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特集「剣詩舞の研究」
石川健次郎
 
「群舞再考」―(一)
〈近頃の群舞は面白い〉
 最近の剣詩舞は大きな会場で催される関係もあり、独舞(ひとりまい)より二人以上で舞う群舞構成が多くなってきた。
 しかしこの様な現象は、以前に本稿の“剣詩舞講座”でも述べたが、単に演舞スペースが広くなったと云うだけではなく、従来の剣詩舞の特質と考えられて来た独舞の様式から、多人数で演じる剣詩舞に色々な考案がなされた事で、舞踊作品としての内容が豊かになり、要(かなめ)となる漢詩や和歌や短歌の解釈も、従来のワンパターンから見事に飛躍して、多くの枝葉を付けたり、また別な観点で構成したり、時には奇想天外な面白味を加えたケースも見られて来た。こうした具体的な構成振付例は省略するが、例えば古くからある群舞形態の“民俗舞踊”や“民謡舞踊”の盆踊りに見られる「集団舞踊」とは本質的に異なり、あくまでも舞踊作品としての創作的価値を持った、現代の観客が喜んでくれる内容や共感を呼ぶ作品を作ることに智恵をしぼって欲しい。
 
〈舞踊の形態〉
 さて次に基本的な舞踊の演技形態の「群舞」についてお浚い(おさらい)して置こう。
 
 上に示したように、舞踊の形態は一人で演じる「独舞」と二人以上の演技者によって演じられる「群舞」に分けられる。但し群舞と云う言葉の量感から、二・三人で演じるときには、日本独特の呼び方で「連舞」(つれまい)と云うこともある。
 次にこの群舞の振付上の区分として、全員が同じ振りで舞う場合を『揃い(そろい)振り』と呼ぶが、または音楽の斉唱(せいしょう)と同じでユニゾンと云う。また演技者がそれぞれ異なった表現に振り分けられて舞う場合は「振り分け」とか「個別振り」と称している。
 
〈揃い振りを考える〉
 吟詠にも「独吟」と「合吟」がある様に、合吟は多人数によって同じ詩文を、同じ節で、同じ音程で、同じテンポで恰も(あたかも)一人で吟じているかの様に吟ずることが大切である。然も合吟することによって独吟とは違った音楽的な厚みや、合吟の仲間が一緒になって吟じる連帯感もないがしろにはできない。
 それでは次に剣詩舞の群舞「揃い振り」について考えて見よう。剣詩舞の場合は、同じ振りを、同じテンポで、然も同じタッチ(演技の強弱)で演じることは、吟詠の合吟に似ているが、片や群舞の揃い振りとなると、舞う人の配置の体形や体形変化が非常に魅力を発揮して、同じ振付の揃い振りとは思えない美しい舞台効果を見せてくれる。
 さて揃い振りの群舞体形で、最も単純なものは「一列横隊」だが、例えば体形変化の例として図(1)に示す様に十名の一列横隊から、最前列に一名、二列目に二名、三列目に三名、最後列の四列目は四名が配置変えして「三角形の立体体形」に移行すれば、次のさし絵の様な揃い振りの迫力を見ることが出来る。
図(1) 体形変化
 
 
 さてこの様に群舞の場合は振付と共に考えなければならないのが、演技者の舞台の配置と体形である。この仕事は振付者によってまとめて掌握(しょうあく)されるものであるが、是非注意して欲しいのが群舞の体形と人数の関係である。一般的に群舞の人数が増えれば、それだけ迫力が増すと決ったものではない。それには舞台の空間(広さ)と演技者の人数の調和や、更には作品内容との関係をよく考慮した体形を選んで、然も刃を扱う剣舞の場合などは舞台上の安全を確保しなければならない。
 次に参考のために群舞の基本体形のサンプルを示そう。
 この基本体形は最初から板付(その場所に止まること)の場合もあるが、前にも述べた様に体形変化の結果として美しいパホーマンスを見せたいものである。
 例えば横隊体形から縦隊体形に変る場合は、写真の様に移動の途中は三人とも揃い振りで、背の高さだけを前の人は低くなるように配慮したい。
 
図(2) 基本体形
 
 
 次にサンプルになかった「円体形」の場合だが、図(3)に示すように、下手から円を描きながら体形をつくる。こうした場合も振付は前の人と同じ揃い振りが無難だが、静止した時点で全員が客席に向きを修正する必要も生ずる。
 
図(3) 円体形
 
 さて以上「群舞再考」の前編は「揃い振り」を中心にした体形について述べたが、揃い振りの細かなテクニック迄には至らなかった。一般論だが“体形変化”の素晴らしさを見せるならば、振付は揃い振り(ユニゾン)で統一した方がよい。
 次回は群舞の個別振りに触れたいと思う。


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