Officers)49名、下級士官(Junior Officers)663名、常勤NS保安官(NS Full time Officers)350名、NS保安官(NSmen)2119名である。
 1990年代初頭から行動計画の大幅な改善に着手し、物質的な設備の改良に加えて、最新の通信・監視システムの確立、古い巡視艇の退役および最新高性能巡視艇の投入を推進している。通常業務は、一般哨戒、密輸入・密入国の阻止、捜査、捜索、救助である。また、業務内容によっては軍と相互協力をしている。王立マレーシア海上警察(Royal Malaysia Marine Police)、インドネシア海軍(Indonesia Navy)、インドネシア警察(Indonesia Police)のような隣国機関をはじめ、USコーストガード、カナダコーストガード、海上保安庁など世界中の海上保安機関と連携する業務協力体制が構築されている。
(2)最新海事セキュリティ政策(海洋セキュリティ警乗チーム)
 アセット(Accompanying Sea Security Team; ASSeT)は9.11米国同時多発テロ事件を受け、港内の危険物プラントにLPG、LNG、ケミカルタンカー等の危険貨物積載船が突っ込んだときに破滅的な爆発を起こす可能性があること、また大型船が入港時に必要とする水先人は独りであるので狙われやすく、事実の証明をする術が無く、何か起こったときに対応が遅れてしまうことから、その初動対策として当該船にPCGと海軍の混成によるASSeT隊員(武装)を警乗させるというものである。具体的には、目的地までの計画航路から離脱していないかどうかの確認、テロリストによる危険貨物積載船乗っ取りの阻止、水先人の保護、緊急時の応急操船等である。今年4月より活動を開始し、警乗回数を徐々に増加させている。
 ASSeTが派遣される船舶の船主、代理店、船長には、事前にその旨の通報がされる。乗船のタイミングは、入港船に対しては、ASSeT隊員がパイロット艇に同乗し、水先人と同時に乗下船する。出港船に対しても錨地・停泊地から、同じく水先人と同時に乗下船する。ASSeTの身元を確認したい場合は、セキュリティコントロールセンターに電話またはVHF26チャンネルにて連絡をとることができる。
 このアセット政策は、政府高官の特別指示により早期に実行されたもので、後述のシンガポール海事港湾庁(MPA)が陸上での監視を、またPCGと海軍が実働部分を分掌している。ASSeTの運用に関して、特別に根拠となる法令は作られておらず、現行法の中で繰り合わされている。正当な理由なしにASSeTの乗船を拒否する船長には、シンガポール海事港湾庁法(Cap.170A)第53条第2項が適用され、1,000S$(約6万8千円)以下の罰金が科せられる。
 
PCG本部巡視艇桟橋にて
 
(3)質疑応答
Q1 What is the difference between ASSeT and PCG? We have heard that ASSeT is the mixture organization of PCG and the troop. But, just PCG also dose the work regarding maritime security. We suppose there are merits due to the mixture organization. So please tell us the merits.
(PCGとの異なる点は何ですか。私たちはASSeTがPCGと軍隊との混成組織であると聞いています。しかし、PCGだけでも海事セキュリティに関する仕事をしています。混成組織を作るからにはメリットがあると思うのですが、教えてください。)
A1 ASSeT(s) are PCG 25% and the mixed organization of 75% of navies, and the same of the ratio is said of per team. Since there is no large-sized patrol vessel in PCG, a large vessel cannot be navigated. Then, the handling of a large vessel is made possible by constructing the navy and a team.
(ASSeTはPCG25%、海軍75%の混成組織で、その比率は1チーム当たりも同じです。PCGには大型巡視船が無いため、大型船を操船できません。そこで海軍とチームを組むことにより、緊急時の操船等大型船の取り扱いを可能にしています。)
 
Q2 How about scale of your organization? For example, how many constitution dose ASSeT have? What is the upper organization? (A part of PCG? A part of troop?) Please tell us them.
(組織の規模はどのようになっていますか。たとえば、構成職員は何名か、組織としてはどの位置に就くのか(PCGの一部なのか、軍隊の一部なのか)教えてください。)
A2 1 team four to eight persons. A base is Tuas of the western Singapore Island. Overland route movement is carried out from here to a pilot base, and even a dangerous object loading ship takes the advantage of a pilot boat.
(1チーム4〜8名です。基地はシンガポール島西部のTuasにあります。ここからパイロットベースまで陸行し、危険物積載船まではパイロット艇に便乗します。)
 
Q3 Please tell us what kind of equipments dose ASSeT have? In addition, what kind of situation do you suppose?
(ASSeTの装備にはどのようなものがありますか。また、想定している事態はどのような場合ですか。)
A3 challenger, machine gun, HKMP5, FRANTIPL(non-penetrating cartridge).A non-penetrating cartridge is used in order to prevent carrying out a cartridge to a tanker hull.
(チャレンジャー、マシンガン、HKMP5、フレンティープラFRANTIPL(非貫通弾)があります。非貫通弾を使用する理由は、タンカー船体に被弾・貫通するのを防ぐためです。)
 
Q4 How about your budget? For example, what organization dose ASSeT get the budget from? (From PCG, from troop or from other organization?) In addition, how much is your budget? Please tell us them.
(予算についてはどのようになっていますか。たとえば、予算はどこからきているか(PCGからなのか、軍隊からなのか、ひとつの組織としてなのか)、どのくらいの予算がきているのか教えてください。)
A4 PCG contributes 25% and, as for personnel expenses, the navy has contributed 75%. A running cost is investment of 100% navy.
(人件費は25%PCG、75%海軍が出資しています。運営費は100%海軍の出資です。)


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