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2.4 モデル海岸IIにおける研究結果
2.4.1 研究概要
 超音波流向流速計(ADCP)や波高計・電磁流速計などを使用した現地観測は、鹿児島県大島郡笠利町土盛海岸、宮崎市赤江海岸、沖縄県石垣市吉原海岸で実施した。これらの現地観測のうち、土盛海岸と吉原海岸では、岩礁海岸のリップチャンネルとも言えるリーフギャップ周辺での流れに関する観測結果が得られた。しかし、海岸構造物付近の流れを計るためにADCPを設置した赤江海岸では、今年度九州に唯一上陸した台風0514号による高波浪のために海域に埋没し、現状では回収できていない。
 なお、昨年度志布志湾押切海岸で観測された弧状沿岸砂州地形(リップチャンネル地形)は離岸流を発生しやすいことが知られているので、今年度の数値計算に関しては、押切海岸の弧状砂州とほぼ同じスケールの波長400mを持つ弧状沿岸砂州とラージカスプが共存するモデル地形に、一般的な海浜の遊泳利用での上限に近いと考えられる波高1.5mの風波とうねり、および、より発生頻度が高いと考えられる波高0.5mの風波とうねりを、直角入射および斜め入射(波角10°)の条件で海岸に入射させた場合の海浜流(離岸流)の発生状況について計算し、うねり性の波が斜め入射(θ=10°)した場合の方が離岸流の流速が大きくなることが分かった。また、波が弧状沿岸砂州の沖合い斜面で砕ける条件では、砂州沖合いに弧上砂州の半波長スケールを持つ循環流パターンの流れが形成されることが分かった。その結果、弧状砂州内では弧状砂州が沖側に湾曲した場所の背後、つまり、砂州中央に位置するリップチャンネル部分から沖へ流出する。しかし、離岸流が、弧状砂州付近にさしかかると、弧状砂州が陸側に湾曲した箇所から沖に流出することが分かった。ただし、本計算ではリップチャンネルを含む弧状砂州地形が左右対称型のものを用いており、今後、リップチャンネルが斜めに配置された海底地形での計算も行う予定である。なお、平均水位(潮位)が一定として数値計算を行ってあるが、今後、潮位に見合うような水位変動も計算条件に加味した計算を追加する予定である。
 また、本年度は本離岸流研究の最終年度に当たるために、外部への啓発教育も重視された。さらに、海浜事故を低減するためには、海域利用者の情報を得ることも必要である。そこで、主に、救難関係者などを対象としたセミナーとアンケート調査を計7箇所で実施した。
 なお、今年度の現地観測箇所のうち、土盛海岸と吉原海岸は近年海浜事故が起きた海岸であり、事故原因を把握する上でも本調査が役立つことに期待する次第である。
 
2.4.2 現地観測
 平成17年度は、鹿児島県大島郡笠利町土盛海岸、沖縄県石垣市吉原海岸の2箇所で波高計や流速計を用いて現地観測を行った。なお、従来観測を行っている青島海岸に関しては、6月以降複数回視認調査を行ったが、現地踏査時には、波がほとんどないか、逆に、波が大きすぎる状況にあり、離岸流を明確に視認できなかった。従来どおり、現地観測に当たっては、Wave Hunter99Σ(WH-203)、長音波ドップラー流向・流速計 ADCP(Aquadopp Profiler)、HGPSフロート、シーマーカー(染料)、トータルステーション、熱赤外線カメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラ、一眼レフカメラなどの観測機材、および、その他として、ライフジャケット、三点セット、救命浮環、カメラフィルム、デジタルビデオカメラテープなどを携行した。
 
表−2.4.1 現地観測場所
 
(1)土盛海岸(図−2.4.1参照)
 当海岸においては、平成16年8月23日に、中学生1年と小学生1年の姉妹が離岸流と推測される流れにより溺死している。姉妹を救助しようとした男性によれば「現場は川のような流れでまっすぐ泳げない状態だった」とのことである。本証言は、離岸流に逆らって泳ごうとしたことを示しているものと推測できる。
 観測地は、図−2.4.2に示したように砂浜前面のサンゴ礁のリーフフラット(礁原)が幅広く続く海域の中で、一部切れ込んだリーフギャップと呼ばれる地形になっている。このリーフギャップの形成要因としては、背後地に小河川が流入していることおよび、砂浜の下から伏流水が湧出することに伴い、サンゴ礁の成長が阻害され、明瞭なリーフギャップになったものと考えられる。サンゴ礁の発達状況は、図−2.4.3に示すような現場海域の空中写真を見れば明らかである。このような岩礁(サンゴ礁)地帯では、リーフフラットが幅広い部分から多量の海水が砕波によりリーフ上に供給され水位が上昇(セットアップ)し、平均水位の低いリーフギャップから沖に流出する機構と、潮位が下がるときにリーフエッジ周辺は底面高さがやや高いために、溝(水路)状になった部分(リーフギャップ)から海水が流出しやすい機構が考えられる。ただし、発生機構から推定すると、沖向きの流速には前者つまり波のセットアップに起因した水面勾配が起因した流れの方が、より強い流速を形成させるものと推定される。
 なお、このようなリーフギャップは離岸流の発生しやすい典型的な海岸地形で、遊泳上はリスクの高い海岸なので、安全管理が重要な海岸である。ただし、遊泳者の観点からは、リーフフラットのように泳ぎ難くなく、かつ鉛直方向の水深変化があるために多様でカラフルなサンゴ礁や熱帯魚を観察し、また、海底面も砂地なので歩きやすいと言う利点がある。リスクが高いとは言いながら、観光客などの遊泳者をひきつけやすい要因があり、海岸管理者や観光産業従事者による安全管理が強く望まれる。姉妹が溺れた時に救難活動に従事した方の証言として、救助活動時に、本空中写真に示したようなリーフギャップを含む海底地形が、現場の海岸では認識できなかった旨の意見があった。海域利用上はリスクの高いリーフギャップなどは、大潮時の干潮時には視認しやすいが、満潮時には海中に没しているために視認できない場合がある。したがって、現地の地形情報を救難活動時に周知できるシステムの必要性を感じた。
 当該海域では、ADCPを用いた観測を行う前に、予備調査としてHGPSフロートと染料を用いて流況観測を行った。予備調査時には、台風0514号に伴ううねりが来襲する状態であったために、安全管理上、水深の浅い箇所でHGPSフロートや染料を流したことも一因であるが、沖向き流れよりも横向きのフィーダーカレントに相当する平均流速0.89m/s(約1.78ノット)の強い流れが観測された(図−2.4.5、図−2.4.6参照)。
 
図−2.4.1 現地観測箇所大島郡笠利町土盛海岸
 
図−2.4.2 観測地全景
 
図−2.4.3 観測地の様子(拡大)
 
図−2.4.4 事前観測日の波浪の様子
 
図−2.4.5 観測地の様子(拡大)
 
図−2.4.6 事前観測日の波浪の様子


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