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はじめに
 本報告書は、競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて平成15〜17年度事業として、社団法人日本舶用工業会が実施した「超臨界水場エンジンの実用化に関する開発研究」事業の成果をとりまとめたものである。
 
 本事業の背景には、益々厳しくなるIMO等の環境規制の強化、ならびに市場の高効率かつ低コスト要求の増大という事情があり、これらの課題を克服する、優れたエンジンの開発が急務となっている。そこで従来の水噴射方式とは異なり排気ガスの熱を回収して、超臨界水を造り、これをシリンダ内に噴射することにより、NOxとCO2の同時低減を図ることをねらいとした超臨界水場エンジンの開発に世界に先駆けて取組んだ。本開発は、日本の舶用工業界、海運業への貢献はもとより、世界のエネルギー・環境産業への貢献をねらっており、3ヵ年の開発研究により、本システムの原理を実証した。
 
 本事業の実施に当っては、超臨界水場エンジン研究委員会を組織し、委員長に平田賢 芝浦工業大学 学長 を選出して、実施計画の検討・確認、並びに成果のとりまとめを行った。
 
 貴重な開発資金を助成いただいた日本財団、並びに本事業推進にご指導ご助言をいただいた国土交通省海事局へ感謝申し上げるとともに、多忙な中で貴重な時間を割いてご協力いただいた委員ならびに関係者の皆様にはひたすら感謝にたえない。この機会を借りて御礼申し上げる次第である。
 
平成18年3月
社団法人 日本舶用工業会
 
摘要
 本開発研究は、排気ガスの熱を回収して超臨界水を造り、これをシリンダ内に噴射することにより、NOxの低減とCO2の低減を同時に図ることをねらいとしたものであるが、この技術は噴射のタイミング、熱回収の困難さから実用化が難しいと考えられてきた。
 しかし、平成14年度に日本財団助成事業として、日本舶用工業会がFS研究「超高効率・高出力・低公害舶用内燃機プラント開発の調査研究」を行った結果、超臨界水場エンジンの実現が可能であること、また従来エンジンに対し革新的な性能改善を得られる目論見を得た。
 そこで、本事業では平成15年度からの3ヵ年計画で、本システムの原理実証に取組んだ。具体的には450kW/cylの単筒エンジンを用いて実証システムを構築し、超臨界水のエンジンシリンダ内噴射試験を行った。
 平成15年度は実証システムの計画および設計の実施を、ついで平成16年度はシステム製作を行い、平成17年度に実証システム試験を実施した。実証システム試験の結果、超臨界水噴射によりNOxの削減とCO2の低減(効率の向上)を同時に実現することを確認し、本システムの原理を実証した。
 以下に各年度について事業内容の概要を示す。
 
平成15年度事業
 
 平成15年度は、原理実証システムの設計のため、性能評価、および主要構成要素の計画・設計を行った。主な成果を以下に示す。
(1)実証システムの計画と設計
・モデルを作成して性能検討し、出力1.15倍、効率1.08倍を得る目論見を得た。
・性能検討結果をもとに実証システムの仕様を決定した。
(2)コンポーネントの設計および製作
・(1)で決定した仕様をもとに、超臨界水噴射弁を試作した。高圧N2ガスによる噴射試験を行い、噴射弁の特性を把握した。
・(1)で決定した仕様をもとに、排熱回収系の熱交換器の設計を実施した。また高圧給水システムの設計・製作を行った。
 
平成16年度事業
 
 平成16年度は、原理実証システムの製作に取り組み、平成15年度に作成した計画に基づきシステムを製作し準備試験を実施した。主な成果を以下に示す。
(1)コンポーネントの製作と検証
・H15年度の試作およびN2噴射試験結果をもとに、超臨界水噴射弁を改良設計・製作した。
 また超臨界水発生装置についても設計・製作を実施した。
・超臨界水噴射弁の基本的な機能試験を実施した。
(2)実証システム構成要素の設計
・ユーティリティ、計測制御系を設計した。
・機関本体の改造部品として、エンジンカバーまわりの設計を行った。
(3)試験設備の製作
・給水系〜超臨界水発生装置〜噴射弁の総合的な設計/製作を実施した。
(4)準備試験
・H17年度のエンジン試験に備え、超臨界水を生成するシステム全体の機能確認試験、また超臨界水の間欠的な噴射による噴射弁の総合的な特性把握試験を実施した。
 
平成17年度事業
 
 平成17年度は、原理実証システムにて超臨界水噴射試験を実施した。主な成果を以下に示す。
(1)実証システムの検証試験
・実証システムの主な構成要素である、超臨界水発生装置および超臨界水噴射弁の連続作動試験を行い、信頼性を確認した。
・450kW/cylの単筒試験機を用いた実証システム全体の設置および組立を行い、性能検証試験を行った。
(2)実証システムの解析・評価
・検証試験結果をもとに実証システムの性能評価を行い、NOx低減および効率改善のコンセプトを確認した。
(3)実証システムの性能試験
・実証システムにて性能パラメータ試験を行い、本システムの特性を明らかにした。
(4)実証システムの総合評価
・実証システムでの試験結果をもとに本システムの総合的な評価を行った。
・実用化へむけて解決すべき課題をまとめた。
 
まとめ
 原理実証システム試験の結果、超臨界水の噴射によりNOxの削減とCO2の低減(効率の向上)を同時に実現することを確認し、本システムの原理を実証した。一方で、実用化へむけて解決すべき課題もある。下表に実用化課題についてまとめ、主たる課題につき内容を説明する。
 
表.実用化課題まとめ
装置 内容
超臨界水噴射弁 超臨界水射弁の耐久信頼性
超磁歪アクチュエータの作動性向上
エンジン 超臨界水噴射およびサイクルの最適化
超臨界水噴射弁のアレンジ
超臨界水噴射によるエンジン信頼性
排熱回収方法
その他 補機耐久信頼性
配管関連
メンテナンス、運転、制御
 
(1)超臨界水噴射弁の耐久信頼性
 超臨界水噴射によりシート部また摺動部に問題が生じることが懸念される。信頼性確保のために噴射弁の適切な設計、並びに管理規範の構築が課題となる。
 本研究成果をもとにシート部、摺動部を中心とした噴射弁構造の改良、また材料(コーティングも含む)の選定を行い、連続作動試験で信頼性を確認していく必要がある。
 
(2)超臨界水噴射およびサイクルの最適化
 超臨界水噴射およびサイクルの最適化により、目標値の達成が期待できる。
 本研究成果を反映した燃焼シミュレータを構築し、それにより超臨界水噴霧と性能の関係の詳細把握、また最適な噴霧条件を見出すことが必要となる。
 
(3)超臨界水噴射弁のアレンジ
 本試験では1シリンダあたりに2本の超臨界水噴射弁を配置したが、実機の多気筒機関では、超臨界水噴射弁の最小化が必須となる。
 先述の課題(1)、(2)とも関連するが、超臨界水噴射弁を実機アレンジの観点から設計していく必要がある。配管設計も含め、エンジン系と超臨界水噴射系の総合的な設計検討が必須となる。
 
超臨界水場エンジン研究委員会名簿
(順不同・敬省略)
委員長 平田 賢 芝浦工業大学 学長
(東京大学名誉教授、日本学術会議会員)
委員 田中 裕久 横浜国立大学 大学院工学研究科 教授
畔津 昭彦 東海大学 工学部 機械工学科 教授
千田 哲也 独立行政法人 海上技術安全研究所 研究統括主幹
玉井 邦義 (株)ササクラ 機器技術室 技師
伊藤 邦憲 三菱重工業(株) (菱日エンジニアリング 主管)
オブザーバ 西田 建一 国土交通省 海事局 舶用工業課
生駒 豊 国土交通省 海事局 舶用工業課
事務局 山下 暁 社団法人 日本舶用工業会
吉田 英次 社団法人 日本舶用工業会
村上 直 社団法人 日本舶用工業会
磯部 信一 社団法人 日本舶用工業会
神内 邦夫 社団法人 日本舶用工業会
関係者 宮野 弥明 三菱重工業(株)
勝見 政芳 三菱重工業(株)
柚木 晃広 三菱重工業(株)
阿部 晋太郎 三菱重工業(株)


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