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はじめに
 本報告書は、競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて平成16〜17年度の事業として、社団法人日本舶用工業会が実施した「活性炭素繊維を活用した高機能排煙処理システムの開発研究」事業の成果をとりまとめたものである。
 
 船舶からの排出ガスに含まれるSOX等についての規制を定めたMARPOL73/78条約附属書VIが2005年5月に発効され、これまで国際的な規制がなかった船舶からの排出ガスに関し、初めて規制が導入された。SOXについては、硫黄含有量を4.5%以下(特定海域では1.5%以下)とした燃料を使用するか、または脱硫装置を搭載してSOXを6g/kWh以下にすることが定められている。
 こうした環境への配慮に対応すべく、本事業は、陸用のACF排煙処理装置を船舶用に適用させ、革新的な船舶用排煙処理装置を世界に先駆けて開発することにより、環境問題へ貢献するとともに、IMOに提案を行い、我が国舶用工業の新規需要の開拓に資することを目的として実施したものである。
 
 今回、貴重な開発資金を助成いただいた日本財団にこの場を借りて感謝する。
 
平成18年3月
社団法人 日本舶用工業会
 
1. 調査研究の概要と目的
1.1 開発の目的
 船舶からの排出ガスに含まれるSOX等についての規制を定めたMARPOL73/78条約附属書VIが2005年5月に発効され、これまで国際的な規制がなかった船舶からの排出ガスに関し、初めて規制が導入された。
 SOXについては、硫黄含有量を4.5%以下(特定海域では1.5%以下)とした燃料を使用するか、または脱硫装置を搭載してSOXを6g/kWh以下にすることが定められている。
 しかしながら、今後さらにSOXの規制強化がされるとともに、PM(煤塵)を新たに規制対象に追加することを検討されている中で、現在のところ欧米を含め規制強化に対応した有効な対策が見出せない状況にある。
 こうした状況に対応するため、本事業は、陸用のACF排煙処理装置を船舶用に適用させ、革新的な船舶用排煙処理装置を世界に先駆けて開発することにより、環境問題へ貢献するとともに、IMOに提案を行い、我が国舶用工業の新規需要の開拓に資することを目的とする。
 
1.2 開発の目標
 排煙処理システム出口の排気ガス性状として、以下の値を目標値とした。
(1)SOX 6g/kWh以下(指定海域で要求される脱硫装置の性能以上)
(2)ばいじん 100mg/m3N以下(除去率90%)
 SOXの排出目標6g/kWhはMARPOL73/78条約の中で定められた値であり、一般的な舶用大型ディーゼルエンジンから算出するとSOX除去率は65%になる。ばいじんの排出目標100mg/m3Nは大気汚染防止法に基づいた値であり、ばいじん除去率90%は将来の更なる規制強化に備えた高度な目標値である。
 
1.3 陸用ACF排煙処理装置の概要
 陸用ACF排煙処理装置は活性炭素繊維(ACF: Activated Carbon Fiber)を、排ガス中の硫黄酸化物(SOX)除去用の触媒とした排煙処理装置である。
 ACFは図1.3.1に示すように繊維状で、通常使用されている粒状活性炭と比較して外表面積が大きく、繊維形状の外表面に2nm以下のミクロ孔が均一に発達しているため吸・脱着速度が速く、低温での反応性が良いなどの特徴を有している。SO2除去反応においても、これらのミクロ孔が有効な反応場として作用していると考えられている。図1.3.2にSEM(走査型電子顕微鏡)で撮影したACF繊維と、表面を拡大したものの写真を示す。また、ACFと粒状活性炭の比較を表1.3.1にまとめる。
 
図1.3.1 活性炭素繊維(ACF)の外観
 
図1.3.2 活性炭素繊維(ACF)のSEM像
 
表1.3.1 活性炭素繊維(ACF)と粒状活性炭の比較
活性炭素繊維(ACF) 粒状活性炭
太さ、大きさ 太さ10〜20μm 大きさ1〜3mm
比表面積 700〜2500m2/g 900〜1200m2/g
外表面積 0.2〜2.0m2/g 〜0.001m2/g
細孔直径 2nm以下 -
 
 陸用ACF排煙処理装置では、成型したACFを触媒として使用し、図1.3.3に示すように、反応塔に至る前にSO2を含む高温の排ガスを増湿冷却部に導入し水を散布・蒸発させることで気化熱により冷却する。そのとき同時に、ACF触媒によるSO2除去反応に不可欠な水分飽和の状態を作り出している。増湿冷却後のガス温度は入口ガス温度と水分濃度により異なるが、ディーゼル排ガスの場合には通常50〜70℃の範囲に収まる。
 
図1.3.3 ACFによる陸用排煙脱硫装置の構成
 
 増湿冷却を通過した排ガスは、塔内のACF触媒層を通過する。触媒表面で酸化されたSO2は、触媒上部から少量の水を添加することにより希硫酸として回収される。
 ACF触媒によるSO2除去の反応式は下記の通りである。
 
SO2+1/2O2+H2O→H2SO4
 
 反応のメカニズムは、概略以下の4段階のステップ(図1.3.4)で進行していると考えられている。
(1)ACF触媒上への二酸化硫黄SO2の吸着
(2)排ガス中に残留する酸素O2による吸着したSO2の三酸化硫黄SO3への酸化反応
(3)三酸化硫黄SO3の水H2Oへの溶解反応による硫酸H2SO4の生成
(4)添加水による洗浄による生成された硫酸H2SO4のACF触媒表面からの離脱
 
図1.3.4 ACF触媒上のSO2除去反応の模式図
 
 添加水は、主に、上記(4)の過程のACF触媒表面を洗浄し硫酸の脱離を滞りなく進行させるのに寄与していると考えられる。反応場であるミクロ孔が外表面に直接接していることで硫酸脱離特性が良いこともSO2除去特性の向上に寄与していると考えられる。
 陸用のACF排煙処理装置では添加水および増湿冷却に工業用水を用いる。しかし舶用に適用する際、船舶内では清水の利用可能量が限られるため、工業用水の代わりに海水を用いることが考えられる。増湿冷却水、及び、SO2除去反応の添加水として海水が使用可能となればACF排煙処理装置のための造水装置が不要になるため、系統がシンプルとなり装置及びランニングコストの低減が可能となる。
 
1.4 研究の概要
 本研究は従来の陸用として用いられている脱硫装置に比べて少ない水添加量でSOXや煤塵の除去が可能な活性炭素繊維(Activated Carbon Fiber: ACF)を触媒として利用する排煙処理技術を、舶用機関へ適用し実用化する目途をつけるもので、平成16〜17年度の2ヵ年でシステムの基礎的な確認と陸上試験装置による検証試験を実施し、船舶に適用する際の機器・システムの最適化を図る。


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