日本財団 図書館


巻頭言
発展期に入った海事博物館
海事科学部長 久保雅義
 
 海事資料館が海事博物館になり、昨年10月1日に一周年記念式典を行いました。平成17年度の主立った事を振り返ってみることにする。
 入って正面に大阪から江戸までの航路図がある。これは折り畳んで保管していたために、畳み目が切れそうになっている。この修理、レプリカ造りとデジタル化が学術振興会で予算かが認められた。
 仲島忠治郎コレクション、山田早苗コレクション、神戸帆船模型の会所蔵の帆船模型、これらの特別展示コーナの展示ケースを日本財団から援助いただいた。これで博物館がグーと引き立ってきたように思っているのは私だけではないのではないか。現在博物館展示場に入りきれないものはプレハブ収蔵庫に保管してきた。しかしながらボランティアスタッフに折角磨いていただいたものが隙間から進入する埃でまた汚れ始めている。これをさけるために一号館に部屋をいただいた。効率よく収蔵するために、一号館の部屋は3スパンの続きの部屋にした。会計の方にも随分とお世話になった。これで大型の移動式収蔵庫を導入できた。これも日本財団の補助によるものである。
 外部の方にとっては、多くの紙資料は殆ど見る機会がない。これでは時間が過ぎて劣化を待っているのみとなる。現在ブランティアスタッフ11名の方により、これらの資料が順番にデジタル化されている。海事博物館のホームページは着々とその内容を豊かにしている。これに関しては文化庁より資金援助をいただいている。
 昨年の海の日には「客船の今と昔」と題して特別企画展を行った。この時期は国際海事フォーラムとオープンキャンパスがあったので、相乗効果をねらったものである。まずは第1回目の特別展と言うことで、色々と収穫はあった。これは海事博物館ネットワークフォーラムからの支援をいただいた。
 以上見てきたように昨年だけで4件の外部資金を頂いたことになる。何故だろうかとよく話をする。
 山田早苗コレクションは専門員の内田先生と山田先生との長いつきあいの結果として入ったものと理解している。近々顧問の杉浦先生経由で25隻の帆船模型の寄贈があると聞いている。博物館の名前を信頼して、我々に託してくれたものであると考えている。
 ボランティアスタッフの地道な活動により、紙資料が着々とデジタル化され、ホームページが整備されている。これは外部で関心のある人々には驚きではないかと考えている。正規職員が居ない中でこれだけの実績が上がっていることは凄いことであると思っている。黙々と仕事に勤しんでいただいている先輩方に心より感謝する次第である。
 このような中で資料の整備は着々と動き始めた。私は仕事柄、成長曲線を扱う事が多い。最初は努力してもなかなか成果が上がらないが、あるレベルを超えると急激に成果が上がり始め、そして最終的には飽和すると言う曲線である。これで言えば海事博物館は30年近い助走期を経て、すでに成長期に入ったと見なせる。博物館館長を石田憲治先生にお願いすることができた。
 海事博物館の益々の発展を願っています。
 
博物館1周年記念の式典と行事
 昨年、「海事資料館」から「海事博物館」に名称が改められた。この改名の1周年を記念して、平成17年10月1日に学術交流棟コンファレンスホールにて、日本財団、なにわ海の時空間、深江生活文化資料館、および神戸帆船模型の会、各代表者のご来賓を得て1周年記念式典と記念行事が執り行われた。
 
I. 記念式典
 当日午前中に記念式典が催され、西田修身副学長と石田憲治館長の式辞に続いて日本財団の長光正純常務理事から祝辞をいただいた。引き続いて功労者の表彰式が行われた。(式典進行:山尾総務課長)
 
◇副学長式辞◇
神戸大学副学長 西田 修身
 
 
 みなさん、おはようございます。学長はEUウィークリーの開会式がございまして、多忙なため私が一周年記念の式辞を述べさせていただきます。
 
 本日は非常にすがすがしい秋空のもと、日本財団さんはじめ多数のご来賓の方々、並びに先輩の方々のご臨席を賜りまして海事博物館の開館一周年記念式典を挙行できますこと、本当におめでとうございます。そして、このたび計5回の講演会を計画させていただきまして、非常に記念になる一つの行事だと喜んでおります。
 昨年10月の5日に開館をさせていただいたわけでございます。この海事博物館の源流は、大正6年の川崎商船学校の誕生にさかのぼります。約88年前、今年で米寿でございますけれども、川崎商船学校設立時は、船の模型類、文書類を収集し、学生の教育・参考に供されてきました。さらに国民の海事思想普及のために、高等商船学校、これは大正6年になりますけれども、神戸高等商船学校第2代校長の小関三平先生が力を注がれまして、より充実したものへと発展されてまいりました。そして初代の館長 小谷信市先生、2代目館長 難波松太郎先生らによりまして、学生の協力も得て調査団を結成し、深江丸による瀬戸内海地方を中心に資料収集が始められ、いまなお継続されております。大いに成果を上げております。今日では卒業生の方、特に1期生の方を中心に資料の整備をしていただき、保存に力を注いでおります。心より御礼申し上げます。故に、本館は多数の先輩並びに先生方によって今日の博物館に成れたものと思っております。
 
 約2万点近い所蔵品は本館・分館およびポンドの進徳丸メモリアルに至るまで、一般の人々の縦覧に供しております。主な内容は大和型帆船模型、航海用器具、レシプロ機関模型など広い分野に渡っております。さらに航海の日々を慰め雄偉の心を育てた船歌等が収録されています。そして昨年の10月、芦屋在住の山田早苗先生より戦前、戦時中の日本商船4,600隻の船舶資料および100隻の船舶模型をご寄贈いただき、博物館の充実に努めております。まさに産官学民のお力添えを得て今日に至っております。今後とも厚いご支援、ご助言を賜りますことをお願い申し上げます。
 
 さらに、法人化後の博物館につきましては、やはり独立・独歩が大事でございますので大いにアピールをさせていただき、博物館が何らかの果実を生み出せるよう努力したいと、このように思っております。
 以上をもちまして、式辞とさせていただきます。
 
◇館長式辞◇
海事博物館館長 石田 憲治
 
 
 本日(平成17年10月1日)から館長の重責を担うことになりました。
 
 今日ここに、日本財団常務理事長光様並びに関係ご来賓各位をお迎えして、海事博物館改名一周年記念を祝うことができますことは偏に関係者並びここに居られる皆さんのおかげです、どうも有り難うございます。同時に本日から3週間、博物館所蔵資料に関する第1回の講演会を行いますが、講師の先生には重ねて感謝いたします。
 
 昭和42年に現在に地に、神戸商船大学海事資料館が開設してから40年近くが経ちました。当初は西日本を中心とした海事資料の収集と保存が活動の主であり、本学教官や学生の研究資料としての活用は少なかったようです。
 
 11年前の阪神淡路大震災の折に博物館は所蔵品、展示ケース、保存棚の多くに被害を受けました。これら被害受けた資料等を修復する過程で、資料の永久保存の方法として、デジタルカメラを使って映像によるデータベース化と全国に散在している海事資料とのリンクを目的としたアーカイブ化を積極的に進めてきました。また、比較的破損や被害が小さかった飼料の修理・修復を神戸商船大学OBのボランティアによって昨年度終わることができました。
 博物館資料そのもののほか、仲島忠次郎コレクションの13,890点におよぶ目録作成、4,500隻にわたる山田早苗コレクションのDB化のために、ここ4、5年は多くの労力を使っています。これらの成果が今日の日本財団、日本学術振興会の科学研究費、文化庁からの支援等が得られる基になったものと思います。
 
 海事科学部は神戸高等商船学校、神戸商船大学に端を発しております。また、深江キャンパスの図書館蔵書の中で年代が古いものはそれ自体が海事科学史また社会科学史資料としての価値が十分あります。社会に対して、大学が有する博物館の役割には、
・歴史的資料の収集、整理、保存
・収集資料の公開
・収集資料を基にした研究、それら成果を社会への反映
・他機関との研究ベースでの連携
等が考えられます。
 
 本学部博物館の現状は、資料の収集、整理、保存そしてやっと社会へ公開できる段階まで来ていると思います。
 今後は、大学である以上、博物館、図書館を中心とした「海事歴史・文化、海事技術、海事社会経済」に関する研究調査が可能な「研究センター」としての役割を有する博物館を目指すことができないかと考えております。その根拠は現在深江にある資料類として、
・学部図書館自体が海事関連蔵書の宝庫
・旧海軍造機資料としての渋谷文庫(これの目録作成事業を通して他機関が保存している海軍資料の所在が明らかになった)
・博物館は和船や江戸、明治の海運資料の宝庫
・仲島忠次郎コレクションは世界の海運界の盛衰資料が豊富
・山田早苗コレクションは日本商船建造資料と戦没状況資料が豊富
・大阪一江戸間の大型航海図のDB化をはじめとして江戸期の航海状況の地史学的比較可能な絵図資料の蓄積
・バーチャルミュージアムの構築
等を挙げることができます。これらは、私達が有する有形無形の資料やノウハウ、また研究・調査能力のポテンシャルであります。
 
 今後これに、例えば昨年閉鎖された「海事産業研究所」が有していた明治からの海運産業の資料、又造船界が運営していた「日本造船資料センター」の貴重な資料等を、ここ深江の博物館分室として譲り受けるなど充実を図ることができたら、現在アジアの海運は勃興期にありますが、彼ら研究者にとってアジア海運のルーツ資料として活用できます。前述した「研究センター」を神戸大学の独立研究機関、例えば「アジア海事産業研究センター」みたいなものに行きつけばと個人的な夢を抱いております。
 
 最後に、多くの博物館来館者の子供達は将来海外に飛躍するような「夢」探しに、教員や学生は自らの研究の資料探しに、学外からは自分の住む町の地名由来やライフワークの資料探しのために集まる「場=サローン」になるような「夢多い」博物館になれたらと思っております。現博物館の充実化、そして「夢」実現のために皆さんのご協力を切にお願いして挨拶とします。
 
◇来賓祝辞◇
日本財団 常務理事 長光 正純
 
 
 ここに神戸大学海事博物館一周年記念式典が開催されましたことを心からお祝い申し上げます。日本財団は競艇の売上げの一部を利用させていただき、海事博物館ボランティアのための実技トレーニング、新規展示コーナーの開設と特別展の開催に微力ながら協力させていただいております。
 本日は神戸大学海事博物館の意義について、日本を海洋国家としたうえで、お話させていただき、祝辞にかえさせていただきたいと思います。「海洋国家日本」という言葉がありますが、日本人はその名のとおり昔から海とともに生きてきました。古代の時代から、海の恵みは私たちの食をみたし、物や人そして文化までもが海を渡って、私たちの日常生活を形成しています。巷では、ITの時代といわれていますが、どんなにインターネットが普及しても、インターネット自体が一億二千万人分の食料や生活用品を海外から運ぶことはできません。やはり、経済面と生活面から見ても海が日本人の生活を支える基盤なのです。
 しかし、残念なことに、これだけ海運、つまり海や船が日本人の生活に大きな影響を与えているにもかかわらず、現代に生きる私たちの海事に関する意識は高いとはいえません。どれだけの国民が、例えば日本周辺の海洋事情や造船業について正しい知識を有しているでしょうか。「水族館へ足を運んだことはあるが、海事博物館には一度も訪れたことがない」という日本人も多いと思います。
 忘れてはならないこととは、戦後の海洋国家日本の基礎とは、古来より脈々と受け継がれてきた日本人の造船技術や海に関する知識に他ならない、という点です。そして、この神戸大学海事博物館は海洋国家日本の基礎ともいえる多くの展示品、例えば、戦前の船旅資料を集めた仲島忠次郎コレクション、商船の模型や写真集などを有する山田早苗コレクション、そして和船に関する部品や資料等を展示し、海洋国家日本のDNAを私たちに再認識させてくれる大変に貴重な海事博物館なのです。
 
 神戸大学海事博物館は日本国内でも数少ない大学所属の海事博物館であり、大学という教育機関が、このような貴重な展示品を公開し、海事の研究に役立てて下さっている点に、私は大いに期待しております。かつて、幕末に勝海舟が設立した「神戸海軍兵学所」から坂本龍馬や陸奥宗光といった新しい時代を作り上げた人物が輩出されたように、この神戸海大学事博物館を通じ、21世紀の海洋国家日本のリーダーが生まれることを心より願っております。
 
 最後になりますが、今回の事業以外にも、日本財団は神戸大学様と「港湾都市文化の創生プログラム」という大変珍しい研究にも協力させていただいております。また、この10月から、日本財団寄附講座という形で「統合海洋学―海をめぐる人・社会・自然―」をテーマに15回に渡る講義を神戸大学の学生を対象に行います。「港湾都市文化の創生プログラム」、「日本財団寄附講座」そして神戸大学海事博物館が日本の海事文化に大きな影響を与え、今後の発展に寄与することを望むばかりです。終わりにあたりまして、本日ご参集の皆様方のご健勝と、神戸大学海事博物館のご発展を心よりお祈り申し上げ、挨拶とさせていただきます。
 
◇表彰状贈呈◇
 海事資料館時代の資料収集及び整備に多大な貢献をされた、神戸商船大学名誉教授の松木哲顧問と杉浦昭典顧問に久保学部長から功労賞が贈呈された。
 
 
II. 記念行事(記念講演会)
 毎土曜日3週にわたって5テーマの講演が行われ、延べ人数約224名の多くの参加者を得た。講演会の演題と講師は次の通り。
 
 
第1回「和船と模型」 10月1日(土)13:30
講師 松木 哲(神戸商船大学名誉教授)
第2回「朝顔丸船首像と船体装飾の歴史」 10月8日(土)13:30
講師 杉浦昭典(神戸商船大学名誉教授)
第3回「仲島仲次郎コレクション」 10月8日(土)15:30
講師 石田憲治(海事科学部教授)
第4回「古代・中世の和船と航路」 10月15日(土)13:30
講師 高橋昌明(文学部教授)
第5回「山田早苗コレクション」 10月15日(土)13:30
講師 内田 誠(海事科学部助教授)
 
 この内、第2回、第3回、第5回の講演内容は当年報に掲載されている。第1回の内容は都合により次年度に掲載予定であり、第4回講演の一部は昨年度の年報に掲載されている。


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