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(4)エッジ波による影響の検討
 実際の海岸で発生する可能性がある沿岸方向の水位の長周期変動を数値計算で考慮できるようにした。ここでは長周期波としてエッジ波を考えた。エッジ波の分散関係は様々な式が考えられているが、実際にはエッジ波の周期を特定できないので、ここでは波長を任意に設定しエッジ波がカスプ上の流れにどのような影響を与えるのかについて検討する。またエッジ波は完全に重複波として考え、その節の位置も任意に設定した。
 エッジ波の影響を計算に組み込むには様々な方法が考えられるが、流れの計算においては砕波位置が問題となるため、ここでは波の計算をする際にエッジ波が水深を増加、または減少させている上に入射波が到来すると考えた計算を行った。つまり波高分布においてはエッジ波の影響を考慮しているが、海浜流の計算では波高分布からの間接的な影響のみを受け、直接エッジ波の影響を加えてはいない。実際の海岸では流れと水位の相互影響もあると考えられるので、実際に今回の計算が現地の現象を正確に再現できているわけではないが、エッジ波について正確な観測がない現在の時点では、エッジ波がカスプ上の流れに与える可能性として捉えることができるだろう。
 用いるエッジ波としてはストークスエッジ波を仮定し、以下式で表される。
 
 
 ここでxは汀線から沖方向への距離である。
 実際の海岸ではモードナンバーが0であるストークスエッジ波以外のエッジ波も存在することが知られているが、モードナンバーを上げるとエッジ波自体の波高分布が非常に複雑になってしまうために、今回はストークスエッジ波とした。また計算ではエッジ波の影響が最も出るように時間をσt=π/2に固定した。
 式(4.20)中の振幅aに関しては、その値を求める式が確立されていないため、今回は入射波との比として設定した。
 
 
 この方法にて波高分布を計算したものが図−2.3.67になる。ここではエッジ波を考慮していない場合の波高分布も示している。ここでの入射波はH=70cm、T=4.0sを用いている。またエッジ波は波長150m、振幅を70cmとし、節の位置は25m、100mと75mごとの地点とした。(a)のエッジ波を考慮していない場合の波高分布を見ると、地形の等高線と比較すると波高分布は等高線とほぼ一致する形で分布しており、波高分布において地形が支配的であることが分かる。一方エッジ波を考慮した(b)では、エッジ波の存在によって波高の分布がやや異なっており、特に波長の長いカスプで顕著にその傾向を見ることができる。これらの波高分布の下で流れの計算を行ったものが図−2.3.68である。完全に循環型を示していた(a)と比べて、(b)の方はエッジ波の影響による波高分布の変化により、波長の長いカスプから波長の小さいカスプヘと流入が発生し、その流れによって離岸流がやや斜め方向へと発生している。
 このように流況の変化がエッジ波によって引き起こされるが、エッジ波の波長・振幅・節の位置をどのように変化させても、波長の長いカスプで離岸流が発生しないという状況は再現できなかった。またエッジ波の流れに対する影響は大きいカスプよりもむしろ小さいカスプのほうで顕著に現れ、大きいカスプはエッジ波の影響を受けにくかった。場合によっては大きいカスプで離岸流幅を狭める効果をする場合もあり、この場合離岸流はますます強くなるという結果になった。
 これらの結果から、現地海岸で観測された隣接するカスプより発生する離岸流は現在の計算ではいかなる外力の変化を想定してもその発生を説明することはできなかった。数値計算では離岸流の発生には地形の影響が最も大きくかかわっており、今回のエッジ波の影響を考慮した計算でもエッジ波が与える影響は流れの方向および流速をわずかに変化させるだけであった。これらの結果を考えると、離岸流を含む浅海域の流れにエッジ波が与える影響は非常に小さく、Bowenら(1969)のエッジ波による沿岸方向の水位の周期的分布が離岸流を引き起こすとの考えには否定的に考えざるを得ない。たとえ沿岸方向に均一な地形が存在し、エッジ波により離岸流が発生したとしてもほとんど流速は発生しないと考えられる。ただし、エッジ波およびそれに起因する流れがカスプの形成過程に何らかの影響を与えている可能性はある。つまりエッジ波により沿岸方向に均一な地形が乱されることで地形が変化し、その地形によって間接的に離岸流を引き起こす可能性は十分に考えられる。
 
図−2.3.67 エッジ波による波高分布の変化
(a)エッジ波を考慮しない場合
 
(b)エッジ波を考慮した場合
 
図−2.3.68 エッジ波による流況の変化
(a)エッジ波の存在しない場合
 
(b)エッジ波を考慮した場合
 
2.3.3 研究結果のまとめ
 本研究では浦富海岸において現地実測を行い、離岸流の発生原因について考察した。さらに数値シミュレーションにて実際に浦富海岸で確認された離岸流の再現を試み、モデル地形を用いて様々な地形性離岸流での流れのパターンおよびそれを引き起こす原因について検討した。またラージカスプについてはその発生機構を流体力学的不安定理論と数値シミュレーションとの比較から検討を行った。これらのことから以下の結果を得た。
(1)浅海域において、水位変動・流速変動には長周期的な変動があることが確認でき、またそれらの間には密接な関係があることが確認された。それらの長周期波は、沖波から直接入射してきた長周期波によるものではなく、沖波のグルーピングによって発生するSet down waveであることが確認された。
(2)数値シミュレーションにより海岸東側の岩礁の近くではSet down waveの影響が大きく現れることが確認された。
(3)現地観測で得られた地形を用いた数値計算を行った結果、数値計算と実測結果は非常によく一致し、数値計算モデルによる再現精度が高いことが確かめられた。
(4)地形性の離岸流は入射波条件および潮位状態によって大きく流況が変化し、場合としては離岸流が発生しない場合もある。
(5)現地観測されたカスプに加えてバーの存在する地形で汀線凸部より発生する離岸流についても数値計算にてその再現が可能である。
(6)地形性離岸流の発生は沿岸方向のラディエーション応力勾配が重要な役割をし、砕波位置の変化によって勾配は大きく変化する。
(7)バーの存在にかかわらず地形性離岸流は波向きが約20°以上となると離岸流は発生せず、蛇行する沿岸流のみとなる。このことは既往の研究に見られる傾向とよく一致している。
(8)地形性の離岸流にエッジ波の影響を考慮した計算を行ったが、エッジ波による流れへの影響は小さく、エッジ波のみで離岸流が発生するとは考えにくい。
(9)カスプ形成の初期段階と仮定した波長振幅比0.1のカスプ上で数値計算を行ったが、この状態はもはや流体力学的不安定理論と数値計算は対応せず、カスプの発達については別の機構によるものである。
(10)カスプ形成の初期段階と仮定した波長振幅比0.1のカスプ上で数値計算を行ったが、この状態はもはや流体力学的不安定理論と数値計算は対応せず、カスプの発達については別の機構によるものである。


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