日本財団 図書館


災害時医療支援船構想報告講演会
首都直下型地震と医療 2月12日
ごあいさつ
都市型災害対応に望むこと
日本透析医学会理事長
斎藤 明
 
 私どもとくに透析患者さんの生命予後を出来るだけ長くする、あるいはQOL生活の質をより高くするということに関しまして、とくに学術研究的なところから貢献したいと、それを通して社会に広く貢献させていただきたいと日々活動をさせて頂いております。
 おかげさまで患者さんのご努力もありまして、我が国の透析患者さんの生命予後は国際的に見て最高の到達点に達していると思います。そういう意味では日本の透析患者さんの現在の治療内容は、まだまだ患者さん自身にはご不満がいろいろあろうかと思いますが、国際的に相当優れた医療を受けておられると言うことができると思います。
 しかしながら、そうした状況であっても一旦自然災害が起こったならば、あっという間に大勢の方が治療を受けられない状態、或いは生命を全う出来ない状態になるということを私どもも学会としても大変危惧しておりまして、透析医会さんと共々この問題について真剣に取り組もうと考えて行動に移しているところです。
 ただし学会、医会だけでは出来るものではございません。とくに地震に関しましては都市の通路が閉ざされるわけですから、当然海からの援助と支援と、そういうものが大きな意味を持つわけです。海からの支援は既に阪神淡路大震災で一定の成果を上げていると聞いています。それを全体に発展させて普及させていく、そういう事を日本の中で構築することは大変有意義であると思います。
 ですから単に一透析医療の問題ではなくて、この問題をきちっと位置付けることは日本における災害時の医療をどうするのかということに関するかなり根幹的な意味を持ち合わせるという意味で、非常に意義あることだろうと思っております。引き続き私どもは、他の皆様方と力を合わせて着実にこのようなシステムを作るべく努力させていただきたいと思います。
 
問題提起
首都直下型地震とは何か?その時医療は何をなすべきか?
日本透析医会
災害時透析医療対策部会
赤塚 東司雄
 
【問題提起の要約】
 「東京都が被害を受けると言う事は一体どういう事になるのか、東京都というメガロポリスに首都直下型地震というものが如何に切迫しているか」をイメージしていただくのが問題提起の骨子。東京都直下型は最悪の場合で大体7000人くらいの死者が発生するであろうとされている。しかしこれは災害の直接死。災害関連死も含めてではない。
 阪神大震災の時も新潟県中越地震にしても、災害直接死よりも災害関連死、災害によって命を脅かされる慢性疾患患者さんとか高齢者の方々がその後1年間で亡くなる、といったことが非常に多い。東京都というのは人口の非常に多く、当然日本で1番たくさん高齢者が住んでいてその数は190万人。高齢者は基本的には何らかの慢性疾患を持っていて、非常にリスクの高い人達が沢山住んでいる都市が東京都である。
 首都直下型地震のもう一つのイメージは「圧倒的な被災規模があること」。死傷者、帰宅困難者、被災地街地、それがもう圧倒的な規模になり、通行不能な道路網がものすごく沢山増えるということ。そして「日本国の首都としての政府そのものが被災する」こと。
 こうした場合、災害時医療は何をなすべきか。急性期災害医療と、災害時の慢性期疾患の対応との2つがどうしても必要になる。そして医療の供給として被災地内の対応。被災地以外からどのようにネットワークを持って来て救うのか。被災地以外へ搬送するにはどうするか。恐らく全てはロジスティックというものが鍵を握るのではないか、これが「都市直下型地震とは何か?その時、医療は何をなすべきか?」と言う課題の問題提起になる。
 
報告1
東京都の透析施設における災害への取り組み
東京23区における取り組み
東京女子医科大学
腎臓病総合医療センター教授
秋葉 隆
 
【報告の要約】
 災害時に「その施設がお互いに協力し合って何をすべきか」、「災害地外の所にどんな情報を発信して、何を期待し、何をしてくれるのか」を話したい。透析と災害について考える原点は、阪神淡路大震災にある。この時、透析を受けていた患者さん達は、電話が通じず、施設ももぬけの殻で、「今日の、明日の、明後日の透析を一体どうしたら良いんだろうか」ということにとまどわれた。新潟県中越地震の時は、現地と周辺の先生方がコミュニケーションを取り合って、約300人の患者さん達をどこで透析をしようかと相談し、そのほとんどはバスで移動させた。患者さんの直接の被害、「透析が出来ない」という被害を最小限に抑えることができた。
 そこで東京で起きたとき何が大切かと考えた。患者さんが、自分自身を災害から守る強い患者さんになって欲しいという患者さんに対する教育、透析施設間の連絡、そして日頃からやっておくべき事。この中で最後に出て来るのはやはり相互の透析施設間の連絡と協力、そして施設外への発信ということになった。
 そうしたことから昨年7月に東京23区において二次診療医療圏をブロックとして7ブロックを組織しネットワークを作った。そこで「透析患者さんを守るために私達はこれだけのことをしている。国、束京都、県もこれだけのことをやって下さい」という情報発信をし、しっかりとした対応をとって頂くのが、このネットワークの目的となる。また、周辺との関連を高め、患者さんの移動も含めた対策をしっかりとるということが大切。その中で東京都の区部の災害医療ネットワークが情報の発信源として役立っていく。自分の施設が壊れてしまってアクセス出来なかった時、隣の施設なり、周辺の施設なりにお願いをするということも出来るし、更に透析医会、国や県といった公助と一緒になって、その透析医療を充分供給出来るのではないかと期待している。
 
東京都区部透析医療災害ネットワーク組織の構成
 
報告2
東京都の透析施設における災害への取り組み
東京三多摩地域における取り組み
日本透析医会専務理事
杉崎 弘章
 
【報告の要約】
 去年の段階で47都道府県の内、44都道府県からメールアドレスを提示してもらい全国的に情報が流れると言うような体制が出来あがった。
 透析に関するネットワークとしては、日本透析医会の全国的なネットワークと、東京都の区部のネットワーク、それから三多摩のネットワークなど地域のネットワークがつながっていくことがよいと考えている。透析医会の災害支援システムは3つの災害情報ネットを持っていて「一般が参加出来るホームページ」「会員を中心にしたネットワークのメーリングリスト」さらに「行政を中心にして透析医療の災害対策のメーリングリスト」の3つで情報を収集して、それで災害対策を講じて、そして患者様に支援をしていこうと考えている。患者さんに対しては情報の透析患者カードというのを作成してデータを1年に1回、或いは1年に2回その施設で書き変えている。また東京都と協力して透析患者さん用の「防災の手引き」というのを作っている。
 患者搬送に関して内陸部の三多摩ではどうしても陸路を確保していかなければならない。したがっては事前登録の「交通規制除外車両」という制度を使うことを検討している。
 今後の課題として、区部と三多摩と一緒に情報伝達の訓練をやっていきたい。また首都直下型地震では区部の被災が予想されるので、三多摩の方はその区部の方を受け入れるというような形で、三多摩の施設のどこかがコーディネイト出来るというような体制を作って行きたい。
 
講演1
東京都における災害時の医療に対する取り組み
都市型災害をふまえて
東京都福祉保健局
医療政策部部長
丸山 浩一
 
【講演の要約】
 東京都三多摩地区においては昭和54年につくられた研究会をもとに発展的に先駆的にネットワークまでこぎつけ、平成の11年には合同訓練も行った。一昨年16年には23区7ブロックでネットワークを構築した。東京都は全庁的に都知事が本部長になる会議、それから局長クラスによる危機管理官制度があり、各局対応というような部署もある。
 都の防災体制の中で、各市町村や関係機関と共同して進める東京都の災害医療のフローは下記に示す通りである。直下型地震では「7000人規模で亡くなり、3000数百人を病院に搬送」という想定をしている。また、平成16年に発足した災害医療派遣チームの東京DMATの活動の活動体制を紹介。
 さらに東京都の場合、二次医療圏として23区で7ブロック、全部で13ブロックに二次医療圏が分かれている。また災害医療機関は現在65になる。
 実際の災害現場では区市町村が医療救護所を設営して負傷者のフォローにあたる。搬送については「航空機における医療搬送業の協力に関する協定」を結び、医薬品、医療機材など災害用救急医療資機材の備蓄が進められている。
 これまで疾病対策課の腎不全対策分科会が進めてきたマニュアルづくり、研修会、合同訓練等の取り組みをもとに「腎不全の患者さん方に対してどういう体制作りをその災害時に対してやっていけばいいか」を検討、とくに情報収集・提供として「東京都として保健政策部疾病対策課でこの情報を全部逐一するのはなかなか難しいが、東京都消防庁からリアルタイムでかなり詳細な情報は入ってくるので、それを透析医会の方に情報として提供させて頂く総合連携をとっていきたい、そのなかで透析患者さんの災害時における連絡会ということで、23区、それから先駆的に進めてきた三多摩の2つのネットワークを通して都民がアクセスをして情報を共有して頂きたい。」
 
(拡大画面:326KB)
 
再び問題提起
慢性疾患患者に対する災害対策に何が求められているか
日本透析医会
災害時透析医療対策部会
赤塚 東司雄
 
【再び問題提起の要約】
 後半の問題点はこれまで話されてきた「実際の首都圏での直下型地震が起きたらどのようなことになるのか。」「それに対して透析医会や東京都はどのように対応を考えようとしているのか?」から「実際、慢性疾患患者に対する災害対策で何が必要とされているか?」に論議を移す。これまで日本の災害医学は地震津波等の巨大災害には直接被害や対策のみで、レスキュー隊が被災患者を救出し治療するイメージしかなく、その背後にいる何10万人の慢性疾患の患者さんに対して思いを及ぼすという事がなかった。兵庫県透析医会による調査によると、阪神大震災後の1年間で透析患者の総死亡率は前の年より30%も増えている。これは災害がなければ、そのような多くの方が亡くなったはずがないと考えられる。新潟でも災害直接死より関連死の方が多かったという事実がある。ここで再び災害時慢性疾患対応の重要性を認識し、もっとも災害弱者である身体障害者、要介護支援者に対し「災害時医療は何をなすべきか?」を考えたい。
 
■災害時医療支援船構想報告講演会
『首都直下型地震と医療』DVDのご案内
 この報告講演会で話された報告、講演はすべてDVD『首都直下型地震と医療』に収められています。この報告集では紙面の都合上、要約のみを掲載していますが、是非、DVDをご覧になってください。
 


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION