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 エリア別の全般的な濃着物状況の特徴としては、日本の南の九州エリアは多く、北の北海道エリアは、個数・重量ともに少ない傾向がみられた。
 九州エリア(Aエリア)や津軽海峡沿岸エリア(Dエリア)においては、恒常的に他のエリアより多くの漂着物が確認されており、これら沿岸域への供給源の存在が推察される。
 この海域を流れる対馬暖流は、「海洋のリモートセンシング」(共立出版)によると、東シナ海の黒潮の一部が分岐して対馬海峡より日本海に入り、複雑な経路を経た後、その大部分が津軽暖流として、津軽海峡を経て太平洋に流入する。残りの一部は宗谷暖流として宗谷海峡を経てオホーツク海に入り、さらにその残りはカラフト西岸沖に達した後、沿海州沖に至る。このように対馬暖流は日本海への熱源であり、日本海の海峡を大きく支配しており、対馬海峡を通って日本海に入ってからの対馬暖流の経路は、季節的にも経年的にもかなり変動が大きく、また流速はそれほど大きくないので、一定のパターンを見つけることは難しい。また、流路については、一般的に2つの説があり、第1は日本海のいくつかの暖冷水塊の間をめぐりながら北上する蛇行説、第2は日本海沖を北上する独立した流れの3分岐説と記述されている。
 九州エリアや津軽海峡沿岸エリアは「韓国・北朝鮮」や「中国」起源と推定される海外漂着物が多く確認されており、この調査結果を先に述べた対馬暖流の流れに当てはめ、その供給源及び漂流ルートを推察すると、朝鮮半島周辺で何らかの原因で放出されたものが、対馬暖流の本流に乗り、季節風の影響を強く受けて、先ずは、距離的に近い対馬・壱岐の海域や九州北部に標着し、他は日本の沿岸を北上し島根、石川、富山などに漂着する。更に、日本海の中央を北上したものは、東北地方でも漂着していると考えられ、海流の三分岐説などの仮説と今回のエリア別平均重量の調査結果がほぼ一致していた。
 また、本年度の調査結果からは、日本海に面する沿岸部を中心に大量の漂着物の存在も確認され、その大部分は、生活系廃棄物や漁具類などのいわゆるプラスチック製のものである。海外から遠距離輸送されたと推察される漂着物の8割以上がプラスチック製のいわゆる“廃棄物”であった。これら海外由来と推察されるプラスチック製の廃棄物等は、廃棄物の海洋投入処分を規制するロンドン条約及びこれらを受けた国内法によって、原則として海洋に処分することは禁じられており、これらプラスチック類は海域に不法投棄又は非意図的に流入しているものと考えられ、これらによる日本海における広範囲なプラスチック漂流物の存在も推察される。
 これらプラスチック類は腐食しないので、海洋生態系の物質循環に組みこまれずに、半永久的に環境中に残留し、また漂流しているプラスチック類は風や海流により非常に広い範囲に拡散するものと思われる。
 一方、漂流プラスチック類の海洋生物に与える影響は、主として誤飲・誤食による取り込みや漁具類の絡まり等の物理的な被害が代表的であるが、プラスチック類への有機塩素化合物の吸着やプラスチック素材の海洋中への溶出などによる海洋汚染も懸念される。
 
(4)漂着物のエリア別組成の特徴
 漂着物のエリア別組成の特徴を図3.5-7及び図3.5-8に示す。
 分類別の個数では、エリアF、エリアH、エリアIを除くこのエリアでは、「プラスチック類」が多く確認された。(「プラスチック類」の割合は、エリアF、H、Iでは50%未満とやや低く、A〜E、Gのエリアでは60%以上と高かった。)
 エリアF、Iでは、他のエリアではあまり見られない「ガラス・陶磁器類」が多くみられた。Hエリアでは、「金属類」及び「その他の人工物」が多くみられ、この地域の生活・消費様式を反映しているものと考えられる。(図3.5-8)
 
図3.5-7 海辺の漂着物 分類別平均重量比較
 
図3.5-8 海辺の漂着物 分類別平均個数比較
出典:「海洋のリモートセンシング(共立出版(株)). 1982」より


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