2.2.4 精度検証
ラジアルファイルの精度確認は、「2局の短波レーダー観測局で対向する視線方向の比較」、「ADCP観測結果との比較」の二つの方法で検証した。
1)観測局のベースライン上の視線方向流速の比較
2局の観測局のベースライン上(対向する視線方向)では、双方の観測局からほぼ同じ方向を測定している。すなわち、ベースライン上の、両局から同じ範囲のレンジセルでは、同じ観測値を示すと考えられる。観測局の組み合わせによるベースラインの方向、距離及び比較した視線方向を表2.2.4.1に示す。用いたラジアルファイルは、平均化時間を27分、データ間隔は20分とし、方向分解能は1度と5度の両方について行った。距離レンジ500m、方向分解能を5度とした比較範囲のレンジセルを図2.2.4.1に示す。方向分解能1度の場合は、この範囲幅が1/5となり、ほぼベースライン上の位置となる。なお、「孫埼」と「室」の組み合わせによるべースライン方向は、視通不良のため比較から除外した。
表2.2.4.1 観測局ベースラインの視線方向流速比較
観測局 |
方位角 |
距離 |
比較した視線方向(°) |
方向分解能1度 |
方向分解能5度 |
宮の鼻−室 |
241°59′ |
5,514m |
宮の鼻242−室62 |
宮の鼻240−室60 |
網干島−大磯埼 |
183°55′ |
3,922m |
網干島184−大磯埼4 |
網干島185−大磯埼4 |
|
図2.2.4.1 ベースライン視線方向の範囲
ベースラインで近接するレンジセルにおいて、方向分解能を1度と5度にした視線方向流速の比較を表2.2.4.2に示す。方向分解能が1度のケースでは、相関係数の最高値が0.51の値であり非常に弱い相関である。一方、方向分解能を5度にした場合、「宮の鼻」−「室」のベースラインでは、10レンジセル中、6レンジセルで0.6以上を示し、「網干島」−「大磯埼」のベースラインでは、9レンジセル中、6レンジセルが0.6以上である。標準偏差は、方向分解能が1度のケースでは、最小値で29.1cm/sである。方向分解能を5度の場合は、相関係数が0.6以上を示したレンジセルで、15.8〜28.5cm/sの範囲の標準偏差となる。方向分解能が5度のケースで相関の低かった「宮の鼻2.5km−室3.0km」は、水道部の端部に位置しており、僅かな位置の違いでも流況が異なるものと考えられる。また、「網干島」−「大磯埼」のべースラインで相関の低かった「網干島」側は、離岸堤がレンジセル内に位置しており、レンジセルの面積の違いとともに、この影響を受けているものと推察される。
表2.2.4.2 ベースラインの視線方向流速の比較
レンジセル位置 |
方向分解能1度 |
方向分解能5度 |
データ数 |
相関係数 |
標準偏差
(cm/s) |
データ数 |
相関係数 |
標準偏差
(cm/s) |
宮の鼻0.5km−室5.0km |
1021 |
0.01 |
43.5 |
1101 |
0.52 |
15.3 |
宮の鼻1.0km−室4.5km |
950 |
0.21 |
36.8 |
1126 |
0.66 |
15.8 |
宮の鼻1.5km−室4.0km |
963 |
0.44 |
32.4 |
1128 |
0.67 |
18.8 |
宮の鼻2.0km−室3.5km |
1018 |
0.42 |
34.4 |
1149 |
0.64 |
19.3 |
宮の鼻2.5km−室3.0km |
1021 |
0.14 |
46.9 |
1139 |
0.32 |
28.7 |
宮の鼻3.0km−室2.5km |
1045 |
0.32 |
56.4 |
1121 |
0.53 |
29.8 |
宮の鼻3.5km−室2.0km |
1035 |
0.27 |
54.0 |
1119 |
0.63 |
28.5 |
宮の鼻4.0km−室1.5km |
1039 |
0.39 |
42.7 |
1128 |
0.64 |
24.3 |
宮の鼻4.5km−室1.0km |
1023 |
0.51 |
29.1 |
1094 |
0.68 |
18.4 |
宮の鼻5.0km−室0.5km |
454 |
0.37 |
30.7 |
262 |
0.53 |
21.2 |
網干島0.5km−大磯埼4.5km |
896 |
0.08 |
65.3 |
803 |
0.18 |
56.7 |
網干島1.0km−大磯埼4.0km |
961 |
0.32 |
65.0 |
1121 |
0.17 |
38.7 |
網干島1.5km−大磯埼3.5km |
740 |
0.25 |
64.9 |
1433 |
0.56 |
28.3 |
網干島2.0km−大磯埼3.0km |
793 |
0.46 |
47.2 |
1678 |
0.86 |
17.0 |
網干島2.5km−大磯埼2.5km |
1238 |
0.48 |
49.1 |
1887 |
0.81 |
21.5 |
網干島3.0km−大磯埼2.0km |
1710 |
0.47 |
47.9 |
2011 |
0.70 |
24.6 |
網干島3.5km−大磯埼1.5km |
1838 |
0.42 |
48.2 |
2116 |
0.62 |
24.9 |
網干島4.0km−大磯埼1.0km |
2024 |
0.43 |
41.1 |
2201 |
0.71 |
21.5 |
網干島4.5km−大磯埼0.5km |
2214 |
0.51 |
38.9 |
2327 |
0.79 |
19.4 |
|
ベースラインの視線方向流速の相関について、ほぼ同じ範囲のレンジセルとなっている「網干島2.5km−大磯埼2.5km」(図2.2.4.1破線で囲んだ位置)の方向分解能1度と5度の相関を図2.2.4.2に示す。また、この相関の中から7月24日〜25日の2日間の時系列変化を図2.2.4.3に示す。両図とも方向分解能が1度ではばらつきの多い相関となるが、5度にすると比較的安定した相関となっている。ただし、最大流速は1度の方が大きい観測値が得られている。
以上のように、視線方向1度の方向分解能では、相関係数、標準偏差とも低下するが、これは、前述の方向分解能パラメータの検討において示されたように、平均化計算において標準偏差が大きくなり、観測値のばらつきが多いことに起因するものと考えられる。また、最大流速については、5度の方向分解能よりも、明らかに1度の方向分解能に出現している。
図2.2.4.2 ベースライン視線方向流速の相関
(レンジセル位置:「網干島2.5km−大磯埼2.5km」)
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方向分解能1度
方向分解能5度
図2.2.4.3 ベースライン視線方向流速の時系列変化
方向分解能1度
方向分解能5度
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