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2)ラジアルファイルの方向分割と平均化時間
 本研究で使用した海洋短波レーダーシステムは、ラジアルファイル作成のパラメータとして、方向分割は1度と5度、平均化時間は任意の設定となっている。ラジアルファイル作成にあたり、このパラメータの設定値を検討した。
(1)方向分解能パラメータ
 短波レーダーからある方向・距離の位置では、通常、数個の流速データが生成される。これらの値は、平均化処理を行いその場所の代表値として出力される。当海域の観測データから、強流速の出現が予測される地点を選び、方向分解能を1度と5度にした比較を図2.2.2.8に示す。図は5分毎のCSSファイルから、縦軸に視線方向流速とその標準偏差、横軸を時間としてプロットしている。左図は方向分解能を1度、右図は5度で計算したものである。図に示されるとおり、当区域の観測値には非常に大きな標準偏差が認められ、水平方向流速シアーが卓越していることを示唆している。結果として、平均化計算により最強流速は低減化となって現れている。5度の分解能を適用した場合、更にこの傾向は顕著となり、1度の場合に比べ流速値は安定するが、流速は遅くなることを示している。この傾向について、アンテナパターン補正後の短波レーダー観測値と、強流速を観測したADCP観測と比較したのが図2.2.2.9である。この図に示すADCP視線方向流速値は、ADCP観測値を短波レーダー視線方向線上に投影し、短波レーダーと同じレンジ距離(500m)内の流速値を平均したものである。ADCP観測は航行方式でデータを取得しており、500mのレンジ距離を通過する時間は僅か3分程度である。時間の整合を図るため、ラジアルファイルの平均化時間を最小の7分とし、10分間隔の視線方向データを作成した。比較方法は、ADCPの視線方向流速値と、この観測時間の5分以内で直近した短波レーダーの視線方向流速値を比較した。比較結果によると、方向分解能1度と5度の相関係数および標準偏差には大きな差異は認められない。ただし、グラフを見ると方向分解能1度の方が乱れた分布である。また、ADCPの流速が大きくなると、短波レーダー観測値は横這いになり、この傾向は5度の方向分解能では顕著に表れている。
 以上の検討結果から、方向分解能を1度とした場合、5度の方向分解能より強い流れの観測値は得られ、観測値のばらつきは多くなるが、このばらつきは空間的スケールの平均により安定してくるものと考えられる。本研究の目的は強潮流域の流況観測であり、解析の基になるデータとしては、1度の方向分解能が適していると判断される。
 
*図2.2.2.8の観測データ
 
図2.2.2.8(1)大磯局視線方向流速分布及び標準偏差
(赤:視線方向流速、青:標準偏差、左図:方向解像度1度、右図:方向解像度5度)
 
図2.2.2.8(2)網干局視線方向流速分布及び標準偏差
(赤:視線方向流速、青:標準偏差、左図:方向解像度1度、右図:方向解像度5度)
 
図2.2.2.9 強流域視線方向のADCPと短波レーダー観測値の相関
(視線方向:「大磯埼」19度、レンジ距離:3.5〜6.5km、観測日:7月27日、8月8日〜8月10日)


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